今年2016年8月中旬、Intelの開発者会議取材で米サンフランシスコ周辺に10日間ほど滞在していた。ほぼ2ヶ月に1回のペースで訪問している場所ではあるが、行くたびに何か新しい発見がある点で非常に興味深い場所だ。
今回も決済関連、特にApple PayとAndroid Payで興味深い新ネタがあったので紹介したい。間もなく9月7日(米国時間)に新型iPhoneとApple Watchが発表されるAppleのスペシャルイベントが同地で開催されるが、日本ユーザーにとっての最大の目玉は『Apple Payの日本上陸とFeliCa対応』にあるといわれる。そしてやがては、今回紹介するようなサービスもまた日本へと上陸する日がやってくるかもしれない。
Android Payを使える場所を教えてくれるOSの通知機能
話題の最初はAndroid Payだ。少なくとも前回の7月初旬時点ではこの機能は確認できなかったので、比較的最近のマイナーアップデートで機能が有効化されたと思われる。仕組み的には単純で、Android Payを導入した端末を同サービスの利用できる店舗近くまで持っていくと、どの店舗で実際にサービスが使えるかを通知してくれる機能だ。
まず、画面上の通知領域にAndroid Payのアイコンが表示され、その状態で通知メッセージを見ると店舗名がわかるようになっている。少し実験したところによると、GPSの"ゆらぎ"による誤差を考慮して20メートル前後の範囲で反応するようだが、このエリアを離れると自動的に通知とアイコンは消滅する。
筆者はたまたま街中でポケモンGOをやっていたおかげで通知の有無に気付いたが、"歩きスマホ"をやらない限りは気付かずに店前を通り過ぎてしまうことも多いだろう。
また、通知は必ずしも出現するわけではなく、前出ポケモンGOやGoogle Mapsのように、GPSを常に利用するタイプのアプリだと反応しやすいようだ。基本的にはGPS連動の機能なので、位置情報機能が有効化されている必要もある。
このほか、Android Payの設定ページで『Store notifications』という項目を有効化しておく必要がある。この通知機能で出てくる対応店舗情報は、おそらくMasterCardやVisaといったカードブランドが独自に集計している対応店舗リストをそのまま引用しているとみられ、大手チェーン以外にも個人経営の小さな店も含め通知が出てくることを確認している。もしAndroid Payを利用しているユーザーがいたら、ぜひ試してみてほしい。
▲Android Payが設定済みの端末を利用して同サービス対応店舗に近付くと、アイコンが表示されて通知領域に店舗名が表示される
米国でのEMVとNFC対応あれこれ
米国では『ライアビリティ・シフト』が2015年10月に施行され、小売でのEMV対応、つまりICチップ付きクレジット/デビットカードへの対応が実質的に義務化された。米国でのEMV移行状況は全体でみればまだまだの水準といわれるが、比較的体力のある大手小売はすでにEMV対応を済ませている。ICチップ搭載カードの切り替えが順次進みつつあり、後述のように筆者のATMカード(デビットカード)もようやくICチップ入りのものとなった。
一方で、長年磁気ストライプ方式のカードに慣れた利用者は、このICチップを用いた決済端末での操作に慣れておらず、カウンターでの"まごつき"など、さまざまなトラブルを巻き起こしているようだ。
それは各所に設置された読み取り端末の貼り紙からもうかがえる。"カードの挿入方法がわからない"、"PIN入力の有無やタイミング"、"処理に若干時間がかかる"といったものが主なトラブルで、ライアビリティ・シフト後に複数の新聞や雑誌で『ICチップカードの使い方と対策』みたいな記事を見かけたりした。
また、読み取り端末自体は更新済みなものの、システム側の対応がまだで『ICチップのカードは使わないように』という警告が行われているものがある(写真右側の映画館のもの)。
▲ICチップ対応に振り回される利用者や店舗を象徴しているかのように、さまざまな場所でこんな貼り紙が......
