これから数回に渡って、「朝鮮人「慰安婦」身売り説を検証」していこうと思っている。
「朴裕河氏による」と言う形容をつけたのは、著作を読む限り、彼女はそう考えているとしか思えないということをハッキリさせるためである。「秦郁彦氏による」と言う形容でもよかったのだが、正直、過去の人になりつつある。どうせなら「旬の人」をダシに使わせてもらおうと思ったということだが、基本的にこの二人の日本軍慰安所制度に関する認識は、同じだと思っていい。
実は、この話、長くなりそうなので、我ながら気が重い。言及する学者、文化人は、李栄薫、小林よしのり、呉智英、伊藤桂一、西岡力、こちらの記事で言及した若宮啓文、秦郁彦、朴裕河の諸氏を予定している。いずれも「身売り」に関するニュアンスは微妙に違うが、「騙して」女性を慰安婦にすると言うことを「犯罪」と認識していない点では共通している。
一人一記事としても、考えただけで気持ちが萎えそうであるが、とりあえずはノープランで書きだして、断続的に長々と書き続けていこうと思う。朝鮮人「慰安婦」の大半は、「身売り」によって集められたと言う俗説は、日本社会の中では、容易に受け入れられてきた。結局のところ、言いたいことはただ一つ。誰が「軍慰安所」のようなところに志願していくものか、どこのまともな親が軍の慰安所に娘を売るものかということだ。最低レベルの公娼、私娼の境遇と比較しても、慰安婦の経済的メリットはほとんどない。嫌だと言っても、客だけは死ぬほどやってくると言うことを除いてである。こう書いたら分かり切ったことのようにも思うのだが、大半の日本人の常識は(糞ウヨの方々はある意味当然として)全く異なるらしいということが分かって、多少なりともビックリしているところだ。さすがに朝鮮人をバカにしていると思われてもしょうがなかろう。しつこくしつこく書いていくつもりである。
朴裕河氏に影響を受けて、本まで書いてしまったという、松竹伸幸氏はこう書く。「左翼」を自称する人が『朝鮮人「慰安婦」身売り説』を明確に主張している珍しい例である。普通はここまでアケスケに断言しない。正直と言う点では評価できるが、何の根拠も示していないのだから、褒められた話ではない。
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そういう政府でも、いや、そういう政府なのに、慰安婦を「強制連行」するための法令や文章は、必要としなかったのである。内地で日本人慰安婦を集めるのと同様の方法、すなわち、民間業者に依頼する方法で集めることができたのである。(P58)
「宗主国誘導型徴募」によって、民間業者は、多くの慰安婦を集めることができた。日本でも、慰安婦になるには、貧しい家庭の子女が親の借金の肩代わりになる事例が多いが、朝鮮半島の場合、その貧しさはさらに深刻であって、業者は容易に慰安婦を集めることができたのだ。(P70)
出典:慰安婦問題をこれで終わらせる。: 理想と、妥協する責任、その隘路から。 松竹信幸 2015 小学館
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日本人の場合、21歳以上の現役娼妓(正確には「醜業従事者」)でなければ、慰安婦になることは「できなかった」。このことを理解できていない時点で、ほとんど論外である。よくも本を書こうなどと思ったものだ。
「宗主国誘導型徴募」と言う、聞いたこともない用語が出てくるが、「慰安婦」として働かされることを本人に告知せずに、女性達を集めて戦地に送り込んでいたら、それは単なる「誘拐」である。公娼制度下で、娼妓となるには、きちんとした本人の同意の上で交わされた契約書が必要なのだ。戦地で兵隊さんの洗濯やら食事の準備やらをするという触れ込みで、「慰安婦」にさせられたのだとすれば、それは「就業詐欺」どころの話ではない。強制売春、強姦、誘拐、スラスラとこれくらいの罪状はすぐに浮かんでくる。
私が知っている範囲で言えば、朝鮮人女性が軍慰安婦になることを承知の上で、戦地に赴いた例で、一般に知られているのは一つしかない。
藤永壮「戦時期朝鮮における『慰安婦』動員の『流言』『造言』をめぐって」(「地域社会から見る帝国日本と植民地 朝鮮・台湾・満洲」 松田利彦ほか編、思文閣出版、 2013年)で言及されている、南京の慰安所から朝鮮に帰還した女性の話である。今のところ、Apemanさんのところくらいしか、まとまった記事はないが、とりあえずはこれで十分であろう。南京に赴いたのが1938年だから、中国戦線の最初期の慰安所の例である。
http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20141120/p1
前借金を返すのに一年半程度かかっていることから見て、凄まじいピンハネはあっただろう。だが、この例は、誰でも分かると言う意味での、刑法上の「犯罪」ではない。一応は戦地で「娼妓」として働かされることは、知らされていたからだ。この朝鮮人女性は、「娼妓就労中一日七十名位の客を受持たされたる関係上身体に無理を生じ食欲減退し腹痛腰痛あり身体衰弱し病臥したること縷々にして」とその過酷な体験を語っていたところ、「流言蜚語者」として、朝鮮警察に捕まった。
実は、この話、藤永氏の論文で有名になったのだが、昔からよく知られていた話らしい。いい加減だと一部で悪名高い(らしい)ジョージ・ヒックスの「性の奴隷 従軍慰安婦」の中に、この話題が出てくるのである。長くなるので、この説明は別の機会にするとして、藤永氏の論文には、「軍慰安所というのはとてつもなく苛酷なところである」と言う「風説を流布」していた、朝鮮の公娼施設の従業員が、ブタ箱に放り込まれた例も見られる。こちらは容赦なく禁固刑になっていると言う。
業者が、朝鮮の村々を回って、おおっぴらに「軍慰安婦」を募集していたとしたら、総督府警察は「慰安所」の実態を訴える声を「風説の流布」として、取り締まることによって、業者を援護していたことになるが、そう考える必要は全くない。業者は、「軍慰安婦」となることを隠して「徴募」する方向に向かっていくからである。
朴裕河氏による『朝鮮人「慰安婦」身売り説』を検証する(1)概説編
朴裕河氏による『朝鮮人「慰安婦」身売り説』を検証する(2) 慰安婦募集新聞広告の話
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