■ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q(2012/劇場)★

カラーデジタル部CG。
十字架の棺にアンカーフックを打ち付けた後に、残った部分のワイヤーが画面手前でたるむのが魅力的。そこから、一気に引っ張られることでワイヤーもピンと張り、すさまじい速度を感じる。「遠心力」というワードがこれほど似合うシーンも中々ないですね。
これって何のためにワイヤーを射出して打ち付けたかといえば、目標物へ「移動するため」です。この「移動するためにワイヤーを使う」という表現は、CGが発達してから多く見られるようになった印象ですが、昔からボチボチあります。
<1、移動するためのワイヤー表現>
■宇宙戦艦ヤマト(1974)09話 『回転防禦!!アステロイド・ベルト!!』

ブレーキが壊れ、冥王星の引力に引っ張られるシーン。これじゃあ冥王星に落下しちまうヤベエということで、沖田艦長が「ロケットアンカーを打て」との名采配。冥王星の裏側に位置する衛星に打ち付け、ヤマトはなんとか墜落を防ぎます。
■NARUTO(2003/TV)30話『蘇れ写輪眼!必殺・火遁龍火の術!』

枝にキュイキュイと紐を食い込ませながらのターザン。奥から手前に自然にスッと入って、カメラを追い越していく。タイミングが上手いです。
最近で流行ったアニメだと、「移動するためのワイヤー使用」はやっぱりこれですかね。
■進撃の巨人(2013/TV)
(※ぜんぜん最近じゃなかった)
進撃の巨人の立体機動装置はどれもカッコイイんですが、特に印象に残ったのは11話と24話。
《11話》

江原康之作画+CG背景動画(MADBOX)
立体機動シークエンス。重力で体が下に落りるのをの建物へとワイヤーをくっつけることで、再浮上し前へと急スピードで前進していく。そのため画面がガクンガクンとなる。ややPOVにも似た快感がありますね。ミカサのシーンは、低空飛行でよりスリリングに。
《24話》★★

今井有文作画
女型の巨人にワイヤーを射出した後、不安定な体勢を保ちつつ斬撃。焦点をミカサに当てたアングルが、横から縦へと移り変わることで臨場感を出す。あと、バタバタするマフラーと髪のリアクションからは向かい風の強さを伝えていますね。このミカサ、劇中内で一番好きです可愛い。
■「ルパン三世 (2015/TV)」第四期-01話『ルパン三世の結婚』

3DCG背動+キャラ作画
ワイヤーが光を受けるときは、ハイライトを入れるか、もしくは線を切って描く事が多いです。線が途切れているのに、僕らがそれを気にしないのは、「太陽の光を受けて白光したために透明に見える」という風に認識するためです。
■DARKER THAN BLACK(2007/TV)15話『裏切りの記憶は、琥珀色の微笑み… (前編)』★

柱にワイヤーを引っ掛けて、一気に地上へ急降下。柱に引っ掛けた後に、ワイヤーを巻き取るので体はぐわっと引っ張られる格好に。縦の構図(煽りの構図)も合わせて「性急さ」を表しています、ここは黒が追う場面なんで。それにしても、最後の煽りアングルいいなあ。
■アルドノア・ゼロ(2015/TV)18話『深い森を抜けて-The Rose and the Ring-』

メカ、ワイヤーともにCG作画
旋回のためのケーブル射出。不穏な空気を感じ取った伊奈帆は、小惑星群の一つへと突き刺さして、移動する。スッとカメラ前を通り過ぎるメカが場面転換の役割も兼ねてカッコイイですね。
ざっと、「移動するため」のワイヤー利用を見てきましたが、「攻撃」の手段として使われるケースも多々あります。というか、ワイヤーと聞くと「こっちだろ!」思う人が多いとも思う。
<2、ワイヤーによる攻撃・戦闘の表現>
■DARKER THAN BLACK -黒の契約者- 外伝 04話(2009/OVA)

煙幕から飛び出し、画面手前へと投擲。切り替わった瞬間に、額の中心に突き刺さる。これによって、投擲の精度の高さ、ひいてはレベルの違いを魅せつけます。
■銀河烈風バクシンガー(1982/TV)OP

TBしながらのフックショット+貫通からの大爆発。自由自在に曲がるワイヤーが多い中、これは直線で相手を貫いてますね。正義のロボっぽくて良いです。
■HELLSING V(2008/OVA)

ワイヤー使い執事。黒BGでワイヤーを映すことで、目にも留まらぬ速さで(暗躍しつつ)攻撃したのが分かる。ちなみにTV版10話では、マスターを助けるためにヘリを操縦しながらワイヤーを操り、ふんわりと地面に着地させて逃がしてあげたりもする。
■コードギアス 反逆のルルーシュR2(2008/TV)25話「Re;」★

