2015年11月20日

世論のうねりを恐れつつ、メディア支配と対米従属を強める安倍自公政権の彷徨/11月上旬の報道から

<1日>
▽安保反対のうねり、盛り返しを恐れる安倍自公政権

 毎日新聞「支局長からの手紙」/宮崎。「なるはや乱用」と題した論評記事。
 「なるはや」、「ああ、なるべく早くの略ね」―ーと始まって、
1)アメリカ側から、集団的自衛権行使を容認する法成立を「なるはや」で求められ続けた安倍政権が「なるはやで!」と要請し、内閣法制局や与党の一翼を担う公明党が「り!」と応えた……。
2)急ぐ背景にあるのは中国や北朝鮮などの脅威論と、米国の「世界の警察官撤退路線」。日米同盟強化の名の下、米軍と自衛隊との一体化は一段と進むだろう。過半数の国民の理解を置き去りにした「なるはや乱用」の先に何があるのか。
(JCJふらっしゅ「報道クリップ」=小鷲順造)


3)与党は臨時国会を開くことをしぶっている。安保反対のうねりが盛り返すことを恐れているという。さしずめ「なるはやで忘れて」といったところか。
4)マグマのような思いを冷やすことなく来夏の参院選に臨みたい。

 昨年7月の集団的自衛権の行使を容認する閣議決定からこれまでを、ざっくりと軽妙なタッチで、かつ深みをもって振り返った記事だ。

支局長からの手紙:なるはや乱用 /宮崎(毎日新聞)
http://sp.mainichi.jp/area/miyazaki/news/20151101ddlk45070208000c.html


<3日>
▽憲法公布から69年。日本国憲法が「危機」――各地で集会


 11月3日、憲法公布から69年。各地で憲法にちなむ集会が開かれた。
 安倍政権が9条の解釈を変更して安全保障関連法を成立させた。今年の参加者は「憲法違反の政治が加速している」「違憲の安保法の廃止を求めよう」と声を上げた。共同通信の記事。
 今年の動きには、若者たちが目立つ。
 「若者憲法集会実行委員会」は新宿区で集会。メンバーの小山農さん(28)は「憲法は生まれた直後からさまざまな攻撃を受けながら命と尊厳を守ってきたが、違憲の戦争法が成立して危機にある。法廃止を求めて声を上げよう」と呼び掛けた。

 日本国憲法が「危機」にあることを実感を伴って伝えた大事な記事だ。

公布から69年、各地で集会 「憲法違反の政治が加速」(共同通信→東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015110301001572.html


▽ラムズフェルド米元国防長官やアーミテージ米元国務副長官に「旭日大綬章」

 2015年秋の叙勲受章者3964人を、政府が3日付で発表した。
 旭日大綬章には、清原武彦元産経新聞社社長(78)がメディア界から。この意味するところが若干気になる。
 なぜなら、外国人叙勲(89人が受章=これまでで最多という)のなかに、ラムズフェルド米元国防長官やアーミテージ米元国務副長官が「旭日大綬章」を受章。違和感を禁じえない。なぜこの人たちに、日本国がこのタイミングで、どんな理由で「旭日大綬章」なのか。彼らは日本国にどのような貢献をしたというのか。
 そう感じ始めると、外国人叙勲の数が気になり始め、ひいては元産経新聞社社長の「旭日大綬章」もいよいよ気になってくるわけである。
 この政権は、後の歴史がきっちりと裁くであろう安倍政権であることも忘れるわけにはいかないだろう。

秋の叙勲3964人 桐花大綬章に竹崎元最高裁長官(日本経済新聞3日)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS01H3X_S5A101C1PP8000/
秋の叙勲 3964人が受章(NHKニュース3日)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151103/k10010292571000.html


