救う手立てはなかっただろうか。警戒を呼びかける情報が繰り返し出ていただけに残念だ。

 台風10号による大雨で、北海道や岩手県など各地で浸水被害や堤防の決壊が相次いだ。岩手県岩泉町の高齢者グループホームでは、川が氾濫(はんらん)して入所者とみられる9人が亡くなった。

 平屋の建物の屋根まで流木が押し寄せ、褐色の土砂が窓をふさぐ。その光景は、濁流の勢いのすさまじさを物語る。

 ホームでは、認知症の症状のある人が共同生活を送っていたという。避難計画や、当時の職員の対応はどうだったのか。災害の危険は伝わっていたのか。隣接する介護老人保健施設では3階建ての建物の上階に全員が避難して難を逃れているが、どのような事情の違いか。

 今後の教訓とするためにも、施設や自治体など関係当局はくわしく検証してほしい。

 通常、1時間雨量が50ミリを超すと災害が起きやすい。岩泉町では30日夕、1時間に70ミリの雨を記録し、29日からの雨量は約250ミリに達していた。明るいうちの早めの避難の大切さを、改めて示したともいえる。

 災害時、自力での避難が難しいお年寄りや障害者に大きな被害が出ることは、これまでも繰り返し指摘されてきた。

 国は06年に「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」を策定。13年には災害対策基本法を改正し、自治体に災害弱者の名簿作成を義務づけ、個別の避難計画を作るよう促してきた。

 また介護保険制度も、グループホームや特別養護老人ホームに、避難計画を作って職員に周知することや、避難訓練の実施を義務づけている。

 こうした準備は大切だが、肝心なのは実際の災害を想定した備えになっているか、だ。

 福祉施設には、立地しやすい中山間部など、土砂災害リスクが高いところにある例が少なくない。09年には中国・九州地方の集中豪雨で、山口県内の特別養護老人ホームが土石流に襲われ、7人が亡くなっている。

 施設の立地環境を踏まえた実効性のある避難計画になっているかが重要だ。職員が少なくなる夜間は、施設内だけで全入所者を避難させることが難しく、地域との連携体制を日頃から築いておくことも不可欠だ。

 この機会に、全国の福祉施設で総点検をしてほしい。

 雨が多い日本で水害は身近な災害だ。今回も各地で冠水による孤立や、車内で身動きがとれなくなった人がいた。ふだんから自宅周辺の危険を知り、防災意識を高めておきたい。