メカ作画(ACつなぎ)
ランスロット(スザク)と紅蓮(カレン)の最終決戦。上へと登った後、紅蓮はランスロットの後ろに回り込み、ワイヤーを射出して自分の方へと引き寄せる。ランスロットはそれを左で跳ね除けつつ、右腕で紅蓮へと殴りかかるが、紅蓮は左腕で防御する。お互い一歩も譲らない、拮抗/緊迫した攻防。
![26]](http://megalodon.jp/get_contents/290571948)
![27]](http://megalodon.jp/get_contents/290571949)
ここは、地味にACつなぎをしていて2カットになっているんですが、その慌ただしいカット割りが、手練れのパイロット2人だけにしか認識・共有できない世界をうまく表現していると思う。
これらはワイヤー自体を使ってのダイレクトな「攻撃」。つまり、ワイヤーの鋭さや重さを利用して、相手をぶっ倒してやるという表現例です。また、最初に紹介したのは「移動」のワイヤー表現でした。
そうなると、「移動」+「攻撃」のワイヤー表現はないのかと思いませんか?
あるんですよ、これがまた。
カッコイイんですよ、これがまた。
<3、「移動」+「攻撃」のワイヤー表現>
■キルラキル(2013/TV)10話『あなたを・もっと・知りたくて 』★★

まずは鮮血をヒモにします。
方たちバサミにヒモをくっつけて、カウボーイの投げ縄みたくします。
思い切るぶん投げて、ハート型のメカに突き刺します。
ついでに自分の体を固定するために、スカートからジャッと地面にアンカーフックを打ち付ける。意外とここは合理的ですよね。鮮血が賢いのか、流子ちゃんが脳筋ではなかったのか。おそらく前者。
■機動戦士ガンダム 第08MS小隊(1999/OVA)10話『震える山(前編)』★

グフ・カスタム操る、おっさんの俊敏な動き・判断がヤバイ。
シロウが覚醒したと気付いた瞬間に、危機を察知。こいつはヤベエとなって離れたところにあるヒートサーベルをワイヤーを使って、まるで吸盤でくっつけるかのように、一瞬のうちに自分の手元にたぐり寄せる。隙を見せないのは、まさにスペシャリスト。この後の事はなかったことにしよう。
■機動戦士ガンダムUC(2014/劇場)EP.07『虹の彼方に』

いつも強い人間ばかりがワイヤー使うと思ったら大間違い。
バナージがユニコーンに乗るまでの時間稼ぎに、敵わないと分かっているフル・フロンタルに捨て身の攻撃をしかける。この捨て身の攻撃、自己を犠牲にしても守るという描写があってこそ、共鳴するユニコーンのカッコよさやバナージの強さが引き立つんですわ。
■機動戦士∀ガンダム(1999/TV) 34話『飛べ! 成層圏』

ここは対角線の一貫性に注目。対角線いっぱいにハンマーを振り回すと、画面を突き抜けた格好になり、敵の足に引っ掛かった後は一気に左下へと落下させる。
![02]](http://megalodon.jp/get_contents/290571954)

ここのレイアウト(とカット割り)は上手いですねえ。
■化物語(2009/TV)08話『するがモンキー 其ノ參』★

神原による腸ジャイアントスイング。奥行きあるレイアウトでいいですね。アララギくんは可哀想だけど。椅子や机が障害物となることで、ジャイアントスイングの威力を間接的に描写。パステルカラーでグロさ半減。
■IS<インフィニット・ストラトス> 07話『ブルー・デイズ / レッド・スイッチ』★

オレンジCG。ラウラが酢豚の足にワイヤーを引っ掛けた後、セシリアの方向へとぶつける。流背っぽい線を入れることで、勢いと加速度を演出する。遠心力も重なり、地面へと叩き落とされる2人。すごい煙幕立ってるなあ、えげつない威力だ。
ふう…疲れた ひと休憩ひと休憩
さて、ここまでは「人間がある目的のために使う」ワイヤーの表現を見てきました。それは、敵の攻撃を避けるために使ったり、武器を拾うために使ったり、ワイヤー自体の鋭さ/切れ味を利用して相手を倒したりと様々でした。
ここからは、逆に「目的をもたない」ワイヤーやケーブルの表現を見ていこうと思います。目的をもたないというのは、「人間が意志をもって扱わない」ってことですね。なので、そういったシーンはより純度の高い物理現象として作画され、場面は人工構造物が中心になります。
<3、人工構造物のワイヤー表現>
■王立宇宙軍 オネアミスの翼(1987/劇場)
「シン・ゴジラ」総監督、庵野秀明作画。王立のラストシーンといえば、やはり氷の細かな描写が話題になることが多いんですが、実は連結しているケーブルの挙動もスゴイんですよ。
《発射台ケーブル1》

