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夜伽の国の月光姫 作者:青野海鳥

【第一部】夜伽の国の月光姫

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第15話:ヴァルベールの姫君

 ヴァルベール王国への訪問が決まってから二日後、セレネはミラノに連れられ、ヘリファルテを出発した。今回は軽装の護衛兵士が数名と、セレネの世話役としてメイドが数名という、今までに輪をかけて少ない人数だった。というのも、隣国の王女は美醜や体裁にとにかく(こだわ)るので、見目麗しい者を厳選して選んだからである。

 今回用意された馬車も、以前乗っていた実用性を重視した物ではなく、所々に彫り物や装飾の施された、馬車というより芸術品のようなタイプの物だった。しかし、前回の旅と最も違う点があり、セレネはそれが不満だった。

 馬車の中、ミラノの横に仕方無さそうに座っていたセレネが愚痴をこぼす。

「なんで、クマ、いない?」
「今回はヴァルベール行きだからな。クマハチはあまり適任ではないのだ」

 ミラノは短くそう答えた。単純な国力で言えば、ヘリファルテに比べてヴァルベールは、ダブルスコアどころかトリプルスコアほどの差がある。しかし、それでも大陸においてナンバー2の実力を持つ国家である事は間違いない。

 クマハチは丈夫(ますらお)であるが美丈夫ではない。不潔ではないが堅苦しい服装を好まない。今までの国のようにヘリファルテの威光でごり押ししてしまい、後で余計な難癖を付けられると面倒だ。

 それに、ヘリファルテとヴァルベールは馬車で三日もあれば着く距離だ。所々に宿屋と警備兵の詰め所を兼ねた施設も設置されているので、盗賊なども滅多に現れない。他の兵士達の指導も出来るクマハチをわざわざ連れてくるのは、色々な意味で無駄が多い。

 しかし、セレネにはその辺の事情がよく分からない。辺境に行く時はクマハチを連れていたくせに、いざ大国に行くとなると、適当な理由をつけてハブっているとしか考えられなかった。かわいそうなゾウならぬ、かわいそうなクマにセレネは同情した。

 鬼畜王子から目を逸らすため、セレネは頬杖を突いて馬車から外を眺めた。すると、輝く青空の下、真紅の巨大な生物が飛んでいくのが見えた。以前、アークイラを出発した時に見た竜である。

「ドラゴン、また、とんでる」

「またあいつかよ」と言った感じの、いかにも投げやりな口調でセレネは呟いた。最初に見たときは衝撃的だったが、ヘリファルテを出発してからというもの、朝には南へ飛んでいき、夕暮れになると北へと飛び去っていく竜を毎日見ていると、いい加減飽きが来る。いくらパンダやコアラが珍しく人気者だろうが、毎日何時間も見せられたら飽きるのと理屈は同じだ。

「きん、ぎん、いないのかな?」

 こちらを気にも留めず上空を飛び去っていく赤竜に対し、セレネは文句を言った。

 毎日毎日赤い奴ばかり飛んでいたら飽きるではないか、金色や銀色の奴も飛ばしてみてはどうか。それとも、やっぱりあいつらは希少種なんだろうか。何にせよ、少しは観客の事も考えてほしいものだと、セレネは飛び去っていく背中に自分勝手なクレームをつけた。別に竜はエンターテイナーでも何でもないのだから、そんなもん竜の勝手である。

 そのまま馬車に三日間ほど揺られ、セレネ達はヴァルベール王国へと到着した。ヴァルベール以外の国なら、その土地の風土や、生活習慣を学ぶために数週間は滞在するようにしていたが、今回、ミラノは出来る限り早く切り上げて帰るつもりでいた。

 ヴァルベール王国の王都は、さすがにヘリファルテに次ぐ国家の中心部だけあって、中々に立派な都市であった。単純に中心街の活気だけで言えば、ヘリファルテの王都より立派かもしれない。しかし――。

「なんか、きったない」
「やはり、セレネもそう思うか」

 セレネの言うとおり、中心部は栄えているが、その発展の仕方が(いびつ)なのだ。ヘリファルテの建築方式を、そのままコピーして作られたような建物が表通りに立ち並び、それらは無駄に凝った外装で補強されているのに対し、道を一つ裏に逸れるだけで、急激にみすぼらしい建物だらけになる。まるでハリボテのような街並みだ。

