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[FT]米欧TTIPは世論の支持が必要(社説)

2016/9/1 14:15
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 米国と欧州連合(EU)は2013年の年初に環大西洋貿易投資協定(TTIP)の交渉を開始し、すぐに合意するつもりだった。米国の交渉責任者、フロマン米通商代表部(USTR)代表が語ったように「準備万端」だった。しかし、その後3年、TTIPは繰り返し調整を迫られ、いまだ期待されたような進展を見せていない。

 TTIPの交渉は、かたくなな政治的抵抗に遭い深刻な状況に陥っている。残念なことだ。というのも、TTIPの概念は、サービスを基盤とした国際的な商取引が増え続ける中で、その現実を通商交渉に反映させようとの深い思慮をもって作り上げられているからだ。しかし、概要の多くは合理的である一方、政治的な取り扱いで犯した誤りは深刻で、反発の根深さを把握し切れていない。

TTIP反対のサインを掲げるデモ参加者(7月、ブリュッセル)=ロイター
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TTIP反対のサインを掲げるデモ参加者(7月、ブリュッセル)=ロイター

 実業界は長いこと、貿易協定が経済の変化に対応していないと不満を漏らしてきた。世界貿易機関(WTO)の多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)は、低・中所得国を支援する目的で農業の利権問題に焦点を当てていたが、それが製造やサービスの輸出業者を退散させ、自由化交渉からロビー活動の支援を奪うことにつながってしまった。

 関税よりも規則に焦点を置くTTIPは、この問題に対処することを目指したが、各国の規制担当者に自国の基準を互いに擦り合わせる難しさを考慮できなかった。このように、はなから困難な状況にあったのだ。

 また、TTIPは、大西洋を挟んだ双方で渦巻く、貿易協定を巡る政治的な悪影響にも苦しんだ。米国は2011年、コロンビアとパナマ、韓国の各国と小規模な自由貿易協定(FTA)をようやく締結したが、米議会は概して貿易協定に後ろ向きな姿勢を取るようになった。

 アジアでの米国の役割回復を目指し、地政学上説得力のある内容を含む環太平洋経済連携協定(TPP)でさえ米議会では難航した。共和党の大統領候補トランプ氏は、TPPに反対している。トランプ氏のライバルで、国務長官時代にTPP交渉に密接に関与した民主党のクリントン前国務長官は、現在の形のTPPでは支持できないと述べている。

 オバマ大統領の現政権は、必要であれば11月の大統領選から17年1月の新大統領就任までの「レームダック」国会で法案承認を目指せるかもしれないが、観測筋の大多数はそれを大きな賭けと見なすだろう。

 一方の欧州では、一般的に既存政党に懐疑的なうえ、急進左派への支持が増えたことで、TPPに加えて、包括性では劣る欧州とカナダとのFTAにも反発が表出してきた。欧州委員会は最近、これまでカナダとのFTAは政府間や欧州議会レベルで批准できる可能性があるとの立場を取ってきたが、それを撤回し、欧州の何十もの国や地域の議会で部分的に合意する必要があると、譲歩せざるを得えないと感じている。

 前もって準備せずに貿易協定を開始することが問題だ。とりわけ、協定で影響を受ける国民や規制担当者に対する政治的な地ならしは欠かせない。貿易協定を巡る悪意に満ちた雰囲気は、格差や先進国の国際化に対する懸念を一部に反映している。つまり米国と欧州は、貿易協定の信頼性を危険にさらす前に、支持を得る自信をもっと持つべきだ。もし年末までにTTIP交渉に想定外の進展がなければ、米国政府とEUは一息入れて、TTIPが前進可能なのか、だとすればどのように進められるかを考える必要がある。

 交渉を前進させようとする前に、規制担当者や各国の国民の懸念解消に時間をかけることは好スタートになるだろう。

(2016年9月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2016. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.


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