11月に予定されていた築地市場の移転を、東京都の小池百合子知事が延期した。

 あと2カ月という時期での異例の決断だ。知事は会見で「今さら、との声は承知している。だが一度決めたんだから、という考え方はとらない」と、この問題にのぞむ姿勢を語った。

 都知事就任から1カ月。そろそろ独自色を、との思惑もあるのだろう。きのう発足した都政改革本部では、「市場問題」を含む三つのプロジェクトチームを設けることを確認した。

 既定路線にも疑問を投じ、都議会との摩擦も辞さない――。そんな「小池都政」のスタイルが見えてきた。

 延期する理由のトップに知事が挙げたのは「安全性への懸念」だ。

 移転先の豊洲市場は東京ガスの工場跡地で、有害化学物質への不安から地下水の2年間のモニタリング調査が続いている。地下水を市場で使うわけではなく、これまでも基準値以下にとどまっている。ただし最終結果は来年1月に出る予定だ。

 築地は、1日で計2800トンもの水産物と青果物を扱う世界有数の市場だ。食の安全を重視し、調査を最後まで見届ける必要がある、とした小池知事の判断は一理ある。

 都知事選で小池氏は、移設について「立ち止まって考える」と訴えており、公約に沿った判断だとも言える。

 とはいえ、混乱は最小限にとどめなければならない。

 振り回されるのは、市場で働く卸や仲卸などの業者だ。多くは、都の方針に従って準備を進めてきた。すでに豊洲で大型冷凍庫を稼働させている業者もあるという。ここにきての延期に「冗談じゃない」と怒りの声があがるのは当然だ。

 小池知事の会見でも移転がいつまでずれ込むのかははっきりせず、設備の維持管理費などが築地と豊洲とで二重負担になる、との不安が業者には強い。都は、業者への損失補償などに誠実に向き合うべきだ。

 豊洲市場をめぐっては、膨れあがった建設費や設備の使い勝手の問題も指摘されている。移転延期で生じる時間は、こうした疑問の解明・検証を進める好機だが、豊洲に店子が入らない間は、都の財布から1日約700万円が消えていくという。

 小池知事は、こうした自身に不利な情報も公開し、考えを明らかにしてほしい。関心をよぶ施策については判断の根拠を示し、都民の疑問に答えながら丁寧に進める。今回を、そうした都政への第一歩とすべきだ。