遠藤ッ!!!
これはどういうことアルかッ!!?
は、はあ・・・。
(お、おい!!
井上、これはどういうことなんだ!?)
(あ、あの・・・ですね、私が調査したところによりますと、どうやらバズボンバーがみやび旅に寄稿した記事のようです・・・)
(はあああ!?
バ、バズボンバーだと・・・!!?)
おいっ!!!
遠藤、井上!!
おまえたち、私の話を聞いているアルかッ!?
はっ、はいっ!!
「なぜ、あのキュレーションサイトには「須原」の記事がひとつもないのか?その理由を徹底的に調べてみた」
なんだこの記事はッ!!
こんな記事を書かれてしまっては、須原の知名度が上がってしまうアル!!
いや、そんなことよりも、もし、我が社がこれらのキュレーションサイトに関与していることがバレてしまっては大変なことになるアル・・・。
この記事を書いているバズボンバー伊藤とかいう人物、こいつは一体何者アルか!?
Web業界はどこも我々タオ・パイグループの息がかかっているというのに、こいつの頭は正気アルか!?
お、恐れながら、バズボンバーは月間数千万PVの独立系のWebメディアをもっており、伊藤をはじめ、バズボンバー社員ひとりひとりのTwitterのフォロワー数も数万に達しています。
今、Web界隈では、広告代理店がもっとも自由に操れないコンテンツクリエイター集団として有名でして・・・。
はあああああ!?
そ、そんなやつらにこんな記事を書かれてしまっては、大打撃アル!!!
な、なぜ、こいつらを監視していなかったアルか!?
か、監視と言われましても・・・。
まさか、バズボンバーがみやび屋の味方につくとは想定外中の想定外でして・・・。
想定外中の想定外なんて言い訳アル!!
クビアルッ!!!
おまえたちとの契約は今この瞬間をもって解除するアルッ!!!
おまえたちは今後、我が社に一切関わらないようにするアルッ!!!
もし、我が社との関係を少しでも口外したのなら、命はないものと思えッ・・・!!!
えええええっ!!!?
そ、そんな・・・!!!
そんなもこんなもないアルッ!!!
さあ、早くこの部屋から出て行くアルッ!!!
あ、あの・・・。
今月分の業務委託料はどのように請求させていただければよろしいでしょう・・・?
はああああ!?
何を血迷ったことを言っているアル!!
本来なら、おまえたちが違約金を支払う立場アルッ!!!
ひ、ひえええええ・・・!!
おい、おまえら、早く出て行くんだ。
な、なんだおまえは!!
お、オレを誰だと心得る・・・!?
ヤン様はお忙しいんだ、失せろ、ダニめ。
ダ、ダニ・・・!?
ヤ、ヤン様ーッ!!!
くっ・・・。
サツキめ・・・。
ここまで私を愚弄するとは許さないアル・・・。
フフフ・・・。
いいだろう・・・。
束の間の勝利の余韻に浸っておくがいいアル・・・。
この代償は高くつくアルよ・・・。
しっかし、この記事・・・めっちゃバズってますね・・・。
はい・・・。
さすがバズボンバーというところです・・・。
ただ、まさか、彼らがこんな記事を納品してくるとは思っていませんでした・・・。
須原がキュレーションサイトから嫌がらせを受けていることに気付き、それをネタに記事を書くなんて・・・。
彼らなりの着眼点ですね・・・。
高橋、記事が完成したから確認してくれ。
・・・!!!
こっ、この記事は・・・!!!
「なぜ、あのキュレーションサイトには「須原」の記事がひとつもないのか?その理由を徹底的に調べてみた」
えっ・・・!?
むしゅしゅしゅ。
須原のことを調べていたら、どうも不自然なことがたくさん見つかったのでしゅ。
思わず笑っちまったぜ。
須原って場所は一体、何をしでかしたんだ?
キュレーションサイトから締め出されてしまってるみたいじゃねーか。
いえっ、須原は何も悪くないんです・・・!
