転生ラノベ・アニメ批判と日本ハードSFの滅びる日
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転生ラノベ・アニメ批判と日本ハードSFの滅びる日

2016-08-31 10:00
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お久しぶりです。
前回趣味のラノベネタで書いて炎上した後更新が途絶えてたのは飽きたとかいうわけではないんですが、まあラノベ絡みのネタが少なかったのもありますね。(後、最近のラノベは~とかいう似非老害プレイをしたくなかったのもある)

さてそんな中ですが僕のもう一つの趣味のSF界隈で先日一つの発言が話題になりました。

えぇ……(ドン引き)
この野尻抱介先生というのはニコニコにチャンネルを持ってたり自分の趣味をブロマガで書いてたりニコニコ超会議に参加したりと結構最近のオタク・サブカルチャーにも詳しい方です。
最近の代表作でいうと初音ミクに代表されるボーカロイドとニコニコ動画(をモデルにした動画サイト)がテーマの『南極点のピアピア動画』

<あらすじ>
日本の次期月探査計画に関わっていた大学院生・蓮見省一の夢は、彗星が月面に衝突した瞬間に潰え、恋人の奈美までが彼のもとを去った。省一はただ、奈美への愛をボーカロイドの小隅レイに歌わせ、ピアピア動画にアップロードするしかなかった。しかし、月からの放出物が地球に双極ジェットを形成することが判明、ピアピア技術部による“宇宙男プロジェクト”が開始される……。ネットと宇宙開発の未来を描く4篇の連作集。


まあ、見ての通りまんまミクさんですね。
個人的には僕はこの作品の大ファンでして、SFって読んでみたいんだけどはじめてはどの本にすればいいかな、って知り合いに貸すくらい好きな作品です。
ニコニコ動画にボーカロイドという身近なガジェットを使いつつそこで描かれるのは紛れも無く壮大なSF世界で身近なニコ動から星間文明まで繋がるという、いってはなんですが世間的なSFのイメージである「なんか抽象的でよくわからん表紙の無駄に壮大で理屈っぽいわけのわからん話」から離れて新時代のSFを感じる作品でした。
野尻先生が批判してる作品はおそらくこの時間にBSで放映していたアニメ『この素晴らしい世界に祝福を!』


<あらすじ>
ゲームをこよなく愛するひきこもり少年・佐藤和真の人生は、交通事故(!?)によりあっけなく幕を閉じた……はずだったのだが、目を覚ますと目の前に女神と名乗る美少女が。「ねぇ、ちょっといい話があるんだけど。異世界に行かない? 1つだけあなたの好きなものを持って行っていいわよ」「……じゃあ、あんたで」ここから異世界に転生した和真の魔王討伐大冒険が始まる……と思いきや、衣食住を得るための労働が始まる! 平穏に暮らしたい和真だが、女神が次々に問題を起こし、ついには魔王軍に目をつけられ!?


……いやまあわかるよ?言いたいことはわかる。ネットの片隅の小説サイトで人気っていうだけならともかくこういうジャンルの作品が書籍化してかつアニメ化、しかも一つじゃなく『Re:ゼロから始まる異世界生活』とかこれから増えていく気配もあれば一言申したくなる気持ちもわかる。

でもさあ、SF作家がそれいうたらおしまいやろ。

そもそもがこの時間移動したり異世界にいって現代技術またはチートっぽい超技術で無双するという類の話はその元祖ともいえる「アーサー王 宮廷のコチカネット・ヤンキー」(兵器工場につとめるアメリカ人が古代イギリスのキャメロットに転移して当時の現代化学技術で無双)からはじまって「火星のプリンセス」(記憶喪失のアメリカ軍人が火星に転移して地球より重力が軽い火星で超身体能力で無双する。)とか以来の由緒あるSFの1ジャンルですよ?
野尻先生が
とかおっしゃってますけどそれこそこれまでのSFというジャンルの発展にツバを吐きかけるようなものなわけなのですね。
別に日本だけじゃなく世界各地でこういう類型の話はあるわけで、無理を承知でこじつけていいなら今中東では「なんのとりえもないイスラム教徒だった俺はある日疲れからか黒塗りのアメリカ軍の戦車に爆弾をもって突っ込んでしまう。気が付くと俺は絶倫のチート能力をもち72人の処女たちのハーレムを持つことになっていたのだ!」なんて転生チートハーレム話が大人気で……

暗殺されたくないのでここらでやめておきますがとにかくそのくらい普遍的な話なわけです。
(バローズは前述の「火星のプリンセス」の作者)
素晴らしい読書体験があればそれは転生ものでもよく、それがない作品はクズなのでしょうか。
一つの作品の出来不出来でそのジャンル全体をくだらないとかいってしまうのはかつてSFが散々やられて、シオドア・スタージョンというSF作家が
「確かに90%のSFはクズである」
「ただしあらゆるものの90%はクズである」
という金言で反論したものではないですか。
だいたい、批判しようと思えば野尻先生の「南極点のピアピア動画」だって
ボカロ曲をニコニコ動画に上げてたら出てった恋人は戻ってくるわ、予算が集まって有人ロケットは飛ぶわ、カーボンナノチューブを吐くクモは見つかるわ、スカイフック型軌道エレベータはできるわ、星間文明から派遣されたミクさん型の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースが一家に一台きてくれるわで
大分「コンプレックスまみれの視聴者をかくも徹底的にいたわった作品」だと思うんですがそこらへんどうなんですかね?