発射台の挙動に合わせて、ケーブルやパイプがウニョウニョと動く。ロケットとの連結部分が動くと、結合部のケーブルは縮まって外へと膨らみ、後方や下方のケーブルは動いたエネルギーがそのまま伝わって波打つように動く。美しい。
《発射台ケーブル2》


ケーブルは発射台に繋がっているので、ピンと張っています。そこから外れた瞬間、それまでの張力を失って空中に放り投げられる。この放り投げられて、たわんでいく様子がすごくフォトリアル。
■AKIRA(1987/劇場)★

本谷利明作画。太いのでケーブルというよりはパイプになってしまうかな、まあ細けえことはいいや。内部の圧力に耐え切れず、縦横無尽に暴れまわるパイプが見所。
■コードギアス反逆のルルーシュ(2007/TV)25話『ゼ ロ』

ゼロに対するニーナの鬱屈・憎悪が伝わってくるような、刺々しいケーブルの外れ方。これで不穏な空気が流れるわけですが、それがフレイヤの存在に繋がるんですね。
■大魔獣激闘 鋼の鬼(1987/OVA)

本谷作画。怪獣の挙動に合わせて、無理に引っこ抜かれるケーブル。一瞬ピンと張るのは、ケーブルがこれ以上伸びない、限界の伸長であるということです。その限界を超えると、今度はケーブルに繋がった機械群が上へと持ち上げられる。「この怪獣は規格外に強い」ということなんですね。
■エヴァンゲリオン新劇場版:序(2006/劇場)

サキエルさんの散歩による振動で、電柱のケーブルがばたばたと揺れるシーン。この電線のたるみと揺れ、いいですよね。赤信号の明滅も一緒になって「これから何かが起きる」という予兆になっている。
■新世紀エヴァンゲリオン03話(1995/TV)+劇場版「Air」(1998/劇場)


どちらもアンビリカルケーブルの断線。03話では、画面いっぱいに断線したケーブルが暴れまわるのに対し、劇場版は右下でひっそりと切れている。この違いは何か。
![06]](http://megalodon.jp/get_contents/290571967)
![02]](http://megalodon.jp/get_contents/290571968)
イカ戦はシンジの心情が不安定なので、ケーブルの断線というのは相当にまずいことだと示しているんですね。逆に、劇場版ではアスカが「この一万二千枚の特殊装k(ry」っていう風に、最強覚醒モードなので、ケーブルが切れたぐらいではアスカと弐号機は止めらんねえっていうことなんですわ。
ここまで見てくると、「ワイヤーとかケーブルっておっかないわあ…」と思われた方も多いと思います。こんだけ戦闘シーンばかりだと、ワイヤー自体が恐ろしいものに見えてくる。いやいや、それではワイヤーに失礼だ。恐ろしいワイヤーがあるのだから、その逆に「人を助ける」ようなワイヤーがあってもおかしくはないだろう。ということで、そういう表現を見ていきたいと思います。
<4、「人を助ける」ワイヤー表現>
■ルパン三世 カリオストロの城(1979/劇場)★

気を失ったクラリスを抱きかかえながら、落下中のルパンが枝にワイヤーを引っ掛ける。この前のカットまで漫画みたいにふざけてたのに、一気に真面目になるルパンがカッコいい。ちょっと余った感じに、たるむワイヤーもいいなあ。
この部分は、2015年放映の第四期でオマージュされてたりもする。出来はあんま良くない
■コードギアス 反逆のルルーシュR2 13話『過去からの刺客』

記憶が戻り錯乱したシャーリーを助けるスザクとルルーシュ。なんだワイヤーもケーブルも別に存在しないじゃないかと言われそうですが、ここではその代わりとして、

ルルーシュをケーブルとみなしてください。ケーブル(ルル)を掴んでいるシャーリーをスザクが引き上げる、という構図。ケーブル(ルル)を介して、シャーリーをスザクが引っ張り上げる。運動神経ゼロのルルはケーブルにでもなっていた方がいい。この順序が逆になったらマズイですよね。全員お陀仏になっていた可能性が高い。だから、ここのルルはケーブルになるのが正解なんです。何言ってんだか分からなくなってきた。
■ビアンカの大冒険(1977/劇場)

