ミサイル防衛 増強しても限界はある
防衛省が発表した2017年度予算の概算要求は、過去最大の5兆1685億円に上った。5年連続の増額要求で、弾道ミサイル防衛の増強に力を入れたのが特徴だ。
北朝鮮による度重なる核実験や弾道ミサイルの発射にどう対応するかは、最重要課題の一つだ。しかし、その対策が効果的なものなのか、慎重に検討する必要がある。
日本のミサイル防衛システムは、2段構えをとっている。
まず、イージス艦に搭載した海上配備型迎撃ミサイル(SM3)で、高度100キロ以上の大気圏外で迎撃する。そして、失敗した場合に、地上配備型の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)で、高度十数キロの大気圏内で撃ち落とすという態勢だ。
ところが、最近の北朝鮮のミサイル技術の進展によって、大きく二つの問題が生じている。
一つは、北朝鮮が移動式発射台から前兆なくミサイルを撃つため、兆候を把握しにくくなっていること。
もう一つは、北朝鮮がミサイルを通常の軌道よりも高く上げて近くに落とす撃ち方を始めたことだ。「ロフテッド軌道」と呼ばれる。
もし、グアムを狙える中距離弾道ミサイル「ムスダン」が、この方法で日本に撃たれると、高く上がった分だけ落下速度が増し、今のシステムでは迎撃は難しくなる。
概算要求では、日米が共同開発してきた新たな海上配備型迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」の取得費147億円を初めて計上した。通常よりも高い軌道で飛来するミサイルにも対応できると見られている。
このほか、PAC3の防護範囲を2倍に広げる改良型の取得に1056億円を盛り込んだ。
将来のミサイル防衛システムの調査研究費6000万円も計上した。最新鋭の地上配備型迎撃システム「終末高高度防衛(THAAD)ミサイル」などが検討されている。
ミサイル防衛の強化は必要だが、どれだけ強化しても北朝鮮がその裏をかくようなミサイル技術を開発する可能性はある。際限のない競争になりかねない。
日本の厳しい財政事情を考えれば、ミサイル防衛の増強にもおのずと限界がある。
中期防衛力整備計画(中期防、14〜18年度)が定める防衛費の総額は、24兆6700億円。中国の台頭に対応するための南西諸島防衛などもあり、次の中期防では、さらに防衛費が膨らむ可能性がある。
北朝鮮の核・ミサイル開発の進展には、軍事面だけでなく、外交的手段との組み合わせで対応するしかない。日本の国力に見合ったミサイル防衛のあり方について、国会で徹底的に議論する必要がある。