今、生き辛さを抱えている人にこそ読んで欲しい村田沙耶香のコンビニ人間(芥川賞受賞作)
皆さんは、2016年の芥川賞を受賞した村田沙耶香さんの『コンビニ人間』はもう読みましたか。
コンビニ人間は、芥川賞を受賞しただけじゃなく、村田沙耶香さんが行った東京都内のコンビニでのサイン会も話題になっていますよね。
コンビニ人間の舞台となるコンビニエンスストアでサインをする、という試みはなかなか面白いです。
コンビニ、書籍に注力なぜ? 芥川賞作家のサイン会も https://t.co/JMMMjbmj1o
— 朝日新聞(asahi shimbun) (@asahi) 2016年8月29日
まあ、話題作りのためだと分かってもいますが、Amazonでのレビューも良かったことだし、興味が湧いたので、早速、古本市場にダッシュ。(新品を買えよ)
で、通勤電車の中で読んでみました。
文章は、非常に読みやすく、片道1時間の通勤電車の中で読了。
コンビニ人間のあらすじ
以下、こちらコンビニ人間のあらすじです。
第155回芥川賞受賞作!
36歳未婚女性、古倉恵子。
大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。
これまで彼氏なし。
オープン当初からスマイルマート日色駅前店で働き続け、
変わりゆくメンバーを見送りながら、店長は8人目だ。
日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、
清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、
毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。
仕事も家庭もある同窓生たちからどんなに不思議がられても、
完璧なマニュアルの存在するコンビニこそが、
私を世界の正常な「部品」にしてくれる――。ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、
そんなコンビニ的生き方は
「恥ずかしくないのか」とつきつけられるが……。現代の実存を問い、
正常と異常の境目がゆらぐ衝撃のリアリズム小説。Amazonの内容紹介より
コンビニ人間は生き辛さを抱えて生きている人こそ読むべき
コンビニ人間は、社会と自己との認識のズレから生き辛さを感じていたり、違和感を感じていたりする人にはすごくオススメです。
なぜなら、コンビニ人間は、マイノリティについて書かれている小説だからです。
作中では、常にメジャー対マイナーの構図を意識させるような描写が頻繁に挿入されています。
そのためか、コンビニ人間を読んでいて、ドキリとする箇所が何か所もありました。
たとえば、こんな一節。
これは、主人公である古倉恵子が、周囲との感覚のズレから、ある種の生き辛さを抱えていることが如実に現れている一節です。
私にとっては黙ることが最善の方法で、生きていくための一番合理的な処世術だった。
この一文を読んだとき
「ああ、これ、ぼくのことが書いてある」
って、感じたんですよね。
感覚が周囲とはズレているために、周囲の人に気味悪がられたり、排除されたりしそうになるのって誰しもが経験したことがあるのではないでしょうか。
ただし、その経験は加害者としてか、被害者としてか、は人によるとは思うのですが。
他にもあります。
これは、彼氏もつくらず、就職活動もせずに18年間延々とただひたすらにコンビニで働き続けている古倉恵子が言われた言葉。
「古倉さんも、もう少し自覚したほうがいいですよ。あんたなんて、はっきりいって底辺中の底辺で、もう子宮だって老化しているだろうし、性欲処理に使えるような風貌でもなく、かといって男並みに稼いでいるわけでもなく、それどころか社員でもない、アルバイト。はっきりいって、ムラからしたらお荷物でしかないに、人間の屑ですよ」
これについては、『普通』という言葉について考えさせられました。
30を過ぎて独身でアルバイトをしているとか、彼氏もつくらずにいるとか、婚活をしないでいるとか、無職だとかヒモだとかいう立場の人たちに対して、周り(社会)はだらしないとか、底辺とか好き勝手なことを言いますよね。