実は・・・。
まあ、理由はどうでもいいさ。
オレたちゃ、“権力”ってやつが大キライでな。
人前ではいいカッコしているでかい企業が、こんな子供みてえな嫌がらせをしているとあっちゃあ、バズボンバー様の導火線に火が付くのも時間の問題だったってわけさ。
伊藤さん・・・!
嗚呼、インターネットとは本来、日陰に生きる者に光を当てるための力のはず。
そんなインターネットの力を悪用し、日陰を生み出そうとしている輩には、天罰を受けてもらうしかないのです。
山本さん・・・!
むしゅしゅしゅ。
なんだか、オレたち正義の味方っぽい記事に仕上がりましたねえ。
田中さん・・・!
みなさん・・・あ、ありがとうございます!
た、ただ・・・。
こんな記事を書いたら、バズボンバーさんたちが狙われてしまうのでは・・・?
だから、おもしれーんだよ。
こういう輩は権力と圧力で何でも押さえ込めると勘違いしてやがる。
その思い上がりを言葉の力で粉々に打ち砕いてやるのさ。
へへへ、楽しいじゃね~か。
言葉の力ってやつを試せる機会はそうはないぜ。
(ひ、ひえええ・・・)
あ、あと心配なのが、今回のコンテンツ、いつものバズボンバーさんたちのコンテンツっぽくないってことですが・・・。
バズボンバーのブランディング的に大丈夫なんでしょうか・・・?
ああ?
ブランディング、なんだそれ?
・・・高橋、おめー、オレたちのこと、何も理解してーねーな。
へ?
オレたちの理念は「バズでボンバーでハッピー」よ。
バ、バズでボンバーでハッピー・・・?
むしゅしゅしゅ。
オレたちはバズの力で“現状打破”する集団なのでしゅ。
コンテンツの可能性を邪魔する既成概念や権力と圧力。
そういったものを取り払い、ハッピーなイノベーションを起こしやすい世を作っていきたい。
ハッピーなイノベーション・・・?
オレの心の師である岡本の太郎ちゃんもこう言っているぜ。
「芸術は爆発だ」ってな。
そう、芸術は爆発、つまり、コンテンツはボンバーなのさ!
コ、コンテンツはボンバー・・・!?
芸術は爆発・・・。
コンテンツはボンバー・・・。
バズボンバーさんたちの言うとおり、本当にコンテンツがボンバーしてしまった・・・。
高橋さん、今回の記事、なぜこんなに拡散されているんですか?
バズボンバーって人たちはそんなに人気があるんですか?
あ、ま、まあ、バズボンバーさんたちはWeb界隈ではそれなりに人気がある人たちなのですが・・・。
私もまさかこんなことになるとは・・・。
今回のコンテンツ、どうやらバズボンバー節が炸裂しているようだな。
ボーンのおっさん!!
あ、あの、バズボンバー節ってなんだ・・・?
やつらが今回のコンテンツに施した演出のことだ。
演出・・・?
後学のために少し説明してやろう。
高橋も聞いておけ。
あ、ああ!
今回、バズボンバーが施した演出たち
今回の記事で、バズボンバーたちは以下の3つのポイントを重視している。
- 共感層の巻き込み
- 「客観性」の担保
- 読み手の「メタ的視点」への誘導
「巻き込み」・・・!?
そうだ。
やつらは今回の記事で、“世の中のキュレーションサイトによい感情をもっていない層”を巻き込むことに成功している。
とくに、コンテンツを生み出す側であるコンテンツクリエイターなどをな。
「自分たちのコンテンツの著作権を侵害しがちなキュレーションサイトが、さらなるあくどいことをしているなんてもう許せない」、そういった感情を沸き立て、ソーシャルメディアの拡散につなげているんだ。
まあ、キュレーションサイトがすべて悪いというわけではないが、コンテンツクリエイターにとってキュレーションサイトは印象が悪いことはたしかだ。
そ、そういえば、今回の記事では、バズボンバーの伊藤さんがほかの人の意見も取り上げる形で、10人のWebライターを登場させていました。
この時点ですでに「巻き込み」作戦が発動していたんですね・・・!