ネズミのバーナードたちは、女の子を救うために、悪党メデューサを転ばせる作戦に出ます。投げ縄からパイプに引っ掛かけた後、紐がキュッと縛られる。引っかかった時にはネズミたちも少し浮く。小さいスケールがこそこそ感を上手く出しているシークエンス。
■機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness-(1998/劇場)

ブラックサレナとの通信。心を閉ざしたアキトに、ルリルリが問いかけようと回線を直接繋ぐ。飛んでくる通信用ワイヤーに一瞥も向けないブラックサレナが、アキトの性格の変容を物語る。
今回は資料が多くて大変だと思いますが、もうひと踏ん張りしていただきたい。
ここまでの内容を踏まえた上で見てもらいたい作品があります。
■メトロポリス(2001/劇場)★★
りんたろう監督、大友克洋脚本の名作映画。知らない方のために、これから紹介する終盤をかいつまんで説明すると次のような感じになります。
![02]](http://megalodon.jp/get_contents/290571974)
![28]](http://megalodon.jp/get_contents/290571975)
感情を制御する部分が壊れてしまった人造人間の”ティマ”は、暴走してしまい人工知能をフルパワーで稼働させます。情報やエネルギーを効率的に取り入れるために、どんどんケーブルが繋がれていき、ティマの姿見からは人間味が失われていく。ティマをなんとか機械から引っぺがす友人の”ケンイチ”。
![13]](http://megalodon.jp/get_contents/290571976)
![18]](http://megalodon.jp/get_contents/290571977)
引っぺがしたのはいいけども、ティマはまだ暴走状態のまま。「人間=悪」と認識しているので、旧友のケンイチの事も忘れており、暴走した思考のまま殺害しようとします。無機物なワイヤーは「彼女は今機械である」ということを強調している。
![46]](http://megalodon.jp/get_contents/290571978)
![07]](http://megalodon.jp/get_contents/290571979)
やっとティマの暴走は止まったけども、体を支えることができずケンイチに倒れかかり、ジグラットから2人とも落下してしまう。ケンイチは何とか自力で這い上がるわけですが、ティマは機械の基盤のおかげでなんとか助かっている状況。そのティマを見て、急いで助けに行くケンイチ。
脆くなってしまったケーブルを懸命にケンイチは引っ張り上げますが、無情にもだんだんと切れていく。しかし、ケンイチは諦めません。引っ張り続けます。そして――

