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野口悠紀雄 新しい経済秩序を求めて

経済成長は実質賃金上昇で行ない、インフレ目標は放棄すべきだ

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【第76回】 2016年9月1日
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 6月の実質賃金はかなり高い伸び率を示した。

 厚生労働省は名目賃金が上がったためとしているが、そうではなく、物価が下がったからである。資源価格下落や円高の影響が、ようやく実質賃金に影響し始めているのだ。

 インフレ目標を放棄して実質賃金の上昇をさらに確実なものとし、それによって成長する戦略に転換することが必要だ。

実質賃金は上昇傾向に転じた
今年2月以来5ヵ月連続でプラス

 厚生労働省が発表した6月の毎月勤労統計(確報値、従業員5人以上)によると、物価変動の影響を除く実質賃金は、前年同月比2.0%の上昇となった。増加率の大きさは、2010年7月以来5年11ヵ月ぶりだった。

 厚労省は「ボーナスの増加が賃金上昇の要因になった」と説明している。

 この説明自体は、誤りではない。しかし、6月の値がこのように高くなった原因は、昨年6月の実質賃金の対前年比が3%と落ち込んだことの反動である。この意味で、特殊要因によるものだ。

 むしろ重要なのは、実質賃金の対前年増加率が、今年の2月以来、5ヵ月連続でプラスとなっていることだ。

 実質賃金は、12年以降、ほぼ継続して減少してきた。これが実質消費を抑制し、経済成長率を抑制してきたのである。アベノミクスが、実体経済に影響与えることができなかった大きな原因は、この点に見出される。

 したがって、実質賃金が上昇し始めたことは、日本経済にとって大変大きな意味を持つ。

 以下では、なぜ実質賃金が上昇しているのかを分析し、それを今後の経済成長につなげるためには何が必要かを論じることとする。

実質賃金の上昇は、名目賃金上昇でなく
物価上昇率低下による

 実質賃金の上昇は、名目賃金の上昇によってもたらされたという説明がなされることがある。この説明は正しいだろうか?

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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』等、最新刊に『仮想通貨革命』がある。野口悠紀雄ホームページ

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野口悠紀雄 新しい経済秩序を求めて

アメリカが金融緩和を終了し、日欧は金融緩和を進める。こうした逆方向の金融政策が、いつまで続くのだろうか? それは何をもたらすか? その先にある新しい経済秩序はどのようなものか? 円安がさらに進むと、所得分配の歪みはさらに拡大することにならないか? 他方で、日本の産業構造の改革は遅々として進まない。新しい経済秩序を実現するには、何が必要か?

「野口悠紀雄 新しい経済秩序を求めて」

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