話はガラッとかわりますが今日本の「ハードな」SF業界は冬の時代を迎えつつあります。
作品発表の牙城ともいえる「SFマガジン」は月刊誌から隔月刊誌へ。
赤字ではないということですしいろいろ編集長がいいわけもしてきましたが作品発表/紹介の場が半分になることにかわりはありません。
「ハヤカワSF文庫」では既に発刊されていたマット・デイモンが主演した火星サバイバル映画『オデッセイ』の原作『火星の人』を……

ここに原作本があるじゃろ?これを…


こうじゃ!
行間をスカスカにして無駄に2分冊にして割高にして売るという読者を舐めくさった態度に出ていればさもありなんという感じですが、ともかくも日本のハードSF業界は衰退しています。
1999年からはじまった新しい才能を発掘する「日本SF新人賞」も2009年の第11回を最後に終了。
『虐殺器官』『ハーモニー』の伊藤計劃先生の早い死以降、新たな才能を見いだせず、割とお先真っ暗な状態です。

かといっていわゆる「SF」作品が元気ないわけではないのです。
累計1900万部を超え、アメリカでTVドラマ化まで決まった川原礫先生の『ソードアート・オンライン』は装着型VRデバイスから量子脳理論、ボトムアップAIとトップダウンAIといった多くのSFガジェットを使用していますし、

アリシ編完結しましたね!えっ続くの?プログレッシブは!?
同じ作者の『アクセル・ワールド』でもARデバイスが一般化した未来でのネットワークゲームと体感時間加速とその意義などが作品の根幹となるガジェットとして使用されています。
他にも鎌池和馬先生の『ヘヴィーオブジェクト』も遠未来での国家間闘争と特殊な巨大兵器体系の成立を描いたSF作品です。

超電磁砲とかもSFだとは思うけどまあわかりやすいほうで
これだけ小説にアニメにとSFジャンルの作品が元気なのにその活気を「ハードSF界隈」が活かせないのか。
それは「ハードSF」にかかわる作家、読者、編集者などが冒頭にあげた野尻先生のように広義のSFジャンルにある作品でも「ライトノベルだから」「ネット発の小説だから」と無意識に見下し、排除しているからではありませんか?(まあ野尻先生は『魔法少女まどか☆マギカ』が日本SF大賞の最終候補に残ったので日本SF作家クラブを退会なさったという筋金入りなんだけど)
っていうか変わらないなハードSF業界!ガンダムSF論争以来そうやって本来SFの範囲に入るものをクソだのクズだのいって新たな才能や発展を手に入れるチャンスを切り捨ててやがるぜ!

隔月刊になって分厚くなったSFマガジン、他社作品とはいえこれだけブームになってる(まあハヤカワSF文庫でシリーズ累計1000万部超えてる作品なんてなさそうだけど)ラノベ関係のSF作品紹介ページが何ページあるかご存知ですか?
1ページです。
それもだいたいノベルスとかと合わせて1ページです。2ヶ月で。
権利関係とかもあるんだろうけど恐ろしいアンテナの低さですね。

かくいう僕もかつてはそこそこ歴史のあるとある大学のSF研究会に所属していたのですがそこでもこのライトなSF作品を見下す「俺たちハードSF族」のライトノベルヘイトはそりゃもう凄まじいもので、「第一回SF新人賞を『M.G.H. 楽園の鏡像』で取った三雲岳斗先生のロボットバトルラノベ『ランブルフィッシュ』はSFですよね?」とライトノベル名をあげようものならサークル内で白眼視され、部誌に投稿するSF小説作品にいわゆる「ヒロイン」を出したら品評会で「ラノベっぽい」と吊るしあげられる始末。
「ラノベっぽい」が作品の貶し文句として成立するというだけでこの界隈がどういう空気が支配するかわかろうというものですね。

作品として面白いかよりもどれだけ複雑で高尚な理論が用いられているかが重視されるアカデミズム偏重主義という妖怪がSF界隈をさまよっています。
海外からの輸入SF作品を尊び日本に芽吹きつつある新しいSFの流れを切り捨てようとする妖怪でもあります。

しかし本当はSFファンと呼ばれる人だってそんなにハードSFばかりを好きなはずはないのです。
毎年SF大会参加者が選ぶ前年のもっとも優秀だと思う作品に贈られる『星雲賞』では映像部門では『ママは小学4年生』(1993年)、『魔法少女まどか☆マギカ』(2012年)『モーレツ宇宙海賊』(2013年)『ガールズ&パンツァー 劇場版』(2016年)、コミック部門では『うる星やつら』(1987年)『うしおととら』(1997年)『カードキャプターさくら』(2001年)『もやしもん』(2015年)という作品のメンツがファンにSFとして認められ、熱烈な支持を受けているのです。

