あまりにも無惨な最期だった。
死体はショーウィンドウのガラスに激突してこと切れていた。頭部は著しく損壊して、もはや性別の判断もつかない。胴体はありえない方角に捻じ曲がり、千切れた四肢がその衝撃の激しさを物語っていた。
現場を目のまえで目撃してしまった母娘は、呆然と立ち尽くしていた。母は、その場に崩れ落ち、激しく嘔吐する娘の肩を、震える腕で抱いていた。
モス「チュウがやられた」
ヤブ「マヂでか!? 何処でだ!昼間の飛行は禁止だと言ったはずだぞ!」
モス「よっぽど腹が減っていたんだろう。目を離したスキに、フラフラ飛び出しちまった」
ヤブ「それで、やられたのか…」
モス「ああ」
ヤブ「血は!? 血は流れていたのか…?」
モス「いや」
ヤブ「一滴もか?」
モス「一滴もだ」
ヤブ「じゃあ、チュウは、たったのひと刺しも出来ずに死んじまったのか…」
モス「そういう事だな」
ヤブ「なあ。なんで俺らは飯食うのに命賭けなきゃならねえんだ?」
モス「宿命だろ」
ヤブ「なんで血なんだよ…他の奴らは、木の実とか葉っぱでも生きられるのに…」
モス「そうだな」
ヤブ「命張ってメシ食いに行って、しくじったら壁にBANかよっ!」
モス「運が悪けりゃな」
ヤブ「クッソ!あのデブが、あんな俊敏に動くなんて」
モス「油断即死。それが掟。チュウは甘かった」
ヤブ「だからって、あんな死にかた…ペしゃんこだぞ!」
モス「アリだって踏み潰されるさ」
ヤブ「俺たちには羽根がある!ゆるさん!ゆるさんぞ!オレはチュウの死を絶対に無駄にしねぇ! 裏庭のバケツに全軍召集だ! 」
そしてヤブは、各地に棲息するヤブ蚊族に伝令を走らせた。 アカイエカ、ヒトスジシマカ、チカイエカ─。
3日後、ヤブの召集に応じたヤブ蚊が続々と裏庭のバケツに集まってきた。その数、なんと333匹。その中から手練を選りすぐり、突入部隊は100匹に絞られた。みな、百戦錬磨の精鋭である。
軍法会議で、侵入口は換気口のスキマに決定された。日没と同時に全軍突撃。正攻法だ。総大将のヤブの首には、チュウの一度も刺すことのなかった嘴のペンダントが揺れていた。
しかし、そのとき、敵の本陣から一筋の煙が。
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果たして、ヤブの運命や如何に。