<4日>
▽非正社員の割合、ついに4割台に――厚労省調査


 正社員以外の派遣などの労働者の割合が、1987年の調査開始以来、初めて4割に達した。厚生労働省が4日に発表した就業形態の多様化に関する調査。共同通信が伝えた。
 正社員以外の派遣などの労働者の割合が昨年10月1日時点で40・0%となり、前回2010年調査の38・7%から上昇したという。調査では出向社員を「正社員以外」に位置付けているため、毎月実施されている総務省労働力調査の非正規雇用の分類とはやや異なる。
 調査対象は、従業員5人以上の民間企業のほか、今回から公立の学校や病院なども加えた。約1万1千事業所と、そこで働く約3万4千人から有効回答を得た。
 弱肉強食政策を推し進め、日本の経済社会の底力を脆弱化させ、政治家がただただ支配層にしがみつこうとするあがきと無策が、格差と貧困の蔓延する社会を生み出し続けている。そして、そのまま放置すればその先には、「いつか来た道」がぽっかり口を開けて待っていることについても、私たちは広く認識を共有して、政治の劣化・貧困そのものを打ち破っていかねばならないところへきている。

非正社員、初めて4割に上昇 - パートや再雇用増、厚労省調査(共同通信4日)
http://news.mynavi.jp/news/2015/11/04/569/


<6日>
▽国交相が「私人」と「行政機関」を使い分けて代執行提訴


 翁長雄志沖縄県知事は、名護市辺野古の新基地建設で、埋め立て承認取り消しの効力を停止した石井啓一国土交通相(公明党)の決定などに対し、公開質問状を送付する方針を固めた。
 石井国交相は、行政不服審査法の効力停止の決定において、沖縄防衛局の立場を「私人」とし、地方自治法に基づく代執行手続きでは防衛局を「行政機関」と位置づけるという奇異な使い分けを行って、代執行提訴。

 こうした異常な「国」の動きに対して、代執行提訴から一夜明けた18日午前、辺野古の新基地建設に反対する県内各地の市民が米軍キャンプ・シュワブ前で千人規模の抗議集会を開いた。国が行った代執行提訴に対して「訴えられるのは国の方だ」「沖縄に対する差別だ」などと声を上げた。
 ゲート前での座り込みの抗議は、開始から500日目を迎えた。国会議員や県議会議員、県内各地の市町村議会議員も駆けつけ、基地内への工事車両の進入を警戒するとともに、代執行提訴、海上でのボーリング調査再開などに象徴される政府の強行姿勢を厳しく批判した。

 私は断固、この抗議の側に立つ。

国は私人か、行政か? 翁長知事、使い分けで国交相に公開質問へ(沖縄タイムス6日)
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=140323
辺野古ゲート前、市民千人以上が国の代執行提訴に抗議(沖縄タイムス18日)
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=142058&f=ap


▽中国申請の「南京大虐殺」『世界記憶遺産』に登録――安倍政権“過敏”な反応

 10月9日に、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が、『世界記憶遺産』の47件の新規登録を認めた。中国申請の『南京大虐殺』を含んでいたことから、日本の政府・与党のほか、民主党の一部からも制度について「透明性の確保」をもとめる声が出た。
 新華社によると、中国申請の『南京大虐殺』は三つの部分からなる。<第一部分は大虐殺事件に関する文書(1937年至1938年)、第二部分は中華民国政府軍事裁判所が戦後行った戦犯に対する調査と裁判に関する文書(1945年至1947年)、第三部分は中華人民共和国司法機関の文書(1952年至1956年)。なお、中国が2014年に同時申請した「従軍慰安婦」に関する資料の登録は却下された。
 菅官房長官が同月12日のテレビ番組で、「拠出金の停止などを検討している」と明言するなど「過敏」な姿勢を示したことから、中国国営通信、新華社(電子版)は13日、「日本政府高官が(ユネスコを)脅迫した」などと批判的に伝えた。
 11月に入り、ユネスコのイリナ・ボコバ事務局長が6日、ユネスコ本部(パリ)で馳文部科学相と会談。会談でボコバ氏は「分断ではなく融合の原則が大事だ。加盟国間で問題意識の共有が必要だ」と強調し、登録に当たって関係国が対立するような事態を避けるため、具体策を検討する考えを示すなど、沈静化の兆しが報じられるなどしていた。
 だが、そうした動きの一方で、登録された中国の資料に対して、9月末に日本政府が国際諮問委員会に提出していた民間研究者の意見書の問題がここで再度浮上した。

