問題にされたのは、国道が通るとの情報を得た上での投機目的ではなかったのか、という点だけだった。彼は「退任後の住居目的で購入した」と述べ、逃げ切った。
それにしても、韓国の警察官10万人のトップに、何故に、こんな“すごい経歴”の持ち主が選ばれたのだろうか。警察庁長官(=階級は治安総監)は、6人いる治安正監の中から選ぶしかない。ハンギョレ新聞(8月24日)が匿名の警察幹部の話を、次のように伝えている。
「大統領府が、飲酒運転交通事故の身分隠蔽事実を知っていながら指名したのは、代案がなかったためかもしれない。他の人を候補者に選択すれば、さらに大きな恥をかくからではないか」
31年前、治安正監の1人と昼食をしたことがある。東京・中野の警察学校で学んだという人物だ。「なぜ韓国の警察は、こんなに腐敗しているのか」と、私はずばり尋ねた。
彼は怒らなかった。「これでも随分と良くなったのです。私1人が清廉を貫いたら、たちまち警察から追い出されてしまうだけです。だから節度をもって臨み、部下を諭し、百年河清を俟(ま)つ心で…」
彼は「日本人記者にごちそうになるだけでは心苦しいから」と、小さな花瓶をプレゼントしてくれた。
韓国の警察にも立派な人物はいると思ったが、あと70年ほどで川は澄むのだろうか。
■室谷克実(むろたに・かつみ) 1949年、東京都生まれ。慶応大学法学部卒。時事通信入社、政治部記者、ソウル特派員、「時事解説」編集長、外交知識普及会常務理事などを経て、評論活動に。主な著書に「韓国人の経済学」(ダイヤモンド社)、「悪韓論」(新潮新書)、「呆韓論」(産経新聞出版)、「ディス・イズ・コリア」(同)などがある。