「ヴァルベールはヘリファルテに合わせ、無理に街を作り変えたようだからな。細かい部分まで行き届いていないのだろう。中心部に住む民は優雅かもしれんが、裏は見ての通りだ」
「つまんない」
「ああ、全くだ」

 セレネは少し怒ったような表情で、メッキされた黄金の街を眺めていた。その横顔を見たミラノも、セレネの意見に同意した。成り上がりの一部の金持ちだけが優遇され、それ以外の国民は打ち捨てられている。そんな政治をしていては、すぐに国は行き詰るだろう。今が、自分達がよければそれで良いという、実につまらない考え方だ。

 だが、セレネがつまらないと言ったのは、ヴァルベールの民を思ってのことではない。何でここがヘリファルテじゃないんだという意味だった。国王が暴君で、国民が悪漢揃いだったら、国ごとぶっ潰しても罪悪感など無いのに。王子(ミラノ)という患部だけにメスを入れなければならない医師(セレネ)の気持ちも考えて欲しいという、なんとも理不尽な怒りである。

 セレネもミラノも無言のまま、目抜き通りを抜け、ヴァルベールの王宮へ到着した。ヘリファルテの土台に拘る作りとは違い、金色に拘った装飾が全体に張り巡らされた、ただ巨大な事を自慢するだけの建物であった。建造にコストが掛かっているのは間違いないだろうが、ごてごてと金目の物を取り付けましたという感じで、まるで着膨れしたピエロのようだ。

 城門の近くに居た衛兵にミラノが話しかけると、衛兵はミラノとセレネに馬車から降りるように促し、そのまま馬車を預かり、どこかへ誘導していった。どうやら専用の馬車置き場があるらしい。

「あら! ミラノ王子! ついにいらしてくれたのねっ!」

 そうしてミラノとセレネが降り立ち、宮殿に近づくと。入り口付近からきんきんする声が響いた。その直後、他の従者の制止を振り切り、一人の女性がミラノ達の元へ駆け寄ってくるのが見えた。

 年頃はアルエと同じ程度だろうか、ボリュームのある栗色の髪に鳶色(とびいろ)の瞳、どの指にも色とりどりの宝石をあしらった指輪をつけており、身に着けた原色に近い紫色のドレスには、金や銀のぎらぎらする装飾品を大量に付けていた。

「はぁ、相変わらずだな」

 その姿を見たミラノは、彼にしては珍しく、あからさまに嫌そうな顔で舌打ちをした。セレネも同時に渋面を作る。無論、女性ではなくミラノに対してだ。女に擦り寄られているのに、ぜいたくを言うんじゃねぇ、と。

「久しぶりだな。エンテ王女」
「あら、エンテ王女なんて仰々しく呼ばないでちょうだい。エンテでいいわ、ミラノ王子。できれば、私も王子の事を呼び捨てにしたいわぁ」

 エンテと呼ばれた装飾にまみれた吊り目の王女が、ミラノの手を強引に握った。ミラノはありったけの精神力を総動員し、何とか笑顔を作ると、握手をしながらもさりげなく片足を一歩引いた。

「今回はあくまで遊学ついでに挨拶に来ただけだ。気遣いはありがたいが、遠慮させていただこう」
「もーう! 相変わらず硬いんだからぁ」

 ミラノはかろうじて笑顔を保っているが、よくよく見れば顔が引きつっている。これに気付かないのは、熱病に浮かされたような状態のエンテ本人と、嫉妬深いセレネくらいのものだ。自分の斜め下にいる赤い目から発せられる憎悪の視線に気付いたミラノは、慌てて弁解をする。

「セレネ、この方はエンテ王女だ。ヴァルベールの姫で、私の幼少期からの知り合いだ」

 知り合い、という部分を強調してミラノは発音した。
 そこで初めて、エンテはセレネの存在に気が付いたようだ。エンテにとって、ミラノ以外は視界に入っていなかったらしい。

