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【社説】

今、憲法を考える(5) 修正重ね、自らの手に

 「改憲」論者が憲法改正を必要とする理由の一つに挙げているのが、その制定過程。現行の日本国憲法は連合国軍総司令部(GHQ)に押し付けられたとの立場、「押し付け憲法論」である。

 現行憲法が終戦後、マッカーサー元帥率いるGHQの影響下で制定されたことは事実だ。

 松本烝治国務大臣を委員長とする日本政府の憲法問題調査委員会(松本委員会)による憲法改正案を拒否したGHQは自ら改正草案を九日間で作成し、政府に受け入れを迫った。GHQ草案である。

 日本政府は結局、この草案に沿って大日本帝国憲法の改正案を起草し、帝国議会に提出する。

 在任中の改憲を目指す安倍晋三首相が「日本が占領下にある当時、日本国政府といえどもGHQの意向には逆らえない中、この憲法がつくられ、極めて短い期間につくられた」と述べるのも、こうした経緯に基づくのだろう。

 しかし、この見方は表面的だ。

 GHQの草案づくりには、日本の民間団体「憲法研究会」が作成した「憲法草案要綱」が強い影響を与えていたし、日本政府が憲法改正案をつくる際も、GHQ草案をそのまま受け入れたわけではなく、地方自治規定を盛り込むなど「日本化」の努力がされていた。

 平和国家という戦後日本の在り方を規定した戦争放棄の九条が、当時首相だった幣原喜重郎氏の発案だったことも、マッカーサー元帥の著書や書簡、幣原氏の証言などから明らかになっている。

 改正案を審議した帝国議会で活発に議論され、修正を加えたことも押し付けとは言えない証左だ。

 九条第二項冒頭に「前項の目的を達するため」との文言を加え、自衛権を保持しうることを明確にしたとされる「芦田修正」は衆院での修正。貴族院では、公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する、などの修正を加えた。憲法前文は、両院で修正され、文言が練られている。

 現行憲法が、押し付けられたものを唯々諾々と受け入れたわけでないことは明らかだ。むしろGHQの圧力を利用して旧弊を一掃し、新生日本にふさわしい憲法を自らの手でつくり上げた、と言った方が適切だろう。

 何よりも重要なことは、公布後七十年もの長きにわたり、主権者である国民が憲法改正という政治選択をしなかった事実である。押し付け憲法論は、賢明なる先人に対する冒涜(ぼうとく)にもつながる。

 

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