ケーブルが切れる間一髪のところで、ようやくケンイチはティマの手を掴めます。
このシークエンスは本当によく出来ていて、
(1)頼みの綱であったケーブルが切れる(希望その1)
(2)引っかかっていた基盤が空中へと放り投げられる(希望その2)
(3)それらの代わりとして、ケンイチがティマの手を握る
(4)ケンイチが新たな希望となる
こういう流れなんです。「ティマを救う」という希望が、ケーブルからケンイチという人の手に受け継がれた、ということなんですね。この流れが上手いので、後のシーンもすごく説得力があるのですが、それはこのようなサイトではなく是非本編で見て楽しんでいただきたいと思います。
![19]](http://megalodon.jp/get_contents/290571982)
![35]](http://megalodon.jp/get_contents/290571983)
![00]](http://megalodon.jp/get_contents/290571984)
![10]](http://megalodon.jp/get_contents/290571985)
「メトロポリス」におけるワイヤー表現のすごさというのは、「変化」にあります。ティマに取り付いていくケーブルは、最初は無機質で恐ろしいものでした。それが、次の場面では、ケーブルの基盤が引っかかり、純粋な物理現象として描かれる。ここでは、まだ人間の意志は関与していません。そこに、ケンイチの意志が入ってくると、今度は「助けるため」のケーブルになる。
全て同じケーブルであるにもかかわらず、状況やキャラクターの心情が変わっていくと、その意味がたちまち変わっていく。これがすごいと思うんです。最初はあんなに無機質で恐ろしく見えたケーブルが最後には、ケンイチが懸命に引っ張ることで、無機質な”モノ”ではなくなってしまう。無機質であるはずのケーブルが、まるで意志をもったかのごとく映る。これが素晴らしいと思うんです。
<おわりに>
ワイヤー・ケーブルというと、「武器/危険」というイメージがやはり強いですが、実はそうではない。「人を助ける」といった優しさの象徴にもなりうる。まあ映像表現ってそういうもんですよね。一見すると怖いキャラでも、実際は優しかった、というのはたくさんありますよね。ミギーしかり、相良軍曹しかり、エヴァしかり。
そういうギャップがアニメの魅力の一端を担っているのです。だから、表面/字面だけで判断するのは早計です。「暴力女キャラの暴力には合理性がないからダメ」とか、そういった文句を時折見かけます。これは、そもそも「暴力女はキライだ」みたいな結論が先にあって、それに合わせようとするから、ひん曲がった認識や論理が発生するんです。表面だけでキャラクターの全てが分かるわきゃありません。決まるわけでもありません。ルイズの言葉を字面通り受けとったら、彼女って最低でクズですよね。同じことだと思います。
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カラーデジタル部CG。
十字架の棺にアンカーフックを打ち付けた後に、残った部分のワイヤーが画面手前でたるむのが魅力的。そこから、一気に引っ張られることでワイヤーもピンと張り、すさまじい速度を感じる。「遠心力」というワードがこれほど似合うシーンも中々ないですね。
これって何のためにワイヤーを射出して打ち付けたかといえば、目標物へ「移動するため」です。この「移動するためにワイヤーを使う」という表現は、CGが発達してから多く見られるようになった印象ですが、昔からボチボチあります。
<1、移動するためのワイヤー表現>
■宇宙戦艦ヤマト(1974)09話 『回転防禦!!アステロイド・ベルト!!』
ブレーキが壊れ、冥王星の引力に引っ張られるシーン。これじゃあ冥王星に落下しちまうヤベエということで、沖田艦長が「ロケットアンカーを打て」との名采配。冥王星の裏側に位置する衛星に打ち付け、ヤマトはなんとか墜落を防ぎます。
■NARUTO(2003/TV)30話『蘇れ写輪眼!必殺・火遁龍火の術!』
枝にキュイキュイと紐を食い込ませながらのターザン。奥から手前に自然にスッと入って、カメラを追い越していく。タイミングが上手いです。
最近で流行ったアニメだと、「移動するためのワイヤー使用」はやっぱりこれですかね。
■進撃の巨人(2013/TV)
(※ぜんぜん最近じゃなかった)
進撃の巨人の立体機動装置はどれもカッコイイんですが、特に印象に残ったのは11話と24話。
《11話》
江原康之作画+CG背景動画(MADBOX)
立体機動シークエンス。重力で体が下に落りるのをの建物へとワイヤーをくっつけることで、再浮上し前へと急スピードで前進していく。そのため画面がガクンガクンとなる。ややPOVにも似た快感がありますね。ミカサのシーンは、低空飛行でよりスリリングに。
《24話》★★
今井有文作画