ああ、そうだ。
コンテンツの中で「巻き込み」をおこなうメリットは、巻き込まれた側が、そのコンテンツの拡散に協力してくれやすくなるということだ。
そしてさらには、コンテンツに多数の話者の視点を入れることで、内容の「客観性」が担保される。
客観性の担保・・・?
バズボンバーはWeb業界の間では名が知れているが、彼らが書いた記事を初めて見る人たちからすれば、彼らの意見は見知らぬ他人の意見に過ぎない。
つまり、カンタンに信用するわけにはいかないのだ。
そこで役に立つのが、さまざまな角度からの意見を見せることだ。
信用が「個」に紐づいていない状態なら、信用を「数」に紐づかせればいいのだ。
信用を「数」に紐づかせる・・・!
今回の記事では、バズボンバーの伊藤を含め、11人の話者が登場して意見を述べている。
この数を見れば、客観性を感じざるを得ないだろう。
そう考えて読むと、この記事ってすごく計算されていたんだな・・・!
ああ。
そして、さらなる特長は、読み手を「メタ的視点」へ誘導している点だ。
メタ的視点・・・!?
「メタ的な視点」の「メタ」とは「超越した」という意味を指す。
読者を自分たちと並列に扱うのではなく、読者を自分たちよりも上のレイヤーである「神」の視点へ誘導し、いい意味で読者に「上から目線」を与えているのだ。
「上から目線」を与える・・・!?
そうだ。
「上から目線」を与えることで、読者が意見を言いやすくなる。
そして、それがソーシャルメディアでの拡散につながる。
たとえば、今回の記事の場合、バズボンバーは自分たちからは結論を述べていない。
「今回の記事を読んで、どう思われるかはあなたたちの自由です」という形で、結論を読者に委ねている。
これこそがまさにメタ的な視点への誘導だ。
な、なるほど・・・!
また、バズボンバーの記事は、読者の「上から目線」を手っ取り早く実現するために、記事の冒頭で自分たちの存在を矮小に見せる演出を入れることが多い。
たとえば、今回の記事でいえば、「セミの抜け殻みたい」という自分を卑下した発言がその演出のひとつだ。
こういった演出は、自分たちが不用意に叩かれないようにするための防御壁にもなる。
人間というものは、偉そうにしている人物、ドヤ顔の人物、自信満々な人物に対して攻撃的になる傾向があるからな。
・・・!!!
この最初の文章にそんな狙いがあったなんて・・・。
ただ、ふざけて書いているだけだと思っていた・・・。
バズボンバーってすげえな・・・!
そうだ。
そして、これだけの演出をわざとらしく感じさせないバズボンバーのライティング力こそがやつらの強みだ。
ひええええ。
敵に回したくはない人たちだな・・・。
(た、たしかにバズボンバーのコンテンツはすごい。
でも、そのバズボンバーの狙いを一瞬で理解したボーンのアニキもやっぱすげえや・・・)
ちょ、ちょっと!!!
みんな、大変なの!!!
アネキ!?
どうしたんだ!?
そんなに慌てて・・・?
さっきから、みやび屋を取材したいっていうメールが殺到しているのよ!
えっ!?
バズボンバーさんたちが書いてくれた記事を見て、須原やうちの旅館に興味をもってくださった方が多いみたいで。
ニュースサイトの記者さんやブロガーさんからの問合せが殺到しているの!!
そいつはすげーや!!
いい流れね。
ただ、ここは少し落ち着いたほうがいいわ。
これから先、あなたたちが発信する意見はWebメディアに載ることになる。
不用意な言葉がWebに残らないよう、発言は慎重に考えていきましょう。
そ、そうですよね・・・!
サツキちゃん、いるかい?
この声は・・・?
サツキちゃん、急に押しかけてすまんね。
三桜館の旦那さん・・・と、皆さん!!