この需要の切り捨て現象。
このまま「ハードな」SFばかりを尊びライトノベルやネット発の小説、アニメ作品を格下のものとして見る限り日本の「ハードSF」は早晩滅びることになるでしょう。
ハヤカワが「小説家になろう」「カクヨム」に相当するSF小説投稿サイトでも立ち上げてそれの書籍化とかやって新しい才能をどんどんデビューさせれば流れもかわるかもね。まあ無理だろうけど。

せめて安らかに眠れ。

脱皮できない蛇は滅びる。
その意見をとりかえていくことを妨げられた精神も同様だ。
                ――ニーチェ

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他23件のコメントを表示
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メタル界隈での一時期のBABYMETALはメタルなのか論争に近いものがあると思った(小並感)
3時間前
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商売として成立している時点で世間の需要があるということ
この野尻って人は「俺の嫌いなものが売れる世間はクソだ!」って言ってる馬鹿な餓鬼と変わらん
お前も作家の端くれでそんなに悔しいなら嫌いな異世界転生ラノベ以上に売れる作品を書けばいい。まあ今のままじゃ無理だろうけど・・・
ハードSF作家ってキャッチ―さやエンタメ性を極端に嫌う傾向があるように思っちゃうんだよなぁ・・・
2時間前
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>>24
まるで娯楽全体を否定しているかのように見えちゃうなぁ。
娯楽やエンタメっていうのは今いる現実と切り離せるからこそ楽しめる部分が大きいと思いますよ。
2時間前
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件のツイートはどちらかといえば、ハードだから良いとかテンプレラノベだからダメって問題よりも、見ている側の問題を指摘しているように思うけどね。
なろう出のラノベ原作アニメって確かに稚拙な自己顕示欲を満たすためのものが多くて、そういったのがウケるってのは現実で埋もれている矮小な自分を慰めるために物語を消費しているだけに思う。もちろん私自身も1クールに一本はその手の俺TUEEEものを見てるし、そういう風に物語を消費しているのだろうけれど、今の自分がそのまんまでもだめだよねっていうのも同時に思う。要するにこのツイートで言いたいのはそういった物語に自分自身が埋没しなくても済むように自己実現をできる自分になれるよう努力しようって話に思うけれど、その話をこのブログの筆者よろしくSFが権威主義的だから日本のSF業界はダメだみたいな話にすり替えてしまうのは二重に現実逃避してるようにしか思えない。
2時間前
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異世界転生モノ、自分は読まないけど一つのジャンルとして確立するようになったしなあ。
腐女子という種族がこの世から無くならないのと同様に、現実に希望が持てない人たちからの根強い人気によってこれからも栄えてゆくとは思う
誰が何を言おうとも、その手のものを求める人がいる限り、異世界モノが売れ続けるって事実だけは変わらない
2時間前
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ラノベうんぬんというより今は女のイラストがかわいくないんだよなあ
すごくこった話でない限り読む気も見る気も起きない
1時間前
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あんなゲスくてスケベで行動がぶっ飛んでいる常識外れな人物に自己投影なんてできないんですが(真顔)。

他作品なら、脇役によくいるイロモノおもしろキャラクターに分類される人物だよ。このすばの主人公は。
現実の自分磨きもがんばれよ!ということ自体はわかるけれど、「元ひきこもり」という設定だけで、読者が自分と照らし合わせて見てると考えるのは安直だと思うなあ。
1時間前
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「努力の少ない人生で幸福に生きるっていう生き方を肯定する作品見て同調してる暇があるならもっと自分を磨け」ってことなんだろうけどじゃあ努力したら幸福を掴めるかって必ずしもそうとは限らないわけで。「SFなんて読んでる暇あるなら実現できるようにもっと研究しろよ」って言ってるのと同じだと思う。
SFも異世界転生(ファンタジー)も「こういう世界だったらいいな」っていうフィクションなのは変わんないんだから。
1時間前
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>>24
>その作品の世界で完結させてるんじゃなくて、中途半端に現実とつなげるあたりが余計馬鹿げた現実逃避に見えてしまう。
でも、分かってる作者なら同じ設定でもちゃんとその辺踏まえて物語作るんだよな。主人公には苦難を与えるし、成長もする。現実から逃げられないことを作者が受け手側にはっきり突きつけてくる。そういう作品を知っている。
異世界ものって昔からあるし王道ではあるんだよやっぱり。それ自体は悪いことじゃないはずなんだけどねぇ。
1時間前
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転生ものなんて、せっかくの『地球要素』と言う大いなる資源を、ただ表現のしやすさの為だけに持ち出してるだけ、言ってみれば折角大きく育った大木をただつま楊枝一本作る為だけに切り倒してるようなもんだろ。
1時間前
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