岩手のニュース

<台風10号>川沿い立地で悲劇

山に囲まれ、小本川と国道455号の間にある高齢者施設。上流(上)からの濁流に襲われた=31日午後0時10分ごろ、岩手県岩泉町

 台風10号に伴い増水した川の濁流で入所者とみられる9人が犠牲になった岩手県岩泉町の高齢者グループホーム「楽(ら)ん楽(ら)ん」は、山あいの川のそばにあった。なぜ町場から離れた場所に立地されたのか。防災態勢はどうなのか。高齢者施設の現状に、東北の関係者は「立地条件や避難態勢の見直しは急務だ」と指摘する。
 「楽ん楽ん」は町中心部から7キロほど離れた山あいにあり、川や国道が縫うように通る。国道沿いの限られた平地には、野球場や道の駅などがあるが、住宅はそう多くない。
 グループホームは認知症の高齢者や障害者が少人数で生活する施設。家庭的な雰囲気で過ごすのが特長だ。そのため「本来は地域密着型のサービス。町場から離れた場所は趣旨から外れる」と言う関係者は多い。
 東北では1998年8月、集中豪雨で福島県西郷村の総合福祉施設群「太陽の国」の救護施設が土砂崩れに見舞われ、入所者5人が死亡した。
 当時の施設関係者の男性(72)は「グループホームは民間事業者が主体となるのが一般的で、川の近くや山間部といった土地を求めやすい所に立地する傾向にある」と説明する。
 防災態勢にも課題がある。厚生労働省などによると、高齢者施設の立地について、災害リスクを踏まえた規制はない。
 山形県老人福祉施設協議会の峯田幸悦会長(58)は「少しでも安全な場所に立地させる施策が必要だ」と強調する。避難対策も、災害対応計画の策定や避難訓練が義務付けられる一方、「現場は慢性的な人手不足。小さい施設ほど対応が追い付かないケースが目立つ」のが現状という。
 グループホームは国の基準で、利用者9人に対して日中は介護職員3人以上、夜間は1人以上を配置することが定められている。
 消防法に基づき、火災を想定した年2回の避難訓練の実施と消防署への実施報告が義務付けられるが、他の災害の訓練は、報告までは求めていない。
 仙台市は31日、岩泉町の災害を受け、グループホームをはじめ市内約860カ所の介護サービス事業所に、災害時対応の再確認を求める文書を送付した。
 「楽ん楽ん」も所属する公益社団法人「日本認知症グループホーム協会」の副会長で、青葉区の社会福祉法人「仙台市社会事業協会」の佐々木薫副会長(58)は「高齢者施設は土地が安いなど防災以外の条件が優先されがちで、東日本大震災では沿岸部で多くの犠牲が出た」と指摘。
 「認知症の高齢者は自力避難が難しいからこそ、今後は施設の立地条件や避難の在り方といった安全面を最優先にしなければならない」と話す。


関連ページ: 岩手 社会

2016年09月01日木曜日

先頭に戻る