女型の巨人にワイヤーを射出した後、不安定な体勢を保ちつつ斬撃。焦点をミカサに当てたアングルが、横から縦へと移り変わることで臨場感を出す。あと、バタバタするマフラーと髪のリアクションからは向かい風の強さを伝えていますね。このミカサ、劇中内で一番好きです可愛い。
■「ルパン三世 (2015/TV)」第四期-01話『ルパン三世の結婚』
3DCG背動+キャラ作画
ワイヤーが光を受けるときは、ハイライトを入れるか、もしくは線を切って描く事が多いです。線が途切れているのに、僕らがそれを気にしないのは、「太陽の光を受けて白光したために透明に見える」という風に認識するためです。
■DARKER THAN BLACK(2007/TV)15話『裏切りの記憶は、琥珀色の微笑み… (前編)』★
柱にワイヤーを引っ掛けて、一気に地上へ急降下。柱に引っ掛けた後に、ワイヤーを巻き取るので体はぐわっと引っ張られる格好に。縦の構図(煽りの構図)も合わせて「性急さ」を表しています、ここは黒が追う場面なんで。それにしても、最後の煽りアングルいいなあ。
■アルドノア・ゼロ(2015/TV)18話『深い森を抜けて-The Rose and the Ring-』
メカ、ワイヤーともにCG作画
旋回のためのケーブル射出。不穏な空気を感じ取った伊奈帆は、小惑星群の一つへと突き刺さして、移動する。スッとカメラ前を通り過ぎるメカが場面転換の役割も兼ねてカッコイイですね。
ざっと、「移動するため」のワイヤー利用を見てきましたが、「攻撃」の手段として使われるケースも多々あります。というか、ワイヤーと聞くと「こっちだろ!」思う人が多いとも思う。
<2、ワイヤーによる攻撃・戦闘の表現>
■DARKER THAN BLACK -黒の契約者- 外伝 04話(2009/OVA)
煙幕から飛び出し、画面手前へと投擲。切り替わった瞬間に、額の中心に突き刺さる。これによって、投擲の精度の高さ、ひいてはレベルの違いを魅せつけます。
■銀河烈風バクシンガー(1982/TV)OP
TBしながらのフックショット+貫通からの大爆発。自由自在に曲がるワイヤーが多い中、これは直線で相手を貫いてますね。正義のロボっぽくて良いです。
■HELLSING V(2008/OVA)
ワイヤー使い執事。黒BGでワイヤーを映すことで、目にも留まらぬ速さで(暗躍しつつ)攻撃したのが分かる。ちなみにTV版10話では、マスターを助けるためにヘリを操縦しながらワイヤーを操り、ふんわりと地面に着地させて逃がしてあげたりもする。
■コードギアス 反逆のルルーシュR2(2008/TV)25話「Re;」★
メカ作画(ACつなぎ)
ランスロット(スザク)と紅蓮(カレン)の最終決戦。上へと登った後、紅蓮はランスロットの後ろに回り込み、ワイヤーを射出して自分の方へと引き寄せる。ランスロットはそれを左で跳ね除けつつ、右腕で紅蓮へと殴りかかるが、紅蓮は左腕で防御する。お互い一歩も譲らない、拮抗/緊迫した攻防。
ここは、地味にACつなぎをしていて2カットになっているんですが、その慌ただしいカット割りが、手練れのパイロット2人だけにしか認識・共有できない世界をうまく表現していると思う。
これらはワイヤー自体を使ってのダイレクトな「攻撃」。つまり、ワイヤーの鋭さや重さを利用して、相手をぶっ倒してやるという表現例です。また、最初に紹介したのは「移動」のワイヤー表現でした。
そうなると、「移動」+「攻撃」のワイヤー表現はないのかと思いませんか?
あるんですよ、これがまた。
カッコイイんですよ、これがまた。
<3、「移動」+「攻撃」のワイヤー表現>
■キルラキル(2013/TV)10話『あなたを・もっと・知りたくて 』★★
まずは鮮血をヒモにします。
方たちバサミにヒモをくっつけて、カウボーイの投げ縄みたくします。
思い切るぶん投げて、ハート型のメカに突き刺します。
ついでに自分の体を固定するために、スカートからジャッと地面にアンカーフックを打ち付ける。意外とここは合理的ですよね。鮮血が賢いのか、流子ちゃんが脳筋ではなかったのか。おそらく前者。
■機動戦士ガンダム 第08MS小隊(1999/OVA)10話『震える山(前編)』★
グフ・カスタム操る、おっさんの俊敏な動き・判断がヤバイ。
シロウが覚醒したと気付いた瞬間に、危機を察知。こいつはヤベエとなって離れたところにあるヒートサーベルをワイヤーを使って、まるで吸盤でくっつけるかのように、一瞬のうちに自分の手元にたぐり寄せる。隙を見せないのは、まさにスペシャリスト。この後の事はなかったことにしよう。
■機動戦士ガンダムUC(2014/劇場)EP.07『虹の彼方に』
いつも強い人間ばかりがワイヤー使うと思ったら大間違い。
バナージがユニコーンに乗るまでの時間稼ぎに、敵わないと分かっているフル・フロンタルに捨て身の攻撃をしかける。この捨て身の攻撃、自己を犠牲にしても守るという描写があってこそ、共鳴するユニコーンのカッコよさやバナージの強さが引き立つんですわ。
■機動戦士∀ガンダム(1999/TV) 34話『飛べ! 成層圏』
ここは対角線の一貫性に注目。対角線いっぱいにハンマーを振り回すと、画面を突き抜けた格好になり、敵の足に引っ掛かった後は一気に左下へと落下させる。