えーと・・・。
サツキちゃん、オレさあ、たたもうと思ってた旅館、実はもう一度、頑張ってみようと思うんだ。
そうさ、オレたちも、この須原を盛り上げるためにがんばるぜ!
サツキちゃんたちばかりにがんばらせるわけにはいかねーもんな。
皆さん・・・!!
それで・・・相談があるんだ。
よかったら、サツキちゃんたちのやっている・・・そのあれだ、Webマーケティングってやつをオレたちにも教えてくれねーか?
えっ・・・!?
(ボーンさん、ヴェロニカさん・・・どうしましょう?)
・・・。
(いいんじゃない?
ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために、よ。
須原がいい方向に向かうのなら、ノウハウを皆に共有することには大賛成よ)
(ありがとうございます・・・!!)
皆さん、ありがとうございます!
あ、あのですね・・・。
オレから一言、言わせてもらおう。
な、なんだ、あんたは・・・!?
サツキとムツミ、こいつらは、旅館を営んでいる中、時間を捻出してオレのノウハウを体得した。
今度はこいつらが自分の大切な時間を使って、おまえたちにノウハウを教えようというんだ。
中途半端な覚悟で臨むんじゃないぞ。
(ボーンさん・・・!)
わ、わかってるとも・・・!!
サツキちゃんとムツミくんたちに、教えてよかったと思ってもらえるよう、必死でついていくぜ!
みなさん・・・!
一緒に須原を盛り上げていきましょう!
おおーっ!!!
・・・ジェイク、俺だ。
ボーン、どうだ?
チップは見つかったか?
・・・いや、まだだ。
そうか・・・。
もし、このままチップが見つからない場合・・・破壊することも考えている。
・・・破壊・・・?
ああ。
「キャッシュオールクリア」を発動する。
キャッシュオールクリア・・・だと!?
お、お前、あの技は・・・!
・・・分かっている。
できることなら使いたくはない。
今、オレのまわりにいる者たちが一緒になってチップを探してくれている。
なんとかチップを見つけられるよう、最善を尽くすつもりだ。
おいおい・・・。
まさかおめー、チップの秘密をバラしてねーだろうな・・・?
大丈夫だ。
チップの秘密までは明かしていない。
安心しろ。
だったらいいけどよ・・・。
じゃあ、電話を切るぞ。
ああ。
ふう・・・。
しかし、探しているチップ、どこにあんのかな・・・。
小さなチップとはいえ、これだけ探しても見つからないなんて・・・。
・・・手伝わせてしまって、ゴメンなさいね・・・。
ヴェロニカとムツミは、須原近くの車道にてチップを探していた。
いやいやいや!
ゴメンなさいだなんて、そんな・・・。
オレたちのほうこそ、ヴェロニカさんたちには本当に感謝してるんだぜ。
みやび屋が復活したのは、ヴェロニカさんとボーンのおっさんのおかげだ。
あっ、ヴェロニカさん、そこ、さっきオレがチェックしたとこ。
あ、そうだったかしら。
だんだん、探す場所もなくなってきたわね・・・。
(それにしても、ヴェロニカさんと「チップ探し」って、なんだかデートみたいだな。
このままチップが見つからないほうがうれしかったりして・・・。
いやいや、何を考えているんだ、オレ!
ヴェロニカさんのためにしっかりチップを探すぞ)
・・・ムツミさん、前から聞きたかったことがあるの。
えっ?
な、何だい?
(もしかして、「彼女はいるの?」的な質問だったりして・・・?)
音楽活動って・・・もうしないの?
えっ?
音楽活動・・・?
あ、ああ、もうきっぱりあきらめたぜ。
東京で好き放題させてもらったし、未練はないさ。
あきらめを知ることも大人の男には必要だしな。
そうなのね。
なんだか勿体ないわ。
勿体ない・・・?
だって、音楽には音楽のよさがあるじゃない。
ライティングだけでは伝わらないものがこの世にはたくさんあるのよ。
えっ・・・?
