停電対策なく、IP電話機能せず 岩泉町
毎日新聞
予備電源の配布などせず
大型の台風10号で大きな被害を受けた岩手県岩泉町が、防災情報などを伝えるため電源を必要とするIP電話を町内の全世帯や全ての福祉施設などに導入した際、予備電源の配布など停電時の対策を取っていなかったことが分かった。停電時に利用できないことは把握していたが費用負担の増大などを懸念し、予備電源の配布を見送った。携帯電話を使わない高齢者などに災害情報を伝える手段となることが期待される一方、過去には大雪による停電で利用できなくなり安否確認が難航した事例もあり、情報伝達の課題が改めて浮かんだ。
総務省は、東日本大震災を受けた災害対策として、インターネット回線を利用するIP電話を設置する自治体に補助金を交付。町によると、総務省から約7億6000万円の補助金を受け、2014年度までの3年間で設置した。停電時のために予備電源の準備を呼びかけるが、予備電源の費用までは補助していない。岩泉町も予備電源について、コストの問題に加え、停電しても電力がすぐに復旧する▽IP電話以外の目的に利用される恐れがある−−と判断し、配布しなかったとしている。ただ、住民から配布を求める声も上がり、検討していたという。
岩泉町は先月30日午前9時に避難準備情報を発令したが、町内で徐々に停電となりIP電話が使えない状態に。町内の小本川の氾濫で入所者9人が死亡した高齢者グループホーム「楽(ら)ん楽(ら)ん」がある乙茂地区でも30日午後6時ごろに停電となった。町内では1日、安家(あっか)地区など町内5地区の約1500世帯3500人が道路寸断で孤立状態になっている。NTT東日本によると固定電話などは5地区を含め町内で約2190回線がつながらない状態。停電も続いており携帯電話もつながりにくくなっている。【一宮俊介、岩嶋悟、二村祐士朗】
IP(インターネット・プロトコル)電話
インターネット技術を利用した電話サービスで、接続業者の通信ネットワーク(IP網)を通じてやり取りする。遠距離通話や国際電話の場合は通常の電話より割安になる。一方で、ファクス機能などが付いた電話と同様、停電時には、非常用電源がなければ基本的に利用できなくなる。2016年3月末現在のIP電話利用数は前年同期比7.9%増の約3846万件。