飼い主にしてみれば、イヌに自分の言葉が通じているのは当たり前であり、科学的な研究など不要だろう(筆者を含むネコの飼い主は、いささか心もとないが)。
だが、人が発する言葉のうち、イヌたちが何に反応しているのかは、必ずしも明らかではない。
最新の脳スキャンによれば、飼い主が「いい子だね!」と言葉を掛けるとき、イヌは単語とその言い方の両方を聞いているという。人間の会話では単語とイントネーションのどちらも大切だが、イヌにとっても同様なのかは、これまで分かっていなかった。
8月29日付で学術誌「サイエンス」に掲載された研究で、イヌの脳も人間と似た方法で情報を処理していることが判明した。
英ニューカッスル大学の神経心理学者で、この研究には関わっていないクリス・ペトコフ氏は、「この発見にとても興奮しています。人とイヌの脳活動にこれほどの一致が見られるのは非常に面白いことです」と評価する。(参考記事:「犬は人が思っているよりもずっと”人間らしい”」)
イヌと人間の脳はよく似ている
研究を主導したアッティラ・アンディクス氏は、ハンガリー、ブダペストにあるエトベシュ・ロラーンド大学の動物行動学者で、イヌ好きでもある。哺乳類の脳が言語を処理する方法を解明する一手段として、イヌの研究を始めた。
だが、第一歩を踏み出すのは容易ではなかった。機能的磁気共鳴画像(fMRI)装置の中で決して動かないよう、イヌたちをしつける必要があったからだ。実験できる水準までドッグトレーナーたちがイヌを訓練するのに、何カ月もかかった。ボーダーコリー6匹、ゴールデンレトリバー4匹、ジャーマンシェパード1匹、チャイニーズクレステッド1匹など、ハンガリー国内のイヌ計13匹が実験に参加した。(参考記事:「ブルドッグが危機、遺伝的に似すぎ」)
「装置の中で絶対に動かず伏せていなければならないと理解させるのが最も厄介でしたが、『完全に静止していてほしい』というこちらの要望がいったん認識されてからは、非常にスムーズでした」とアンディクス氏は振り返る。
2014年、アンディクス氏ら研究者は、今回と同じ13匹が人や他のイヌが発するさまざまな声(うなる、ほえる、クンクン鳴く、叫ぶ)を聞いた時に脳がどう反応するかを調べた。その結果、人でもイヌでも、幸福感と恐怖感を表す声に脳の同じような場所が活性化することが分かっていた。
だが、発話は別の話だ。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの神経科学者で、この研究には参加していないソフィー・スコット氏は、「自然界で人間の発話ほど複雑なものはありません」と話す。(参考記事:「イヌは飼い主を取られると嫉妬する」)
本気で褒めることが大切
そこでアンディクス氏ら研究チームは、2年前と同じ13匹のイヌに、それぞれの飼い主が内容や言い方を変えて発した言葉を録音で聞かせた。「褒め言葉(ハンガリー語で「賢いね」「その通り」など)を賞賛の口調で」「中立的な言葉を中立的な口調で」「褒め言葉を中立的な口調で」「中立的な言葉を賞賛の口調で」という4パターンだ。
その結果、イヌの脳画像は左半球が単語そのものに反応し、右半球がそのときのイントネーションに反応していることを示した。
だが、イヌの脳にある報酬領域が活発化するには、「褒め言葉を賞賛の口調で」聞く必要があった。言い換えると、飼い主が本当に褒めているのかどうか、イヌは分かっているということだ。(参考記事:「想像を超える、動物の知力」)
「イヌの中には、飼い主の言う通りにさせるには褒めるだけで十分という者もいるかもしれません。私たちは今回の実験で、研究チームを喜ばせたい積極的なボランティアのようにイヌたちを扱いました」とアンディクス氏は話す。
だとすれば、望ましい行動を飼いイヌにさせるための鍵は「本当に優秀だね」と本気で伝えることのようだ。(参考記事:「カリスマ ドッグトレーナー、シーザー・ミランに聞いてみた」)
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