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【首都スポ】

リオで輝け!!モニカスマイル パラカヌー代表・瀬立モニカ

2016年8月28日 紙面から

笑顔で萩原智子のインタビューに答える瀬立モニカ=東京都江東区で(武藤健一撮影)

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 「こんにちは!」。満面の笑みを浮かべて、手を振ってくれた。そのヒマワリのような、ビッグスマイルにつられるように、私も笑顔になった。華やかな表情で迎えてくれたのは、瀬立モニカ、18歳。リオデジャネイロ・パラリンピックで、今大会から正式競技として行われるカヌー日本代表選手だ。

 代表権を獲得するまで、ドラマがあった。今年5月にドイツで行われた世界選手権が、最後の戦いだった。「自分に負けるようなレースだけは絶対にしたくなかった」。積極的なレースを展開したが、最後に失速し、結果は11位。10位までに与えられる代表権を手にすることができなかった。「200メートルを、1分ちょっとで終わって。これでリオにいけない。正直、4年後のことは考えられなかった。お疲れさまの言葉がつらかったです」。涙が止まらなかった。

 しかし、心の中でかすかな奇跡を信じていた。「雑誌に5月の運勢が載ってて。最後の最後に勝つのはあなたですって。私はこれを信じて。でも実際は『もうダメか。占い当たらないじゃん』って」。傷心のまま帰国し、久々の自宅でホッとしていたとき、西明美コーチからのテレビ電話で「モニカ! リオに出られるって!」と、信じられない言葉を伝えられた。世界選手権で10位以内だった中国選手が失格処分を受け、繰り上げで出場枠が与えられたというのだ。諦めていた夢舞台が、再び照らし出された瞬間−。「最後まで諦めないでこいだからこそ、この結果があった」。当時を思い出し、瀬立は涙を浮かべた。

 彼女が「体幹機能障害」になったのは、高校1年のとき。体育の授業で転倒し、頭を打ったことが原因だった。バスケットボールや水泳、カヌーを楽しんでいた彼女が、突然、下半身のコントロールができず、座った姿勢を保つことが難しい状態になった。

 病院のベッドの上で落ち込む日々。そんなとき、母から「あなたは笑っていなさい」と言われた。「何を言っているの、笑っていられるわけないじゃんって」(瀬立)。しかし、母の言葉は、彼女のトレードマークである笑顔をつくり出した。取材中、瀬立は何度も声をかけられた。突然でも、人懐っこい彼女の笑顔は変わらない。その笑顔に吸い寄せられるように人が集まってくる。

 「車いすに乗っていて、普通の顔をしているよりかは、笑っている方が助けてあげようかと言ってもらえると、お母さんから言われて。それが根本にあって。だから笑っていようって思いました」。どんな時でも笑顔を絶やさない瀬立は、母に感謝した。

 「最初、車いすになって、みんなと違うっていうところに劣等感を感じていて。でも、パラカヌーを始めて日本代表になって、世界に行くようになったら、みんなの見る目が変わるかなと思ったり。あと自分に自信が持てるようになるかなって」。パラカヌーと出会い、体に変化もあった。腕力が強くなり「段差も上がれるようになった」と、本人も自覚する。

 西コーチは「結果を出すことは大事です。でも、彼女の機能回復が第一目標。今でも最終的には、自分の足で走って、焼き肉屋に行ければいい。その手段がたまたまカヌーだった。モニカは、脊損(脊髄損傷)ではなく、脳損(外傷性脳損傷)なので。回復のエビデンス(根拠)は未知です。だから、いつか歩けるかもしれない。でも、いつかは分からない。だから、さまざまなことにチャレンジして刺激を与え続けたい」と、回復も目標に掲げる。

 リオでは、「ゴールして、ガッツポーズ! この妄想はバッチリ!」と笑った。「メダルを目指して、スタートラインに立ちたい」。ずっと笑顔だった彼女の表情が引き締まった。

 周りから愛されるアスリート、瀬立モニカは、リオデジャネイロの空の下で、どんな表情を見せてくれるのか。きっとまた、たくさんのファンをつくってくるに違いない。最高の笑顔で。 (シドニー五輪競泳日本代表・萩原智子)

◆モニカ・アラカルト 水泳が結ぶカヌー&池江との縁

<生まれ> 1997(平成9)年11月17日

<出身> 東京都江東区

<女子大生> 今春に東京・宝仙学園高を卒業し、筑波大に入学

<好物> 石川・松葉屋の栗蒸しようかん、金沢の塩豆大福など和菓子好き。

<好きな芸能人> EXILE、比嘉愛未

<モットー>「常に笑顔。いつも笑っている!」

<水泳のおかげ> 「カヌーは、水のつかみがクロールに似ている。水のつかみがすごく上手と言われます。水泳のおかげで、肩甲骨周りが柔らかい。良く褒められます」と3歳で始めた水泳に感謝。

<池江璃花子との縁>「今年3月まで璃花子ちゃんのいるルネサンス(亀戸)で一緒に泳がしてもらっていました。ルネサンスは、いつでも来ていいよって言ってくれる。パラスイマーの話を聞くと、民間のプールに断られたり、腕がないだけで断られたり。私はこんな経験をしたことがないので、とてもいい環境です。璃花子ちゃんとは、一緒にリオに行けるといいねって話をしていて、本当に一緒に行けてうれしいです。リオが決まったとき、おめでとうって連絡をくれました」

<えっ、プロレス!?>「合宿中に部屋で西コーチとプロレスをします。すごく楽しい。部屋でもアクティブに過ごしています。バッティングセンターにも行ったり。これからボウリングにも行きたいです!」

<魅力は熱心さ>「まず、練習好き。とにかく練習に熱心です。ビデオを撮ったりして、2人で研究してます。分析とか解析をして学習するところが前向き。技術の向上につながっていると思います」(西コーチ談)

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