中学生棋士、天才の系譜 最年少14歳2カ月棋士誕生
初の中学生棋士は1954年に棋士になった加藤一二三九段(76)だ。14歳7カ月での四段昇段は、藤井に破られるまでの最年少記録。加藤はプロ入り後すぐに頭角を現す。名人戦の予選で棋士の格付けにつながる「順位戦」では一番下のクラスのC級2組から4年連続で昇級。最年少18歳で最高峰のA級に到達した。
プロ入りの年 | その後の実績と通算タイトル獲得数 | |
加藤一二三 九段(76) | 1954年 (14歳7カ月) | 20歳での名人挑戦は最年少記録。8期 |
谷川浩司 九段(54) | 76年 (14歳8カ月) | 21歳で最年少名人、永世名人。27期 |
羽生善治 王座(45) | 85年 (15歳2カ月) | 96年七冠、王座戦19連覇は最長記録、永世六冠。95期(歴代最多) |
渡辺明 竜王(32) | 2000年 (15歳11カ月) | 04年から竜王9連覇、永世竜王。17期 |
その加藤から83年、21歳の時に名人位を奪ったのが、2人目の中学生棋士となった谷川浩司九段(54)。この最年少名人の記録は、今も破られていない。谷川は藤井について「棋士個人としては最年少名人の記録が破られるかもしれない」と注目しているという。
谷川は、あっという間に相手の玉を追い込んで鮮やかに勝つことから「光速流」「光速の寄せ」と恐れられ、詰め将棋の名手としても知られる。藤井が詰め将棋を得意とするところは谷川に通じる。「(詰め将棋を解く正確さと早さを競う)『詰将棋解答選手権』で小学生だった藤井くんが、谷川さんより好成績を挙げたと聞いて驚き、翌年、(藤井が参加する)名古屋会場まで見に行った」と同選手権の実行委員長を務める若島正・京大教授は明かすほどで、詰め将棋の実力は棋士の将来性をはかる上で重要な要素だ。
大山、中原に続く永世名人(十七世名人)の資格を得ている谷川は19歳、A級八段の時に小学生だった羽生の将棋をつぶさに見ている。3人目の中学生棋士となる羽生が優勝した小学生名人戦の決勝を解説したのだ。2人はその後、長年にわたって数々のドラマを演じてきた。なかでも語り継がれているのが、七大タイトルのうち六つを手中に収めていた羽生による史上初の七冠独占をかけた戦い。95、96年の2回の王将戦七番勝負だ。95年、神戸在住で1月の阪神大震災で被災した直後の谷川は、3勝3敗で迎えた王将戦七番勝負の最終局に勝って七冠独占を阻止。だが、羽生はその後、六つのタイトルを防衛し続け、96年の王将戦で再び谷川に挑んで、4連勝で王将位を奪取。七冠独占を達成している。
羽生はその後も将棋界の記録を次々と塗り替えており、例えば、通算タイトル獲得数は歴代最多の95期に上る。藤井に対し、棋史に残る金字塔を打ち立ててきた羽生は「これから棋士として注目を集めると思うが、それを乗り越えて歴史に名を残すような棋士になることを期待している」とエールを送る。
その羽生を脅かす存在となったのが、4人目の中学生棋士の渡辺明竜王(32、棋王)だ。渡辺がタイトル戦に初登場したのは2003年の王座戦五番勝負。この時、渡辺は19歳で五段。タイトル奪取はならなかったが、戦前の予想を覆し、一時は羽生をカド番に追い込んでいる。そして、翌04年には20歳で竜王位を獲得。以来、竜王9連覇も成し遂げている。
なかでも08年の竜王戦は、羽生を挑戦者に迎えての七番勝負で、勝った方が永世竜王になる大勝負だった。七大タイトルのうち六つで永世称号を持つ羽生には「永世七冠」の偉業もかかっていたが、渡辺が将棋のタイトル戦史上初となる3連敗後の4連勝の大逆転劇でタイトルを防衛。初代永世竜王に輝いている。11年の羽生の王座戦20連覇を阻止したのも渡辺で、今や羽生対渡辺の対戦は将棋界を代表するゴールデンカードとして注目を浴びる。その渡辺は、藤井について「詰め将棋の(解く)早さなどで話題になっていたが、三段リーグを1期で抜けたのには驚いた。対戦するのを楽しみにしている」とコメント。将棋ファンも渡辺と藤井の対戦を早く見てみたいと思っているはずだ。
歴代の中学生棋士は、いずれも将棋界の頂点に立つ大棋士となって名勝負を演じてきた。藤井が今後、中学生棋士の先輩たちと相まみえることで、また、将棋界に新たな歴史が加わることだろう。(一部敬称略)
(文化部 神谷浩司、山川公生)
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