よかったら今度、ムツミさんの音楽を聞かせてくれないかしら。
あ、ああ。
・・・ん??
どうかした?
あの停車している車・・・?
さっきからこっちを見つめているような・・・。
わわわわわわ!!!
銃撃!?
ムツミさん!!
ケガはない!?
あっ、ああ、バッグに入れておいた、このキーボードが防いでくれたみたいだ・・・。
・・・って、な、何者だよ、あいつ!!?
なんで銃で狙ってくるんだ!!?
(・・・事前情報どおり、銃をもはじき返す肉体の持ち主というわけか。
よかろう)
エンジンがかかった!?
危ないっ!!
ヴェ、ヴェロニカさん!!
ま、また向かってくる!!
茂みに逃げ込みましょう!
お、おうっ・・・!
!!
ちっ・・・見失ったか・・・。
仕方がない。
仕切り直しだ。
い、行ったみたいだ・・・。
あ・・・危ねーな!!!
あの車・・・。
オレたちのこと轢こうとしてやがったぜ・・・。
・・・・!?
・・・痛っ・・・。
ヴェ、ヴェロニカさん!!!!?
ヴェロニカは大丈夫か?
ボーンさん!
は、はい、さっきお医者さまが来られて・・・。
あっ!
ヴェロニカさん・・・!
・・・ボーン。
心配かけてごめんなさい。
・・・ヴェロニカ。
ヴェ、ヴェロニカさんは俺をかばってケガしたんだ・・・。
本当に申し訳ねえ・・・!
大丈夫よ。
軽い捻挫だったし。
ムツミさんが轢かれなくてよかったわ。
ムツミの話によると、何者かがおまえたちの命を狙ったということだな。
ええ。
明らかにムツミさんへの殺意が感じられたわ。
ムツミへの殺意・・・?
で、でも、一体誰が・・・。
お、おれ、世間の人に恨みを買うようなことしてねーからな!
銃を撃ってくる時点で普通じゃないわ・・・。
ボーン、もしかして・・・。
・・・ああ・・・。
・・・。
はああ・・・。
遠藤さま、ため息などつかれて、いかがなされましたか?
ラーメン、早く食べないと伸びてしまいますよ。
井上・・・。
オレたちって、なんでこう、うまくいかないんだろうな・・・。
あのバズボンバーの記事が原因で、ほかのクライアントも取引中止を伝えてきた・・・。
まあまあ、遠藤さま。
どんなときも不屈の闘志をもち続けるのが我々の強みだったではありませんか?
さあさ、元気を出して、また新しい事業を考えていきましょう。
ふっ・・・。
お前にはいつも励まされるわ。
なるほど、新しい事業・・・か。
まだ懲りずに悪だくみをするつもりか?
そう、懲りずに悪だくみを・・・。
ぎゃあああああっ!!!
ボ、ボーン!!!!!
ボーン、な、何の用だ・・・!?
な、なぜ、我々がここにいることを知っている・・・!?
おまえたちの会社に足を運んだら、社員が教えてくれたぞ。
な・・・、気の利かないやつらめ・・・!
・・・。
ボーンよ、貴様、タオパイグループに見捨てられた我々を笑いに来たのだろう・・・?
(タオパイグループから見捨てられた・・・?)
・・・おまえたち、ムツミの命を狙ったのだろう?
ムツミの命?
何のことだ・・・?
(おい!井上、ムツミって誰のことだ!?)
(あっ、みやび屋の女将の弟でございます・・・!)
(ああ、あのサツキとかいう女将の弟か)
そのムツミだか、ツグミだかよくわからんやつがどうしたって言うんだ?
(・・・)
(・・・こいつらの目はウソをついていない・・・)
(・・・ということは、ヤンか)
おいっ!
貴様、私の話を聞いているのか!?
おまえたち、今度は真っ当なビジネスをするんだな。
は、はああ??
ちょ、ちょっと!!
なんですか、あなたは!?
勝手に入ってこられては困ります・・・!!!
・・・!?