 毎日新聞が6日、次のように報じた。
 <世界記憶遺産に登録された「南京大虐殺」に関する資料に対して日本政府が提出した民間研究者の意見書を疑問視する声が出ている。日本は、登録申請した中国に反論するため、外務省と専門家の意見書をユネスコ側に提出した。しかし、専門家意見書に南京事件否定派とみられている学者の著書が引用されるなどしたため、かえって日本の印象を悪くして逆効果になった恐れがあるという>
 記事によると、欧州と日中韓の歴史認識の比較を研究する静岡県立大の剣持久木教授は「意見書は、南京大虐殺を否定する学派にくみしている印象を与える。ナチスによるユダヤ人虐殺を否定するのと同様の印象を世界に与えかねない」としている。また、東京外国語大の渡邊啓貴教授(国際関係論)も「日本に対する印象を悪化させて逆効果になった可能性がある」と懸念しているという。
 記事はまた、日本政府は「非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できない」と認めていること、2010年の日中歴史共同研究では、日本側は被害者数を20万人を上限に4万人、2万人などと推計しており、中国側は「30万人以上」と主張したことを紹介している。

 ここからも、菅官房長官が10月12日のテレビ番組で、「拠出金の停止などを検討している」と明言するなどの反応は「過敏」とも呼ぶべきものだったことが、あらためてわかる。

 なお、この件に関しては、日経ビジネスオンラインが10月21日付で、福島香織氏の<南京事件「世界記憶遺産登録」の教訓 歴史的事実の追求か、政治的視点の戦略か>を掲載している。
 福島氏は<私は「南京事件がなかった」という立場ではない。だが……>という立場から、<私たちはすぐ、歴史的事実に拘るが、南京事件のように77年たっても真相がつかめない歴史事件については、いっそ完全に政治としての冷徹な視点で、日本人としてどのように向き合うかを考えてみてはどうだろうか>とする。<歴史的事実の追求か、政治的視点の戦略か>を中国の歴史認識国際プロパガンダに流されることなくという論点で、独自の見方を提供している。参考資料として下にURLを紹介しておく。

『南京大屠殺?案』が『世界記憶遺産名簿』に登録(新華社10月10日)
http://jp.xinhuanet.com/2015-10/10/c_134700104.htm
新華社、日本政府を批判 「ユネスコを脅迫」「ユネスコに報復検討」(共同通信10月13日)
http://www.sankei.com/world/news/151013/wor1510130018-n1.html
世界記憶遺産、制度見直しへ ユネスコ事務局長が明言(共同通信6日)
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=140448
世界記憶遺産:意見書 日本、「南京」否定派を引用 ユネスコ受け入れず(毎日新聞6日)
http://sp.mainichi.jp/shimen/news/20151106ddm001040141000c.html
南京事件「世界記憶遺産登録」の教訓 歴史的事実の追求か、政治的視点の戦略か(福島香織、日経ビジネス10月21日)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/218009/102000018/?P=2


▽BPO:「圧力そのもの」と自民党を厳しく批判――政権・自民党、ここでも“過敏”反応

 6日午後、やらせが指摘されたNHKの報道番組について、BPO放送倫理検証委員会(川端和治委員長)が記者会見した。
 共同通信などによると同委員会は6日、「重大な放送倫理違反があった」とする意見書を公表した。その中でNHKを厳重注意した総務省と事情聴取した自民党を「極めて遺憾」「圧力そのもの」などと厳しく批判した。
 記事は、<BPOが政府・与党を批判するのは極めて異例で、放送業界でつくった第三者機関が権力の介入に強く警鐘を鳴らすかたちとなった>と報じた。

 これをうけて自民党の谷垣幹事長が9日「報道の自由があるから、やらせに一切口をつぐんでいるのがいいとは思えない」と反論。谷垣氏は「放送は貴重な電波資源を使っている」と指摘して、同様の事例があれば「来てもらって実情を聞くことはある」と、今後も放送局幹部らから聴取する可能性を示した(東京新聞)。菅官房長官も、総務省の厳重注意について「放送法を所管する立場から必要な対応」と強調して、BPOに対し「放送法に規定する番組編集の際の順守事項を単なる倫理規定と誤解している」と述べた(同)。
 一方谷垣氏らの発言について、民主党の枝野幸男幹事長は「行政や与党は報道に最も抑制的でなければならない」と批判した(同)。
 10日には、首相の安倍氏が衆議院予算委員会で「総務省が対応するのは当然のこと」と反論。「納得できないのは、さまざまな議論がごった煮をしていてですね、非常にイメージをつくろうとしていると言わざるを得ないわけであり、BPOというのは法定の機関ではないわけで、法的に責任を持つ総務省が対応するのは当然のことだろうと」(TBS)。
 さらに、自民党がNHKの幹部を呼んで事情を聞いたことについて、「NHKの予算を我々は正しく使われているかどうかということを議論して予算を国会で承認していく」「国会議員が果たして事実を曲げているかどうかについて議論するということは当然のこと」(同)と強調した。

