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選挙中は野放し 政治活動との線引き課題

東京都知事選に立候補し、民団中央本部前で演説する桜井誠氏=東京都港区で2016年7月15日、後藤由耶撮影

 在日コリアンなどへの差別や排除をあおるヘイトスピーチの対策法が施行されて、3日で3カ月が経過した。同法に罰則はないが、行政や司法に従来より踏み込んだ対応を促す効果を上げている。その一方で、選挙の立候補者が演説で差別的言動を繰り返すなど想定外の事態も生じ、「政治活動や選挙運動の自由」との線引きという難題が浮かんでいる。

 自治体や警察はこれまで、表現の自由との兼ね合いからヘイトスピーチの規制に消極的だった。その流れを対策法が変えた。

 ヘイトデモが予定されていた川崎市では、対策法の施行を見越して市が5月30日、公園の使用を許可しないことを決めた。施行前日の6月2日には、横浜地裁川崎支部が在日コリアンの多いエリアでのデモを禁じる仮処分を決定した。7月には福岡地検が、在日コリアンを中傷するビラを商業施設のトイレに張っていた男を建造物侵入罪で起訴。「対策法の趣旨に照らした」と立件の意図を説明した。

 ところが、7月の東京都知事選では、ヘイトスピーチを繰り返してきた「在日特権を許さない市民の会(在特会)」の元会長、桜井誠氏(44)が立候補。在日コリアンの多い新宿区の新大久保や港区の在日本大韓民国民団(民団)中央本部前で「犯罪韓国人たちを日本からたたき出せ」などと訴えた。

 ヘイトスピーチを繰り返す集会やデモには近年、「カウンター」と呼ばれる市民たちの反対運動が活発化している。だが、憲法は政治活動の自由を保障し、公職選挙法は候補への暴行や演説の妨害など選挙の自由の侵害を禁じ、4年以下の懲役・禁錮か100万円以下の罰金を科す。

 桜井氏はこれを念頭に、街頭で「(選挙期間中は)無敵だ」と宣言していた。その言葉通り、在日コリアンを侮蔑する“選挙演説”に、取材した限りで目立った抗議の声は上がらなかった。

 「選挙運動」というヘイトスピーチ規制の抜け穴を、どうすべきか−−。専門家たちの見方は一様ではなく、悩ましげだ。

 在特会問題に詳しいジャーナリストの安田浩一さんは「選挙演説にもヘイトスピーチ対策法の理念を積極的に適用すべきだ。選挙活動に限ってヘイトスピーチが許されていい、ということなどあってはならない」と指摘。「選挙運動に名を借りたヘイトスピーチは今後も起こりうる。早急に総務省や法務省はこの問題に取り組むべきだ」と訴える。

 一方、西土(にしど)彰一郎・成城大教授(憲法)は「有権者に判断材料となるあらゆる情報を提供するため、選挙運動の自由が公選法で保障されている。基本的には候補の表現内容に規制を加えるべきではない」と慎重な立場だ。とはいえ、選挙運動だとしても外国人の人権を侵害するような言動は許されないとして「法務省が勧告を出したり、政府から独立した人権擁護機関を作ったりして問題に対処すべきだ。マスコミも堂々と批判を展開すべきだ」と指摘する。【伊藤直孝、小林洋子】

 【ことば】ヘイトスピーチ対策法

 正式名称「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」で今年6月3日に施行。ヘイトスピーチを「差別的意識を助長・誘発する目的で、生命、身体、自由、名誉、財産に危害を加えると告げることや、著しく侮蔑するなどして、地域社会からの排除をあおる差別的言動」と定義。差別解消のための教育や相談体制の整備などを国の責務とし、自治体にも解消に向けて努力義務を課す。

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