大阪ニュース

戦争体験の記憶 次世代に伝える

2016年8月16日

 大阪市天王寺区の出版社、新風書房(福山琢磨代表)が毎年夏に発刊している戦争体験集「孫たちへの証言」第29集(本体定価1300円)が完成した。代表の福山さん(82)は「『あの戦争』の実態を後世に伝承することで戦争の抑止、平和の持続につながれば」と願い、第1集から一人で編集作業をこなす。戦後71年を迎え、戦争の風化が懸念される中、来夏は第30集の大台となる。早くも投稿の受付けが開始されており「記憶を記録として次代の人々に伝えてほしい」と呼び掛けている。

「戦争体験を記録として後世に伝えたい」と次集への意気込みを語る福山さん=大阪市天王寺区の新風書房

 「孫たち〜」の原点は1988年。福山さんが開講する「自分史教室」の課題だった。当時の受講者が実際に体験した「1945年8月15日」をテーマとして1冊にまとめた。予想を上回る反響があったことから「より多くの人々の戦争体験を活字で残すべき」と、第3集から一般公募に切り替えた。

■寄稿者の変化

 今集までの投稿総数は1万8731編(掲載総数2304編)に上る。一般公募となった当初は体験者の多くが健在で記憶も鮮明。本の趣旨に賛同し「ぜひ書き残したい」と、ある年は投稿数が約1千に及んだ。戦後65年、70年といった節目には、壮絶な自身の体験を誰にも語らず封印していた人が「残り少ない人生を考え、書き残そうと思い直した」と、ペンを取ったケースもみられた。

■残された時間

 投稿数はやや持ち直しながら500編前後で推移しているが、体験者の高齢化や死去という非情な現実も迫る。過去には採用が決定しながら、本の完成を見ることなく亡くなったケースもあった。将来への対処として今集からは遺族など体験者以外が投稿する「伝承編」を新設。その結果、これまで時代の陰に埋もれたままだった貴重な体験、証言の数々が日の目を見た。

 福山さんは「体験者の年齢を考慮すると記録のために残された時間は5〜10年」と推測。「聞き取りをされる皆さんは、記録するのは今しかないという点を意識して伝承に臨んでもらたい」とエールを送る。

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【メモ】

 第30集のテーマは「戦争を“記録遺産”とするために書きとどめよう」。匿名不可で文字数は1600字以内。2017年3月末日締め切り。

 氏名、年齢、住所、電話番号を明記し、〒543−0021 天王寺区東高津町5の17 新風書房「証言集」係へ送付する。問い合わせは電話06(6768)4600。


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