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【社会】

「待機児童と違うのか」 「潜在」6万7354人 自治体内訳公表

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 希望しても認可保育所などに入れない待機児童の人数について、厚生労働省は二日、四月一日時点で二万三千五百五十三人だったと発表した。昨年同期より三百八十六人多く、二年連続の増加。保護者が育児休業中であることなどが理由で集計から除外されている「潜在的待機児童」は、昨年より約八千人多い六万七千三百五十四人で、自治体別内訳も初めて明らかにした。 

 待機児童の全体像の公表は大きな一歩。この数字を基に、保護者の実感や願いに応える保育政策にかじを切れるかが問われる。

 潜在的待機児童数は東京二十三区と横浜、川崎市だけで二万一千二百三十六人と全体の三割超を占めた。待機児童数が千百九十八人と全国最多の東京都世田谷区は、潜在的な待機児童を含めると計二千三百八十九人で、両方を合わせた全国最多は横浜市の三千百十七人となる。

 待機児童から除外されているのは(1)都認証保育所など自治体が補助する認可外保育施設を利用(2)保護者が育休中(3)特定の保育所などのみ希望(4)保護者が求職活動を休止−などのケース。見掛け上の数字が減り、実態を表さない統計となっていた。除外するかどうかは各自治体が判断するため、発表された待機児童数はゼロなのに、実際には多くの子が保育所に入れない事態が起きていた。

 厚労省は待機児童の定義を統一する方針で、今後、人数が膨らむ可能性がある。自治体からは肯定的な声と戸惑いが交錯している。

◆「行政の都合」理不尽

 希望する保育所に入れないのに、待機児童にカウントされない「潜在的待機児童」。その立場を経験した保護者らは「『待機』とどこが違うのか」と理不尽さを訴える。

◆育休中 

 東京都杉並区に住んでいた団体職員の女性(32)は、ゼロ歳の長男を四月から認可保育所に預けたかったが入れず、育児休業を延長中だ。同区は申込者の半数しか入れない激戦区。来年も難しいと判断し、比較的入りやすいと聞いた北区へ引っ越した。それでも年度途中では空きがなく、来年四月の入所を目指して保育所巡りや情報収集など「保活」をしている。

 保護者が育休中だったり育休を延長したりすると、自治体によっては待機児童に数えない。女性は「希望した保育所に入れない時点で、立派な『待機』では。自治体が保育を提供する義務を果たせないのを隠すため、都合のいい数字にしている印象」と話す。

 板橋区の元パート保育士高橋ゆかりさん(36)も、三女が一歳になった一昨年秋に認可保育所に入れず、育休を半年延長。それでも入所できず、退職に追い込まれた。「子どもが好きで保育士になったのに…。うちの状態が待機児童の家庭とどう違ったのか、分からない。待機児童の数をできるだけ少なく見せるための分け方だと思う」

◆認可外保育施設 

 長男(1つ)のいる杉並区の会社員女性(30)は昨秋、認可保育所三カ所に申し込んだが入れず、職場に近い区外の認可外保育施設を利用している。都が独自に補助する認証保育所だ。

 毎日、体重八・五キロの長男を抱っこひもで抱え、仕事用と子ども用のかばんを両手に提げ、満員電車に十数分間揺られる。「体力的にきついし、長男が騒いだらとヒヤヒヤする」

 利用する認証保育所は、ビルの一室で園庭がない。散歩に連れ出すなど工夫してくれているが、動きが活発になる三歳を過ぎても通う子どもはいない。女性も、認可保育所の空きを待ち続けている。

 それでも待機児童とはみなされない。「必要な保育所をつくる行政の計画から漏れているのではと心配。うちのような子どもたちを外してきた結果として、潜在的待機児童が増えたのだろう」 (増井のぞみ、奥野斐)

 

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