お前は・・・!?
お前がヤンだな・・・。
・・・貴様、何者だ?
俺の名はボーン・片桐。
みやび屋のWebコンサルティングをしている者だ。
ボーン・片桐・・・?
・・・そうか、お前か!!
みやび屋に取り入り、オレとサツキとの間を邪魔をしているネズミは!!
・・・なぜムツミを襲った?
ムツミ・・・?
ああ、みやび屋のサツキの弟か。
襲ったとは一体何のことアルか?
シラを切ってもいいことはないぞ。
お前たちはヴェロニカを傷つけた。
オレのパートナーを傷つけた罰を受けてもらう。
ヴェロニカ?
誰アルか?
・・・。
はっはっは!!!
我明白了(なるほど)、我明白了(なるほど)。
12号からの報告にあった、おまえをかばったという女のことだな。
あの女め、余計な邪魔をしおって!
(オレをかばった・・・?
こいつら、ムツミとオレを間違えて襲ったのか)
12号はおまえを仕留めるのに失敗したが、そのおまえがノコノコと足を運んでくれるとは好都合・・・。
サツキはお前には渡さないアルッ!!
者どもであえっ!!!
こいつをやつざきにするのだ!!!
ははっ!!
ボーンとやら。
この私に挑んだことを後悔させてやろう。
今日が貴様の命日になるのだ。
へっへっへ・・・。
どう調理してやろうか~。
これだけの人数を相手にビビって言葉も出ね~か~。
まずは腕から折っちゃおうかな~。
ヒャッハー!!!
・・・。
貴様らにはもったいないが、この技をくれてやろう。
・・・はあああああああ!!!!!
オレの校正を受けて、人生を更生してくるんだな。
!!!?
うぎゃあああああ!!!!!
も、もう、校正は十分・・・。
です・・・。
なっ、なんだとっ・・・!!!!?
(な、なんだこいつは・・・!?)
お、お前、ただのWebマーケッターではないアルな・・・!?
オレは“世界最強”のWebマーケッターだ。
せ、世界最強のWebマーケッターだと・・・!?
俺のタイピングは加速し続けるぞ。
はああああああ・・・!!!
き、貴様・・・!!!
ヴェロニカを傷つけた分、お前には特別なフィードバックをプレゼントしてやる。
えっ、えっ・・・!!?
はああああああ・・・!!!
ぎゃ、ぎゃあああああ!!!!!
ちょ、ちょっと待って!!!!!
・・・。
ヤン・タオよ。
は、はいっ・・・!!!
サツキたちから手を引け。
くっ・・・!!!
そ、それは・・・!!
さっきのお前との会話はすべて録音し、クラウド空間にアップした。
このまま手を引くというのなら、ファイルを非公開にし、俺は【沈黙】を守り続けてもいいんだがな。
ち、沈黙・・・!?
3秒以内に答えろ。
3・・・2・・・。
あ、わわわわわ、わかりましたっ!!!
サツキさんたちには手を出しません!!!
は、はい!!!
もう手を出しません!!!
・・・よし、それでは、その引っ込めた手を、今度は別のことに使ってもらおう。
べ、別のこと・・・?
あっ、ボーンさん、この3日間どこへ行かれていたんですか?
ヴェロニカさんが気にされていましたよ。
・・・ちょっとな。
・・・サツキ。
もう、ヤンにビクビクする必要はないぞ。
えっ・・・?
このサイトを見てみろ。
こ、これは・・・!
「TRAVEL UP」に須原の特集ページのバナーが・・・!?
へっ・・・!?
こ、このサイトってたしか・・・。
須原のことを書いてくれなかった温泉情報サイト・・・。
ど、どうして急に須原の肯定的な記事が・・・!?
「TRAVEL UP」はしばらくの間、須原に関する肯定的な記事をアップし続けるだろう。
へっ!!?
