ほかに優先すべき施策がないか、現場の実態はどうか、慎重な吟味が必要だ。

 文部科学省が、私立の小中学校に通う子のいる年収590万円未満の世帯に、授業料の一部を補助する制度を考えている。

 年収に応じ、年10万~14万円を支援する。来年度予算の概算要求に約13億円を盛り込んだ。

 小中は、誰もが授業料がただで通える公立がある。私学を選んだ家庭になぜ補助するのか。

 私学の多くは中高一貫教育や男女別学、宗教教育といった特徴を打ち出してきた。だが小中とも、平均で年40万円余の授業料を払わなければならない。

 「家庭の経済状況にかかわらず、国公私を通じて多様な教育を選べるようにしたい」と文科省は話す。

 中高一貫の中学段階は公立だと授業料が無償だが、私立は有償だ。私学からは「格差を是正すべきだ」との声も出ている。

 子どもの学校選びが、家庭の豊かさに左右されないようにする。その方向性は正しい。

 私学に行かせたいが経済的なゆとりがない家庭には、限られた額だが朗報だろう。

 しかし制度化については、さらなる検討が欠かせない。

 教育費の負担を軽くする制度は、大学生への奨学金や、小中で学用品や通学費を支援する「就学援助」などがあるが、貧困の実態に追いついていない。

 公立に通いながら給食費を払うのに苦労する家庭や、学力があっても大学に行けない子がいるなか、私立小中の授業料の補助がどこまで優先されるのか。

 小学校から高校までの公教育で保護者負担を軽くする制度がないのは私立小中だけだ。公教育外のフリースクールにも公的支援のモデル事業が始まった。

 「義務教育にもかかわらず、私立小中に授業料の補助がないのは制度上、整合性を欠く」と文科省は言う。

 だが制度の問題だけでなく、現実がどうなっているのかを、まず把握する必要がある。

 恵まれない家庭が私学を選んでいるのはなぜか、どんな理由の世帯がどれだけあるのか。文科省は小中それぞれで実態を調査するべきだ。

 私学、とくに小学校は都市部に多い。私立の授業料を支援すれば、都市と地方の教育環境の格差が広がる懸念がある。各地の実情も調べてもらいたい。

 制度をつくる前にそもそも必要なのは、公立、さらには私学も含めた公教育でどこまで多様性を認めるのかという議論のはずだ。制度化は、そうした吟味を経てからでも遅くない。