日露交渉 首相の戦略が問われる
ロシアのプーチン大統領が12月、2005年以来11年ぶりに日本を公式訪問することになった。北方領土問題を抱える日露関係を新たな次元で再構築することを目指し、プーチン氏と頻繁に会談を重ねてきた安倍晋三首相の戦略が問われる局面に入ったと言えるだろう。
第1次安倍政権時代も含めて14回目となった安倍・プーチン会談は、ロシア極東ウラジオストクで開かれ、通訳のみを交えた55分間の協議を挟んで3時間10分に及んだ。安倍首相は会談後、北方領土問題の打開に向けた「新しいアプローチ」について「交渉を進めていく道筋が見えてきた」と手応えを語った。
ロシアのラブロフ外相は、ロシアが過去に何度か提案した北方領土での共同経済活動について、「日本側に協議の用意があると感じた」と語った。日本側は否定したが、それだけ突っ込んだやり取りがあったことを示す発言だとも取れる。
第二次世界大戦後、領土問題は日露関係の大きな障害になってきた。しかし、日露経済協力の潜在力や、台頭する中国をはじめとする安全保障上の懸念など、日露の利害が一致する点もある。あらゆる分野で総合的に協力を進め、その中で領土問題を解決していこうというのが安倍首相が描く対露戦略だ。ロシア政府主催の「東方経済フォーラム」で安倍首相が、ウラジオストクで毎年1回、定期的に首脳会談を開くことを提案して未来志向の日露関係構築を呼びかけたのも、その表れの一つだ。
協力の機運を高めれば、領土問題の解決と平和条約締結交渉に弾みをつけることにつながる。今年は第二次世界大戦後、両国が国交を回復した日ソ共同宣言から60年の節目になる。安倍首相が地元の山口県長門市にプーチン氏を招くのも、日露首脳の政権基盤が安定している今だからこそ首脳同士の話し合いで領土問題の打開への道を切り開ける可能性があると自覚しているからだろう。
ただ日本は対露協力で慎重さも求められる。ウクライナ南部クリミア半島の一方的編入などに対し、日本も欧米と協調して対露経済制裁を科している。ロシアには日本への接近で対露包囲網を揺さぶる狙いもあるだろう。12月の首脳会談を、地方での開催でも「公式会談」とするよう求めた狙いもそこにあるのではないか。日本は改めて、力による現状変更を容認しないという点で欧米と同じ立場だということを明確にしたい。
日露関係を前進させようという機運は高まってきた。これをどう成果につなげていくかが重要だ。経済協力ばかり進んでロシア側のペースにならないよう、戦略を組み立てていくのは安倍首相の責任だ。