ここのレイアウト(とカット割り)は上手いですねえ。
■化物語(2009/TV)08話『するがモンキー 其ノ參』★
神原による腸ジャイアントスイング。奥行きあるレイアウトでいいですね。アララギくんは可哀想だけど。椅子や机が障害物となることで、ジャイアントスイングの威力を間接的に描写。パステルカラーでグロさ半減。
■IS<インフィニット・ストラトス> 07話『ブルー・デイズ / レッド・スイッチ』★
オレンジCG。ラウラが酢豚の足にワイヤーを引っ掛けた後、セシリアの方向へとぶつける。流背っぽい線を入れることで、勢いと加速度を演出する。遠心力も重なり、地面へと叩き落とされる2人。すごい煙幕立ってるなあ、えげつない威力だ。
ふう…疲れた ひと休憩ひと休憩
さて、ここまでは「人間がある目的のために使う」ワイヤーの表現を見てきました。それは、敵の攻撃を避けるために使ったり、武器を拾うために使ったり、ワイヤー自体の鋭さ/切れ味を利用して相手を倒したりと様々でした。
ここからは、逆に「目的をもたない」ワイヤーやケーブルの表現を見ていこうと思います。目的をもたないというのは、「人間が意志をもって扱わない」ってことですね。なので、そういったシーンはより純度の高い物理現象として作画され、場面は人工構造物が中心になります。
<3、人工構造物のワイヤー表現>
■王立宇宙軍 オネアミスの翼(1987/劇場)
「シン・ゴジラ」総監督、庵野秀明作画。王立のラストシーンといえば、やはり氷の細かな描写が話題になることが多いんですが、実は連結しているケーブルの挙動もスゴイんですよ。
《発射台ケーブル1》
発射台の挙動に合わせて、ケーブルやパイプがウニョウニョと動く。ロケットとの連結部分が動くと、結合部のケーブルは縮まって外へと膨らみ、後方や下方のケーブルは動いたエネルギーがそのまま伝わって波打つように動く。美しい。
《発射台ケーブル2》
ケーブルは発射台に繋がっているので、ピンと張っています。そこから外れた瞬間、それまでの張力を失って空中に放り投げられる。この放り投げられて、たわんでいく様子がすごくフォトリアル。
■AKIRA(1987/劇場)★
本谷利明作画。太いのでケーブルというよりはパイプになってしまうかな、まあ細けえことはいいや。内部の圧力に耐え切れず、縦横無尽に暴れまわるパイプが見所。
■コードギアス反逆のルルーシュ(2007/TV)25話『ゼ ロ』
ゼロに対するニーナの鬱屈・憎悪が伝わってくるような、刺々しいケーブルの外れ方。これで不穏な空気が流れるわけですが、それがフレイヤの存在に繋がるんですね。
■大魔獣激闘 鋼の鬼(1987/OVA)
本谷作画。怪獣の挙動に合わせて、無理に引っこ抜かれるケーブル。一瞬ピンと張るのは、ケーブルがこれ以上伸びない、限界の伸長であるということです。その限界を超えると、今度はケーブルに繋がった機械群が上へと持ち上げられる。「この怪獣は規格外に強い」ということなんですね。
■エヴァンゲリオン新劇場版:序(2006/劇場)
サキエルさんの散歩による振動で、電柱のケーブルがばたばたと揺れるシーン。この電線のたるみと揺れ、いいですよね。赤信号の明滅も一緒になって「これから何かが起きる」という予兆になっている。
■新世紀エヴァンゲリオン03話(1995/TV)+劇場版「Air」(1998/劇場)
どちらもアンビリカルケーブルの断線。03話では、画面いっぱいに断線したケーブルが暴れまわるのに対し、劇場版は右下でひっそりと切れている。この違いは何か。
イカ戦はシンジの心情が不安定なので、ケーブルの断線というのは相当にまずいことだと示しているんですね。逆に、劇場版ではアスカが「この一万二千枚の特殊装k(ry」っていう風に、最強覚醒モードなので、ケーブルが切れたぐらいではアスカと弐号機は止めらんねえっていうことなんですわ。
ここまで見てくると、「ワイヤーとかケーブルっておっかないわあ…」と思われた方も多いと思います。こんだけ戦闘シーンばかりだと、ワイヤー自体が恐ろしいものに見えてくる。いやいや、それではワイヤーに失礼だ。恐ろしいワイヤーがあるのだから、その逆に「人を助ける」ようなワイヤーがあってもおかしくはないだろう。ということで、そういう表現を見ていきたいと思います。
<4、「人を助ける」ワイヤー表現>
■ルパン三世 カリオストロの城(1979/劇場)★
気を失ったクラリスを抱きかかえながら、落下中のルパンが枝にワイヤーを引っ掛ける。この前のカットまで漫画みたいにふざけてたのに、一気に真面目になるルパンがカッコいい。ちょっと余った感じに、たるむワイヤーもいいなあ。
この部分は、2015年放映の第四期でオマージュされてたりもする。出来はあんま良くない
■コードギアス 反逆のルルーシュR2 13話『過去からの刺客』
記憶が戻り錯乱したシャーリーを助けるスザクとルルーシュ。なんだワイヤーもケーブルも別に存在しないじゃないかと言われそうですが、ここではその代わりとして、