また、比較的早期にEMVやNFC導入が行われたMcDonald'sでは、現在世界的に注文用のKIOSK端末を導入し、レジ側のオペレーションを大幅に変更して効率化を図ろうとしている(注文列と待機列を分割する)。
こうした中、KIOSK端末はEMV対応の読み取り機でApple PayなどのNFC決済にも対応したのだが、6月末~7月初旬の訪問で筆者がMicrosoft Walletの実験中にトラブルが発生し、4台中2台が通信不能エラーでブルースクリーン(?)を出してダウンしてしまった。
その後もこの端末は直ってないようで、写真のような貼り紙が出て使用禁止になっていた。また残りの端末もNFCでの決済は禁止となっているようで、iPhoneをかざしてApple Payを使おうとしても反応しない。奥から出てきた店員がiPhoneを読み取り機にかざす筆者の姿を見て『Apple Payは使えないようになってるよ』と親切に教えてくれた。
▲サンフランシスコ中心部に新しくできたMcDonald'sでは注文KIOSKが設置されたが、4台中2台が故障してこの状態
Apple PayとAndroid Payのバーチャルカードは自動更新される
また今回、Apple Payなどのモバイル決済において初めての体験ができた。筆者がこれらモバイルウォレットに使用しているBank of America(BofA)のATMカードが2016年9月で期限切れとなり、更新する必要があったからだ。有効期限の延びた新しいカードは登録住所に自動送付され、あとは封筒に同封のカードをBofAのいずれかのATMに挿入するだけで自動的にアクティベーションとなり有効化される。ここまでは問題ないのだが、『ここで新しいカードを有効化すると、これまでApple Payなどで登録したカード情報が全部無効化されて全部登録し直しなんだろうな......』と思っていた。
ところが新しいカードをATMに挿入してアクティベーションが完了した直後、BofAから登録済みのメールアドレスに3通のメールが一度に飛んできた。なんと、新しいカードをアクティベーションした瞬間に3つのサービス(Apple Pay、Android Pay、Microsoft Wallet)で利用しているバーチャルカードも自動更新され、そのまま継続利用が可能だという。試しに近くのWalgreensでジュースを1本買ってみると、問題なくApple Payが使えている。クレジットカードや別の銀行だとまた違う挙動の可能性があるが、これは非常に便利で興味深い。
▲新しいATMカードをアクティベーションした直後、同カードを設定した3つのモバイルウォレットサービスで同時にカード情報が更新された
Apple Payがあれば、もう物理カードは必要ない
今回の旅のハイライトがこれだ。BofAやChaseがモバイル端末でATMバンキングを可能にするという計画を発表しており、BofAがここ半年の間に一部のATMを『NFC対応』のものへと置き換えている様子を目撃していたからだ。だが一向に機能が有効化される気配もなく、いつかいつかと待っていたところ、ついに今回の渡米で利用できることが確認できた。サンフランシスコ市内でNFC対応ATMはいくつかあるものの、筆者が動作を確認したのはWestin St. Francisのホテル横にあるBofAのATM。これまで見られなかった『NFCのタッチ領域がグリーン色に点滅』という現象が確認され、試しにiPhoneをそこにかざしてみるとATMカードを挿入したときと同様にPINコード入力画面が出現し、そのまま操作が可能だった。
ATMカード挿入時は中身を読み取った後にすぐにカードが排出されてPINコード入力画面となるため、その違いは物理カードを使うかモバイル端末を使うかの差だけだ。その様子を動画で撮影したので、興味ある方は確認してみてほしい。
実際、街を歩くときはiPhoneなどのモバイル端末を手にしているか、あるいは取り出しやすい場所にしまっていることが多く、いちいち財布から取り出してカードを挿入するよりも便利だと感じることは多い。さらに、カードはスキミングの危険が必ず伴うが、バーチャルカードならその心配はほぼない。トラブル時にはカード情報を更新するだけでいいからだ。
▲Bank of AmericaのATMがiPhoneなどのモバイル端末を使ったATMバンキングに対応。端末をかざすだけでいいのでカードは必要ない
▲NFCのタッチ領域があるにもかかわらず、モバイル端末によるバンキングサービスが利用できないATMもある
手持ちのカードをApple Payに登録して、そのままATMバンキングに利用できる仕組みは簡単で非常に便利だ。セキュリティ的にも指紋認証が加わって強固であり、これはぜひ日本でも導入してほしいサービスの1つだろう。