「何よ、このちびっこいの?」
「この子はセレネ、色々あって、私が預かることになった」
「色々!? 色々って何よ!? 何でミラノ王子が女を囲ってるのよ!?」
「囲っている訳ではない。子供の前で、慎みのない発言は控えていただきたいのだが」
「へぇ……ミラノ王子が、私以外の女を……ねぇ」

 ミラノの台詞を聞いたエンテは、セレネに対し射殺すような視線を送る。美少女大好きおじさんなセレネですら、その眼光に一歩引く。やだ、この人怖い。幸いにも、エンテはすぐにミラノに視線を移す。

「ねえ、ミラノ王子。ちょっと聞いていいかしら?」
「何だ?」
「なんで、私は『エンテ王女』なのに、このチビは呼び捨てなの?」
「何でと言われても、この子は私の従者のようなものだ。呼び捨てにするのは当然では?」
「私もそう呼んでくださいって、もう何度も言ってるじゃない!」
「この子とエンテ王女では、身分が違うのでな」

 ミラノは身分の違いという部分を巧みに利用し、淡々と切り抜けた。エンテは非常に気性が激しいので、要望を一度聞いてしまうと、そのままどんどん押し切られてしまう。なのでミラノは、なるべく事務的に聞き流すようにしていた。

「まぁ、いいわ。せっかくミラノ王子が来てくれたんだから、怒ってばかりいてはつまらないものね。寛大な心で、その子の無礼は許してあげるわ」
「わたし、なにも、してない」
「……何か言ったかしら?」
「なんでも、ない、です」

 氷のような口調に、さすがのセレネも背をぴんと伸ばし失言を撤回した。ついでに何故か敬礼までした。

「さあ、堅苦しい挨拶は抜きにして、早く行きましょ? ミラノ王子が自国から旅に出たって聞いてから、私、毎日毎日、来賓のための部屋を掃除させていたのよ。も・ち・ろ・ん、私の寝室もね」

 男を蕩かすような口調で、エンテはミラノにしなを作る。当然セレネなど、路傍(ろぼう)の石の如くスルーだ。

 公言は出来ないが、セレネとて王族なのだ。下に見られる扱いをされるのは最大の屈辱だろう。そう思い、ミラノは申し訳無さそうにセレネに目線を送るが、セレネは柳に風とばかりに悠然と構えていた。目の前の虚飾にまみれた王女と違い、凛とした佇まいにミラノは深く感心した。

 単純に、セレネは王族のプライドという物をこれっぽっちも持ち合わせていないだけなのだが。

 セレネはというと、エンテ王女の振る舞いを見て、ただ安堵していた。エンテ王女は確かに美人ではあるが、ぎらぎらとした眼光と細面は、どこかカマキリを思わせる。アルエのような癒し系の可愛い幼馴染だったら嫉妬したが、これなら安心して王子に押し付けることが出来る。

 どうもミラノはエンテ王女にあまり興味は無く、なるべく接触を避けたがっている節がある。だが、エンテを避けることなど、たとえ神が許そうと、このセレネが許さない。ミラノ王子には、このカマキリみたいな王女と是非とも親密になってもらわねばならない。

「ざまあ」

 セレネは声が漏れないよう、口の中だけでそう呟いた。カマキリは交尾すると、高確率でメスがオスを食い殺すという与太話を聞いたことをセレネは思い出し、我ながら上手い例えだとほくそ笑む。

「セレネ、少し協力してくれ」
「え? な? ひゃっ!?」

 ミラノがセレネにだけ聞こえるようにそっと囁いた。その直後、ミラノは、セレネの身体を両手ですくい上げるように抱きかかえた。いわゆるお姫様抱っこという奴である。

 王子が巨大なカマキリにがっちりホールドされ、頭からバリバリ食われる姿を妄想していたセレネは反応が遅れ、抵抗できないまま抱きかかえられてしまった。自らが王子にがっちりホールドされてしまったわけである。合掌である。

「ミラノ王子!? 一体何を!?」

 そして、セレネ以上に驚愕しているのは、目の前のエンテ王女だった。

「すまない。セレネの体調が少し悪いようでな。世間話は後にして、まずは静養させてやりたいのだが、どこか休める場所は無いか? 来賓の部屋は毎日清掃してあるのだろう?」
「それは……で、でもミラノ王子が抱えなくても! 自分で歩かせればいいじゃない!」
「この子はあまり体が丈夫ではないのでな、ヘリファルテに連れてきた直後も、無理をさせて倒れてしまったことがある」