ルルーシュをケーブルとみなしてください。ケーブル(ルル)を掴んでいるシャーリーをスザクが引き上げる、という構図。ケーブル(ルル)を介して、シャーリーをスザクが引っ張り上げる。運動神経ゼロのルルはケーブルにでもなっていた方がいい。この順序が逆になったらマズイですよね。全員お陀仏になっていた可能性が高い。だから、ここのルルはケーブルになるのが正解なんです。何言ってんだか分からなくなってきた。
■ビアンカの大冒険(1977/劇場)
ネズミのバーナードたちは、女の子を救うために、悪党メデューサを転ばせる作戦に出ます。投げ縄からパイプに引っ掛かけた後、紐がキュッと縛られる。引っかかった時にはネズミたちも少し浮く。小さいスケールがこそこそ感を上手く出しているシークエンス。
■機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness-(1998/劇場)
ブラックサレナとの通信。心を閉ざしたアキトに、ルリルリが問いかけようと回線を直接繋ぐ。飛んでくる通信用ワイヤーに一瞥も向けないブラックサレナが、アキトの性格の変容を物語る。
今回は資料が多くて大変だと思いますが、もうひと踏ん張りしていただきたい。
ここまでの内容を踏まえた上で見てもらいたい作品があります。
■メトロポリス(2001/劇場)★★
りんたろう監督、大友克洋脚本の名作映画。知らない方のために、これから紹介する終盤をかいつまんで説明すると次のような感じになります。
感情を制御する部分が壊れてしまった人造人間の”ティマ”は、暴走してしまい人工知能をフルパワーで稼働させます。情報やエネルギーを効率的に取り入れるために、どんどんケーブルが繋がれていき、ティマの姿見からは人間味が失われていく。ティマをなんとか機械から引っぺがす友人の”ケンイチ”。
引っぺがしたのはいいけども、ティマはまだ暴走状態のまま。「人間=悪」と認識しているので、旧友のケンイチの事も忘れており、暴走した思考のまま殺害しようとします。無機物なワイヤーは「彼女は今機械である」ということを強調している。
やっとティマの暴走は止まったけども、体を支えることができずケンイチに倒れかかり、ジグラットから2人とも落下してしまう。ケンイチは何とか自力で這い上がるわけですが、ティマは機械の基盤のおかげでなんとか助かっている状況。そのティマを見て、急いで助けに行くケンイチ。
脆くなってしまったケーブルを懸命にケンイチは引っ張り上げますが、無情にもだんだんと切れていく。しかし、ケンイチは諦めません。引っ張り続けます。そして――
ケーブルが切れる間一髪のところで、ようやくケンイチはティマの手を掴めます。
このシークエンスは本当によく出来ていて、
(1)頼みの綱であったケーブルが切れる(希望その1)
(2)引っかかっていた基盤が空中へと放り投げられる(希望その2)
(3)それらの代わりとして、ケンイチがティマの手を握る
(4)ケンイチが新たな希望となる
こういう流れなんです。「ティマを救う」という希望が、ケーブルからケンイチという人の手に受け継がれた、ということなんですね。この流れが上手いので、後のシーンもすごく説得力があるのですが、それはこのようなサイトではなく是非本編で見て楽しんでいただきたいと思います。
「メトロポリス」におけるワイヤー表現のすごさというのは、「変化」にあります。ティマに取り付いていくケーブルは、最初は無機質で恐ろしいものでした。それが、次の場面では、ケーブルの基盤が引っかかり、純粋な物理現象として描かれる。ここでは、まだ人間の意志は関与していません。そこに、ケンイチの意志が入ってくると、今度は「助けるため」のケーブルになる。
全て同じケーブルであるにもかかわらず、状況やキャラクターの心情が変わっていくと、その意味がたちまち変わっていく。これがすごいと思うんです。最初はあんなに無機質で恐ろしく見えたケーブルが最後には、ケンイチが懸命に引っ張ることで、無機質な”モノ”ではなくなってしまう。無機質であるはずのケーブルが、まるで意志をもったかのごとく映る。これが素晴らしいと思うんです。
<おわりに>
ワイヤー・ケーブルというと、「武器/危険」というイメージがやはり強いですが、実はそうではない。「人を助ける」といった優しさの象徴にもなりうる。まあ映像表現ってそういうもんですよね。一見すると怖いキャラでも、実際は優しかった、というのはたくさんありますよね。ミギーしかり、相良軍曹しかり、エヴァしかり。
そういうギャップがアニメの魅力の一端を担っているのです。だから、表面/字面だけで判断するのは早計です。「暴力女キャラの暴力には合理性がないからダメ」とか、そういった文句を時折見かけます。これは、そもそも「暴力女はキライだ」みたいな結論が先にあって、それに合わせようとするから、ひん曲がった認識や論理が発生するんです。表面だけでキャラクターの全てが分かるわきゃありません。決まるわけでもありません。ルイズの言葉を字面通り受けとったら、彼女って最低でクズですよね。同じことだと思います。
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