い・・・一体何が・・・。
少しお灸をすえてやったまでだ。
「TRAVEL UP」の運営はタオ・パイ社に移行され、須原のPRに全面的に協力してくれることになった。
ちなみに、ヤンは日本法人を残し、本社へ戻った。
もうお前に手を出すことはないだろう。
あ、ありがとうございます・・・!
な、なんだかよくわからねえが、ヤンがアネキから手を引いたってことは本当にうれしいぜ!!
ボーンのおっさん・・・。
ありがとな。
・・・俺はとくに礼を言われることはしていない。
ヴェロニカの仇を討ったまでだ。
ボーン!
ヴェロニカ、ケガの調子はもういいみたいだな。
サツキさんとムツミさんが適切な処置をしてくれたおかげよ。
ボーンのおっさんとヴェロニカさんが手伝ってくれた記事、高橋さんが見つけたライターさんが書いた記事、そして、バズボンバーが書いた記事。
結局、みやび屋はライティングの力で救われたようなもんだな。
俺もいい加減覚悟を決めて、旅館経営に真剣に向き合わないと。
このギターともいよいよお別れだな。
そういや、ヴェロニカさん・・・。
だって、音楽には音楽のよさがあるじゃない。
ライティングだけでは伝わらないものがこの世にはたくさんあるのよ。
ライティングだけでは伝わらないもの・・・!?
ヴェロニカさんが言っていた“ライティングだけでは伝わらないもの”って・・・。
ま、いいや。
なんにしても、オレは音楽を辞めたんだからな。
・・・結局、バンドの解散前に買ったこのエフェクターも使わなかったな。
ああ、いけねえ、いけねえ。
もう、オレは音楽を辞めたんだぜ。
・・・決めた。
今からこいつを弾いて最後だ。
こいつを弾き終えたら、オレの音楽活動は本当に終わりだ。
ギターの音色・・・?
ムツミさんかしら・・・?
!!?
ボーン、GPSが作動したわっ!
!?
こ、これはっ・・・!?
みやび屋・・・!?
ムツミさんの部屋を指している・・・!
ムツミの部屋・・・?
ムツミ、入るぞ。
ど、どうしたんだ、ふたりとも!?
そんな真剣な顔をして・・・。
お、俺のギターの音がうるさすぎたか?
ボーン!
GPSはこの小さな箱みたいな機械の中に反応しているみたい。
・・・!
エフェクターか。
???
ムツミ、そのエフェクターの中を開けさせてくれないか?
こ、このエフェクター?
べ、別にいいけど・・・。
ボーン、これ・・・!
ああ、チップだ。
まさか、こんなところにあったとはな・・・。
えっ?
えっ・・・?
ムツミ、このエフェクター、どこで手に入れた?
ど、どこで手に入れたって・・・。
半年くらい前、秋葉原にあったカスタムメイドのギターショップだよ。
店主がギークな人で、どっからかパーツを仕入れてきては、マニアックなエフェクターを作っているお店さ。
秋葉原・・・。
もしかして、あの爆発後の現場を片付けた業者が、秋葉原のパーツ屋に中古部品として流したのかもしれないわ。
それをギター屋の店主が見つけ、プリント基板か何かと勘違いして、このエフェクターに組み込んだ・・・。
そのようだな。
???
・・・ムツミ、そのエフェクター、俺たちに譲ってくれないか?
こ、このエフェクターかい?
こんなのでよければ、プレゼントするぜ。
・・・感謝する。
ボーンのおっさん、ヴェロニカさん、さっきから話しているチップって・・・。
ああ、これだ。
えっ!!!??
ええええっー!!!!!!?
ボーンさん、ヴェロニカさん、行ってしまうんですね・・・。
ああ。
おまえたちのおかげでチップは無事に回収できた。
いえいえ!
私たちのほうこそ、ボーンさんたちには本当にお世話になってしまって・・・。
このみやび屋、そして、須原がよみがえったのは、ボーンさんとヴェロニカさんのおかげです。
なんて御礼を言えば・・・。
いいのよ。
私たちにとっても素敵な出会いだったわけだから。
サツキ、ムツミ。
みやび屋のオウンドメディアは軌道に乗った。
ただ、闘いはこれからだ。
他社に負けないよう、記事を投下していけ。
お、おう!!