 ミラノからしてみれば、それは紛れもない事実だったので、この言葉はセレネを心配してという意味もあるし、エンテとの会話を打ち切る意味もある。本音半分、建前半分と言ったところだ。

 一方でセレネはというと、抱かれるのを嫌がる子猫のように暴れて逃げようとしていた。しかし、いかんせん体力差がありすぎる。まるで柔道の固め技でも喰らったように、小さく足をばたばたさせるだけだった。

「……わかったわよ。城の者に案内させるわ」
「感謝する。後ほど、またお会いしよう」

 ミラノは優雅な動作で会釈し、エンテの横を通り過ぎた。その後姿を、エンテは般若のような表情で見送ったが、ミラノとセレネは幸か不幸かそれを見ることはなかった。そうして案内役の者に促され宮殿に入り、指示されたセレネ用の部屋へ入室した。

「はなせ!」

 部屋に入るや否や、堪忍袋の緒が切れたセレネは、ミラノの頬に容赦ない平手打ちを叩きこんだ。セレネとしては首をねじ切る勢いでぶっ叩いたつもりだったが、ミラノには殆ど効いていないらしい。ミラノは特に痛がるふうでもなく、セレネを床の上に下ろした。セレネは脱兎の如く部屋の隅まで逃げ出し、壁を背に、威嚇するように大の字に身構えた。

「すまない。あのままでは本当にエンテの部屋に連れ込まれそうだったのでな」
「いけば、よかった」
「そんな事を言わないでくれ。社交辞令とは言え、身分が違うなどといって申し訳なかった。いきなり抱きかかえた事も謝ろう。しかし、あの王女はどうにも苦手でな」
「ふん!」

 ミラノが謝罪しても、セレネの怒りはまだ収まらないらしい。他の女性にうつつを抜かしたように見えているのだろうか。ミラノは肩をすくめ、上流階級の淑女を相手取るときのように、恭しく頭を下げた。それでも、セレネは未だに眉間に皺を寄せている。

「(意外と嫉妬深いのだな……)」

 実際には、王子が気を利かせて抱き上げた事自体が不快だったわけだが。

「僕はこのまま城の者たちに挨拶回りに行かねばならないが、セレネは先に休んでいるといい」

 ミラノはそう言うと、セレネを一人残し部屋を出ていった。

「やはり、エンテに関わるとろくな事が無いな……」

 打たれた頬をさすりながら、ミラノはドアに背を預け、ため息を吐いた。

 名目上は遊学の旅ではあるが、はっきり言ってヴァルベールで学べる事は殆ど無い。
 ヴァルベールはヘリファルテをライバル視しているせいか、文化の面でも無理に似せようとしている部分が多い。風土を活かした独特の産業や知識というものがあまりなく、ヘリファルテの劣化コピーばかりなのだ。

 ヴァルベールとしても、表向き「大国の王子がわざわざ挨拶に来た」という大義名分が欲しいだけだろう。本気で自分の来訪を望んでいる者は、過剰なまでに張り付いてくるエンテくらいのものだ。可能な限り速やかに撤退をするのがベストだろう。夕食までにセレネの機嫌が直っていることを期待しつつ、ミラノは一人、億劫な社交辞令に出向いていった。

「しゅみ、いまいち」

 一方、部屋に残されたセレネはというと、用意された部屋の内装に辟易(へきえき)していた。殆ど全ての家具に金箔が貼られており、その上には、よく分からない形をした芸術品っぽい謎の物体や、熊の頭の付いたカーペット、壁に掛かる鹿の頭の剥製など、アニメや漫画以外で見たことも無いような調度品がずらりと並んでいた。

『どれもこれも全て虚構、まやかしでございますな』

 セレネは、絨毯の熊の頭に手を突っ込んで遊んだりしていたが、服の中で大人しくしていたバトラーが、辛抱たまらんと言わんばかりに飛び出した。

『まったく! これはどういう事か! 偉大なる姫に対し、このような劣悪な部屋を提供するとは! どれもこれも金だけは掛かっているようですが、美術品としては三流も三流、悪趣味もいいところでございます。それに、これを見て下され』