この言葉に対して、コンビニ人間は、ある種の答えみたいなものを出しているような気がします。
その答えは、何とも明快で、清々しさすら感じます。
自分の抱えている生き辛さに対して、何らかの答えが欲しい人はぜひ、コンビニ人間のラストを味わってほしいです。
他にも、こんな一節もぼくの心の琴線に触れました。
「いらっしゃいませ!」
私はさっきと同じトーンで声をはりあげて会釈をし、かごをう受け取った。
そのとき、私は、初めて、世界の部品になることができたのだった。私は、今、自分が生まれたと思った。世界の正常な部品としての私が、この日、確かに誕生したのだった。
どう頑張っても『普通』と呼ばれるものになれない人が、コンビニ店員という完璧なマニュアルがあるところでのみ、何者かになれる、というのはすごく分かるような気がします。
小説の名作の条件は、読み手に
「あ、これ、私のことを書いているじゃん!?」
って思わせることができることです。
コンビニ人間は、『普通』でないものを阻害する社会の偏狭さと、そこで、『普通』でないものとして阻害される人間が描かれていることで高い評価を得ました。
繰り返しになりますが、もし、この社会で何らかの生き辛さを抱えている、という人がいるのなら、その人にはぜひ、村田沙耶香さんのコンビニ人間を手に取ってみて欲しいと思います。
コンビニ人間の著者、村田沙耶香さんってどんな作風の作家なの?
村田沙耶香さんは、2003年『授乳』という小説で群像新人文学賞を受賞してデビューした作家さんです。
群像新人文学賞だけでなく、他にも2009年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、2013年『しろいろの街の、その骨の体温の』で、三島由紀夫賞も受賞しているという凄い作家。
他の作品としては、『殺人出産』や『消滅世界』、『マウス』、『タダイマトビラ』などがあります。
作風は、変わった作品が多いという傾向を感じます。
たとえば、『消滅世界」は、人工出産が主流となり、夫婦間のセックスが近親相姦(!?)とされ忌み嫌われている世界の話。
『殺人出産』は、10人子供を産めば、殺したい人間を一人殺せるという世界の話。
どちらかというSFチックで個性的な世界観が、固定のファンを掴んでいます。
実は、著者である村田沙耶香さんも未だにコンビニでバイトしている
インタビューによれば、芥川賞を取ったのに、村田沙耶香さんは今後もコンビニエンスストアのバイトを続けるつもりなのだとか。
芥川賞とってもコンビニエンスストアを続けるのってなんか意外。。。
芥川賞作家の方って個性的な人が多いですよね。
共喰いの田中慎弥さんや、火花の又吉直樹さん、蹴りたい背中の綿矢りささん、苦役列車の西村賢太さんといい、すごく面白い。。。
村田沙耶香さんは、2016年4月29日もBSジャパンの文筆系トークバラエティ『ご本、出しときますね?』に出演した際にも、
・今でも週に3日、コンビニでアルバイトをしている、
・夜中の2時から朝6時の時間で小説を書き、その後、8時から13時までコンビニで勤務をし、帰宅をしてからまた執筆をする、という風に言っていました。
付け加えると、レジ打ちをしているときが一番アイディアが浮かぶのだとか。。。
村田沙耶香さんにとって、コンビニのアルバイトは、自分の執筆のリズムをつくるための重要な役割を果たしているんですね。
それに、コンビニ人間はそのタイトル通り、コンビニエンスストアで働いている村田沙耶香さんと同年代の女性が主人公です。なので、村田沙耶香さんの経験が色濃く反映している小説だということになります。
まだ読んでいない人のためにネタバレは控えますが、ギリギリちょっとだけ言うと、ラストは、村田沙耶香さんのコンビニ愛を感じさせるものとなっています。
芥川賞の受賞会見でも、村田沙耶香さんは
「コンビニという場所は、小さいころから不器用だった自分がはじめてまともに何かをできたところで聖域です」
とお話していることからも、それは感じ取れるでしょう。
長くなりましたが、コンビニ人間、ぼくにとってはすごく良書でした。
しばらく、本書を手に取って、繰り返し読み返すことになりそうです。