高橋、もうしばらくはサツキとムツミのサポートを頼むぞ。
ああ、あとは俺に任せてくれよな!
サツキ、ムツミ。
みやび屋が本当に復活するかどうかは、これからのおまえたちの活躍次第だ。
・・・そこで、俺からの最後のアドバイスを伝えておく。
最後のアドバイス・・・!
「言葉の力」を過信するな。
“言葉の力を過信するな”・・・!?
ああ。
おまえたちは、オレの教えのなかで言葉の強さを知った。
しかし、この世には万能なものなどない。
たとえば、日本語の深みは、言葉を憶えたての子供や、日本語に慣れていない海外旅行者には通じない。
彼らには文字よりも、ビジュアル、サウンドなどで、コンテンツの魅力を伝える必要があるのだ。
この須原に広がる雄大な自然の美しさ、谷川のせせらぎ、カワセミのさえずりが醸し出す空気感、そういったものは言葉で表現し尽くすのはムリだ。
言葉で表現できないものは、言葉以外で表現すべきなのだ。
“言葉で表現できないものは、言葉以外で表現すべき”・・・。
たとえば、写真や音楽の力などでな。
写真や音楽の力・・・!
なんとかチップを期限内に回収できたな。
ほんとね。
よかったわ。
ボーン、チップは見つかったのか!?
ああ。
かーっ!!!
心配したぜっ・・・!!!
ナイスだな!!
明日の飛行機でそちらへ向かう。
分かった。
・・・いよいよ始まるな。
オレたちの本当の闘いが。
・・・ああ。
ボーン、ジェイク、準備ができたわ。
いよいよ、始めるんだな。
ああ、そうだ。
・・・この世界を救うために・・・。
・・・あら?
・・・何かあったか?
ムツミさんからメールが届いたわ。
・・・ふふふ、ムツミさん、最近、須原のテーマソングを作曲したそうよ。
音楽の力でも須原の魅力を発信していきたいって。
ムツミさん、今はプロデューサーとして、須原を拠点として活動しているミュージシャンのプロデュースもおこなっているみたい。
そうか。
あら、添付ファイルがあるわ。
“ボーンのおっさんへ。
ライティングに悩む人たちを救うために、ボーンのおっさんから得た学びを歌にしてみた。
ぜひ聞いてみてくれ”って。
ムツミさんの作った曲、流してみる?
ああ。
オレたちの闘いのプレリュードとなる曲ならいいんだがな。
ふふふ。
Eternal Writing
(作詞・作曲・編曲:宮川ムツミ)
(I’m)looking for the words giving my soul
紡いだ思いは非連続のフレーズの果てに
消えない言葉を探し歩き出した
それはリライトの歩み
文脈もなく荒れるように書き続けた
揺れる表記を抱え
目に映る輪郭線は 論理を超え誘う Entrance to a sentence
概要 序破急 起承転結 貫くリード
(I’m)looking for the words giving my soul
紡いだ思いは非連続のフレーズの果てに見出しになる
(I)wanna find the words giving my soul
張り詰めたフィードバック・ループ超えて
ずっと刻み続ける
言葉の彼方へ
伏線のないエピソード 振り払って
僕は記憶を空ける
比べることもできず ただ立ち尽くした
それはまとめの功罪
切れ間なく奏でられた ブレスのないメロディー Entrance to a dungeon
冒頭 本文 補足 結論 振り向くエビデンス
(I’m)looking for the words giving my soul
隠した想いは終わりのないメタファーの果てに飲み込まれる
(I)wanna find the words giving my soul
止めどないフィードバック・ループ超えて
ずっと走り続ける
コトバの彼方へ
この歌詞・・・。
音楽の力で伝えるライティングか。
一本とられたわね、ボーン。
・・・フッ。
チップの秘密は・・・この本にこっそり書くかもよ。