 バトラーは憤慨しながら、一足飛びで棚の上に飛び乗ると、金ぴかの小瓶を両手で抱えて逆さにした。すると、中から埃がぱらぱらと零れ落ちる。

『目に見える部分だけは小奇麗にしてありますが、細部までは気が回らないようですな』
「バトラー、こじゅうと?」

 バトラーの文句の付け方が、まるで窓の埃をチェックする小姑のように見えて、セレネはくすくす笑った。

 全体的に悪趣味な部屋であるが、豹柄であることを除けば、ベッド自体はかなり良い物だ。セレネにとって重要なのは、飯の量がいかに多いかと、布団がいかに寝心地がいいかだけだ。元々、セレネは煎餅布団一枚あれば、どこでもいくらでも眠れる性質なのだ。

『姫は少々お優しすぎる気がします。あのエンテとかいう小娘がつけ上がりますぞ』

 しかし、バトラーはそこまで言って考えを改めた。この慈悲深く、寛大な心こそ王者の証そのもの。器の大きさの証明なのだ。害獣と呼ばれる自分すら受け入れ、知恵と力を授けてくれた偉大なる王女は、こんな嫌がらせ程度、笑って許してしまえるのだろう。そう考えれば、あんな小物相手に憤慨するのも馬鹿馬鹿しいではないか。主はそれをよく分かっている。

『やれやれ、私も姫の執事として、まだまだでございますな』
「え? なにが?」
『姫、私は厨房に様子を見に行こうと思うのですが、お時間を頂いてもよろしいですかな?』
「おなか、すいた?」
『いえ、あのエンテとかいう小娘、どうやらミラノ王子に好意を持っているようです。姫に用意された部屋がこのざまでは、食事も何か悪い物を出してくる恐れがありますからな。食材の調査をしたいのです』
「ゆるす」
『ありがとうございます。では、このバトラー、早速一仕事をさせていただきます』

 二本足で立ち、敬意の篭った一礼をセレネにすると、バトラーは矢のように駆け出し、開け放たれた窓から飛び出していった。そうして完全に一人取り残されたセレネは、ベッドの上に身を投げ出し、どうしたものかと考える。

「どうしよう……」

 セレネは片手で、絹糸のような白い髪をくしゃりと握る。セレネの最初の予定では、おしゃれな姫なのだから、お茶会か何かでもやるだろうと踏んでいた。そこに自分もさりげなく乱入し、エンテと王子の会話に混ざる。そこから「女の子を泣かすなんてサイテー!」みたいな、女二人に男一人の気まずい空気を作り、なし崩し的に押し付ける予定だった。貴重な睡眠時間を二時間も削って考えた、巧妙な作戦だったのだ。

 その作戦も、王子の間抜けな振る舞いによって水泡に帰してしまった。再び計画を練り直さなければならない。しかし、どうすればエンテ王女と面会できるのだろうか。

 自分がアークイラの姫という立場を公言できれば、直接訪問し、強引にお茶会を開かせるということも可能かもしれないが、残念ながらその方法は封印されている。

 となると、夕食の時くらいしか会う機会が無いだろう。だが、そこには恐らく、エンテ王女以外の人も並ぶはずだ。ミラノとエンテ、そして自分の三人だけでごり押しするほうがベターなのだが。そんな事を考えつつ、セレネが無い知恵を必死に絞っていると、不意にドアをノックする音が響き、それとほぼ同時に、荒々しくドアが開かれた。

「お嬢ちゃん、ご機嫌はいかが?」
「エンテ、おうじょ?」

 何という僥倖(ぎょうこう)だろう。どうやって会おうかと思っていたエンテ王女が、何と自ら出向いてきてくれたのだ。

「ちょっと、お話ししたい事があるんだけど、大丈夫かしら?」
「うん!」

 やはり神は正しい者の味方なのだと、セレネは微笑んだ。
 しかし、エンテ王女の目が、まるで仇敵を見るように冷め切っている事に、セレネは気付いていなかった。
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