 こうした反論に対して13日、川端和治委員長は、「大きな反響に驚いた。委員からは『当たり前のことを普通に言っただけなのに』といった感想があった」(共同通信)と、委員からの感想が出ていることを紹介。さらに、「BPOは政治的な争いを起こそうと思っているわけではない」とし、「(自民党などへの批判は)番組を検討した上での意見と一緒に述べる必要があると感じたから載せただけ。これからさらに何かをするということはないし、BPOはそのような組織ではない」と話した(→共同通信)。

 やはり安倍政権と自民党は、BPOが意見書に付した指摘=NHKを厳重注意した総務省と事情聴取した自民党は「極めて遺憾」「圧力そのもの」という当然の指摘=を理解できないのだろう。
 私には、ここでもその右翼カルト小児病ともいうべき「過敏症」を露呈しているように思えてならないのである。

BPO、放送への圧力と異例批判 自民・総務省に(共同通信6日)
http://www.47news.jp/smp/CN/201511/CN2015110601001860.html
BPO:NHK総合テレビ『クローズアップ現代』 “出家詐欺”報道に関する意見
http://www.bpo.gr.jp/wordpress/wp-content/themes/codex/pdf/kensyo/determination/2015/23/dec/0.pdf
東京新聞:放送倫理機構の「圧力」批判に 自民幹事長「口つぐむのがいいのか」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201511/CK2015111002000136.html
「安倍首相、BPO意見書に国会で反論」(TBS10日)
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2632809.html
BPO、自民の反発に驚き 「当たり前のことなのに」(共同通信13日)
http://www.47news.jp/smp/CN/201511/CN2015111301002241.html


<7日>
▽武器価格 前年度の3倍――米国の言いなり契約の杜撰


 防衛省に対し東京新聞が、過去10年間のFMS調達の年度別額を集計して公表するよう求めた。2006年度から5年間は減少したが、11年度以降は増加傾向で、本年度は前年度の3倍となっている。
 自衛隊の武器を米政府から調達する「有償軍事援助(FMS)」での購入総額が、本年度は5916億円に上り、過去最高となることが分かったと報じた。
 垂直離着陸輸送機「オスプレイ」などが含まれる。FMSで購入するオスプレイは、すでに価格高騰が指摘されており、日本の「中期防衛力整備計画」(14〜18年度)に基づき、米政府は今年5月、17機と関連装備を合計30億ドル(約3600億円)で日本に売却することを決めた。このうち、本年度は5機で、機 体は1機約80億円に収まったものの、米側の言い値で決まる技術支援などのオプションが加わり総額が膨らんだとみられる、としている。

 記事は、「有償軍事援助(FMS)」について、<FMSは米政府の安全保障政策の一環で、購入国は米政府が決めた調達条件を受け入れる義務がある。条件は(1)価格や納入期限は見積もりにすぎず、米政府はこれに拘束されない(2)代金は前払い(3)米政府は契約を解除できる―という米政府に有利な一方的な内容となっている>と解説している。
 同紙は、<FMSは米側が価格や納期を有利に変更でき、日本の安全保障政策は武器取引を通じて米政府の影響を大きく受けかねないことになる>と警鐘を鳴らす。

 米軍への自衛隊の下請け化と対米従属の進行の実態を、具体的にまざまざと伝える重要な記事だ。

武器価格 米の言い値 不公平調達 前年度の3倍(東京新聞7日)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201511/CK2015110702000140.html


(こわし・じゅんぞう/日本ジャーナリスト会議会員)


posted by JCJ at 14:29 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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