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米山秀隆「不動産の真実」

賃貸住宅、異常な「大余り」状態…アパート空室率が約4割の地区も、老朽化で管理放棄も

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 ここ数年、地銀や第二地銀、信金は、貸家を建設する個人向け融資を増やしてきた。15年の新規貸出額は過去最高となった。総貸出に占める割合は過去2年ほどで上昇し、1~2割に達するようになっている。貸出先が乏しいなか、貸家融資に傾斜してきた。

 不動産調査会社タスによれば、2015年夏以降、首都圏の賃貸住宅の空室率は上昇傾向にある(アットホームのデータから算出。上記の空室率とは算出方法が異なるため、数値の直接的な比較はできない)。

 千葉の16年4月の空室率は15.12%で、15年5月から2.65ポイント上昇した。神奈川は14.28%で1.46ポイントの上昇、埼玉は16.98%で1.30ポイントの上昇だった。千葉は、アパート系(軽量鉄骨、木造)、マンション系(SRC造など)とも上昇が顕著で、神奈川ではマンション系は落ち着いているもののアパート系の上昇が顕著、埼玉ではアパート系、マンション系とも緩やかに上昇している。東京の空室率は11.55%と0.60ポイント低下し、賃貸住宅全体では需給が引き締まったが、アパート系は空室率が著しく上昇した。

 このように、直近でアパート系の賃貸住宅の空室率上昇が顕著になっており、神奈川では36%を突破、千葉では35%に近づき、東京23区では34%近くに達した。15年5月にはいずれも30%前後であり、そこからの上昇度合いは鋭角的である。一方、関西圏、中京圏では空室率は落ち着いているが、大阪、京都ではアパート系の空室率が緩やかに上昇している。

見直しが問われる、税制上のインセンティブ


 相続対策やマイナス金利政策が賃貸住宅供給に拍車をかけ、将来的に空室率がさらに上昇する可能性が高まっている。今後は世帯数減少という需要要因からも、需給は緩んでいく。世帯数は全国では19年、東京では25年をピークに減少に転じ、賃貸需要も減っていく。

 日銀は「金融システムレポート」(15年10月)で、貸家向け融資の収支計画の甘さを指摘している。将来的に空室率上昇に歯止めがかからなくなれば、融資が焦げ付く恐れがある。貸家が供給過剰になっていることは、空き家問題を深刻化させる一因になるとともに、地銀などの経営を揺さぶる懸念がある。

 賃貸住宅建設の税制上のインセンティブは、住宅が足りない時代に、地主に賃貸住宅を積極的に供給してもらうために設けられた経緯がある。それが今でも続いており、しかも相続税課税が強化されたため、賃貸住宅を建設する動きがさらに活発化した。税制上のインセンティブが、このままでいいのかという議論がいよいよ必要になりつつある。
(文=米山秀隆/富士通総研主席研究員)