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避難マニュアルなし 岩手の9人死亡施設

9人の遺体が確認された高齢者グループホーム「楽ん楽ん」(左)=岩手県岩泉町で2016年8月31日午後1時40分、佐々木順一撮影

 大型の台風10号で岩手県岩泉町の小本(おもと)川が氾濫し、同町乙茂地区にある高齢者グループホーム「楽(ら)ん楽(ら)ん」で、入所者9人の死亡が31日確認された。施設の運営者は同日、町が避難準備情報を出していることを把握しながら、入所者を避難させていなかったことを明らかにした。高齢者などは、避難勧告や指示が発令される前の準備情報の段階で避難させることが求められている。また、水害避難のためのマニュアルも作成していなかった。同町の伊達勝身町長も、対応が不十分だったとして陳謝した。

 同町の小本川の川岸では他に男性1人、同町に隣接する久慈市でも女性1人が死亡。また、岩泉町内で2人が小本川の洪水で行方不明になっている。このほか、北海道では清水、大樹、新得各町でそれぞれ男性1人が行方不明になっている。

 岩泉町は30日午前9時に避難準備情報を発令し、同日午後2時には、施設があった北側の安家(あっか)地区に避難勧告を出したが、乙茂地区には出していなかった。伊達町長が午後4時ごろから1時間ほど、町内を車で巡回した時は、異常がなかったとしている。

 県警によると、死亡したのは70〜90代とみられる男女。岩泉町によると、町内では他に16人と連絡が取れておらず、所在の確認を進めている。

 一方、楽ん楽んを運営する社団医療法人「緑川会」の佐藤弘明・常務理事によると、準備情報を把握した後、30日午後4時ごろに小本川の水位を見たところ、氾濫するまで20センチほどあり、過去の台風でも20センチ程度であふれたことがなかったことから、夕方の段階では入所者を避難させなくても大丈夫だと判断したという。ところが、午後6時ごろ車で施設に戻ってくると、既に水が胸の高さまで来ており、施設に近づけなかった。避難マニュアルはなく、水害を想定した訓練も実施していなかった。

 楽ん楽んは平屋建てで認知症の高齢者ら9人が入居。隣に建つ同会運営の高齢者施設「ふれんどりー岩泉」(3階建て)にも約80人がいたが、3階に避難し、全員ヘリコプターなどで救出された。楽ん楽んには、女性職員が入所者9人といて、水流に流されないよう男性1人を抱えていたが、助けられなかったという。

 町は、町内の全世帯や福祉施設などに設置されているインターネット回線を利用するIP電話で避難準備情報を流していたが、停電後は使えなくなった。町は警察などに救助を求めようとしたが、電話がつながらず他の通信手段もなかったという。乙茂地区は30日午後6時ごろ停電となった。

 伊達町長は「小本川は(危険とみられる)水位を越えていなかったので避難指示を出さなかった。とても残念で、亡くなられた方には申し訳ない」と謝罪した。

 台風10号による北海道と東北6県での被害を毎日新聞が31日夕方に集計したところ、死者11人、行方不明者5人のほか、重傷3人、軽傷4人だった。【村山豪、一宮俊介、成瀬桃子】

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