■[技法] 2004年から2008年に米軍の実戦で使われた格闘技術
アメリカ軍で実戦に使われた格闘技術を調査した論文が以下のブログで紹介されている。
安全保障学を学ぶ: 論文紹介 現代の戦場に格闘は必要なのか
だいぶ前に私も英語の紹介記事だけ読んだが、ちゃんと本文を読んでいなかった。
せっかくなので論文から上記の記事で紹介されていない細かい技術の部分を紹介しておこう。
論文は以下に全文が公開されている。
Hand-to-Hand Combat and the Use of Combatives Skills: An Analysis of United States Army Post Combat Surveys from 2004-2008
この調査は2004年から2008年にかけて戦闘任務に参加した兵士を面接調査したもので、調査対象者1,226名の内216名(19%)が格闘戦を経験している。格闘と言っても徒手格闘だけではなく、武器を使った格闘も含まれる。
状況別の使用格闘技術は次の表のようになっている。
状況 | 組み技 | 打撃 | 武器 |
未回答 | 54 (68.4%) | 6 (7.6%) | 19 (24.1%) |
近接戦闘 | 22 (68.8%) | 2 (6.3%) | 8 (25.0%) |
群集・暴徒管理 | 9 (75.0%) | 0 (0.0%) | 3 (25.0%) |
捕虜確保状況 | 50 (86.2%) | 3 (5.2%) | 5 (8.6%) |
警衛勤務 | 11 (91.7%) | 0 (0.0%) | 1 (8.3%) |
ここで言う組み技はグラップリング、つまり関節技や投げ技・絞め技などの組み付いて行う格闘技術を指す。打撃はパンチとキックを指す。この調査の武器とは武器格闘で、銃で殴打したりナイフで戦ったりするものを指す。
どの状況でも組み技がよく使われている。
より詳しくどのような技が使われたか整理したのが次の表である。
総格闘技術 | 特定格闘技術 | N | % |
組み技 | | 146 | 72.6% |
| テイクダウン(不特定) | 32 | 21.9% |
| 腕関節技 | 26 | 17.8% |
| 関節技(不特定) | 25 | 17.1% |
| 絞め技 | 22 | 15.1% |
| 固め技(不特定) | 14 | 9.6% |
| 足払い | 8 | 5.5% |
| マウント | 6 | 4.1% |
| 手首固め | 6 | 4.1% |
| 投げ(不特定) | 5 | 3.4% |
| テイクダウン(膝) | 2 | 1.4% |
打撃 | | 11 | 5.5% |
| 拳 | 9 | 81.8% |
| 蹴り | 2 | 18.2% |
武器 | | 44 | 21.9% |
| 銃床による打撃 | 18 | 40.9% |
| 警棒・伸縮式警棒 | 14 | 31.8% |
| 銃口による打撃 | 9 | 20.5% |
| ナイフ | 2 | 4.5% |
| 銃剣 | 1 | 2.3% |
表の「テイクダウン」はタックルなど相手を倒す技術。「腕関節技」は原文では「arm bar」で、腕ひしぎ・腕がらみなどの肘・肩関節技である。「関節技」は原文では「submission」、「固め技」としたのは「Holds/Locks」で、両者をどのように区分したのかは論文では分からなかった。
武器の使用のうち、「銃床による打撃」はライフル(アサルトライフル、カービン等)のストックで殴打する技術。「銃口による打撃」はライフルのマズルで相手を突く技術である。また、論文では伸縮式警棒の例として有名なブランドのASPが挙げられている。
この年代の米軍の近接格闘はブラジリアン柔術の比重が高く、打撃よりも組み技重視の訓練を行っていた影響もあって、組み技の頻度が際立って高い結果となっている。