Facebookを退職しました
転職するたびにブログ記事を書く必要はないと思いつつ、入社エントリがあったのだから退社エントリもないとダメだろうという自分の中の律儀さに応えるために、なんらか書いてみます。
Facebookには4年前、2012年4月16日に入社しました。Ad Operationという役職でしたが、研修中にMedia Solutionsへチーム名が変わりました。2013年12月にはClient Solutionsに再度変更。「名前が変わってもやることは変わらない」というのはよくある話ですが、実際には会社がすさまじい勢いで大きくなる中で、名前より早くやることが変わっていくというか実態でした。2014年9月にはそのままClient Solutionsチームのマネージャーになりました。
それから2015年6月にMarketing Scienceというチームに移籍、Instagramの担当となりました。2016年からはInstagramとFacebookの垣根がなくなったので、両媒体について、主にブランド広告分野を担当しました。そして今月に最終出社を行い、いまは有給消化中です。9月からはBuzzFeedで働きます。
在職中は大きく、二つのチーム(Media/Client SolutionsとMarketing Science)にいたのだけど、実際にはもっと色々あった気がします。もうちょっと詳しく書いてみます。
- 2012年
- 面接を受けて、入社してみたら、東京オフィスでは広告チームの一号社員だった。正確には、同期が他に三人いたので、一号から四号のどれか。
- 日本のFacebook人口が急拡大していたこと(入社直前に1000万MAUを発表したが1年ちょっとで2000万になった)、Facebookがこの年の上場を境に広告事業を急推進させたこと(入社時にはモバイル広告さえなかった)、それまでFacebook広告に興味がある人はいてもまともな窓口が日本に存在しなかったことなどあって、入社直後よりあらゆる人からのFacebookに関するあらゆる質問が飛んできて、こつこつ対応した。
- 私自身が広告業界の人間ではなかったので、業界の掟を学びながら、Facebookのことを理念から投稿のポリシーまで説明する毎日だった。クライアントに営業をして、発注をもらって、社内システムに登録して、広告システムに入稿して、配信トラブルが発生して、本社に文句を言って、代理店に謝りに行って、みたいな多重録音一人バンドのような仕事だった。
- 2013年
- 順調すぎて手が回らないので「先月の売上すごいけどなんでだっけ?」みたいな感じであった。おかげで営業チームが増員されたものの、オペレーションを回す体制が遅れることになった。
- そこでオペレーション側の担当となり、人を雇い、誰がどう問い合わせに対応するかという基本的なフローを整備していった。広告商品が新しくなった時に営業で使い回せる資料を作るとか、どの代理店に誰がどういう定期で会いに行くとか、そうした当たり前のことにようやく目を向けられるようになった。
- オペレーションや商品に関するあらゆる質問が集まるので、少なくともこの頃は、日本で一番Facebookに詳しかったという自負がある。
- 若い人を採用したくてインターンを集めたが、優秀な人が来てくれたのに、いろいろあってうまく後に繋げられなかった。
- 2014年
- オペレーションは他のチームに任せられるようになり、Client Solutionというチームの本分である、営業とオペレーションのあいだ、すなわち広告のソリューション提案(メディアプランニングから運用サポートまで)に注力できるようになった。
- チーム作りが急務となり、たくさんの人を面接して、優秀な人を採用し、そのままチームのマネージャーになった。男性は営業のほうに集まるのか、私のチームは女性ばかりだった。
- マネジメントは楽しかったし、様々なことを学び、おそらく人間的に800%くらい丸くなったが、一方でクライアントに直接会う仕事も続いており、とにかく忙しかった。もっとマネジメントをやるべし、もっとクライアントに時間を割くべし、という両方のリクエストがあって、両立はむり! という結論にほどなく至った。
- 2015年
- というわけでMarketing Scienceという広告リサーチのチームに移籍して、広告事業が日本でも始まるタイミングであったInstagramの担当になった。前職がインターネット業界のリサーチャーだったので、今までの担当よりずっと自然な仕事だと考えていた。
- 実際、当初はInstagramのユーザインタビューなど、それっぽい仕事をやっていたが(ずっとリサーチの外注を請け負ってきた人間がリサーチを外注するのは何とも面白かった)、Instagram事業自体に専任があまりいなかったので、結局は広告商品投入などの戦略作りから、日々の売上の進捗管理まで、Instagramなんでも屋をやることになった。
- 媒体自体の注目が高かったせいか、Instagramの中の人としてあちこちに取材を受けたり、イベントで話をした。「Instagramのためにキャンペーンを考える必要はない」などと、あまり業界の人が言わなさそうな、わりと言いたいことを言った。
- 2016年
- Instagram広告がFacebook広告とプラットフォーム上ほぼ統一されたことから、改めて両方のリサーチを、主にブランド広告の分野で担当した。
- ブランド広告主向けのイベントがあったのでストーリーを作ったり、ブランド広告の新しい効果測定手法を外部の調査会社と作ったりした。
こうして見ると、前職がいわゆるプロジェクトベースの進め方で、案件が入ると人が集まり、レポートを納品すると解散、という形式だったので、Facebookでもそれが抜けなかった気がします。Facebook広告を立ち上げましょう(2012年)、オペレーションの体制を整えましょう(2013年)、ソリューションチームを作りましょう(2014年)、Instagram広告を立ち上げましょう(2015年)、というプロジェクトを順に片付けてきた感じ。飽きっぽいので、そういうスタイルのほうが向いているのかもしれない。
あと、とにかく「社員が利用するFacebook」上に大量の情報があるので気になって巡回していたり、人が少ない中で多くの仕事を任されているのに、ついつい気になって関係ないプロダクトにまで口を出したりしていると、自分はやっぱりネットオタクで、ネットオタクがネット企業で働くと案外と仕事人間になってしまうんだな、と気付きました。
そんな中でもやって来た仕事の共通点を探してみると、本社と日本のリエゾン、橋渡しだったのではないかと感じます。Facebookという、西海岸カルチャーで、良くも悪くも動きが早く、ビジョンを重視する、テッキーな会社のノリが一方にあって、もう一方には日本の広告業界という、世界で見ても独特な構造で、慎重かつ細部にこだわり、何より結果が求められる市場環境がある。
クライアントには「いやー、日本には馴染まないかもしれないですけど、これがグローバルで流行ってるんですよ」と言いつつ、本社には「いやー、米国ではこれでいいのかもしれないけど、日本だと困るんだよ」と言う、みたいな。
結果的に、日本から重要なフィードバックを返していたのに本社にはなかなか伝わらず苦労したこともあれば、「なんでこんなことをするんだろう」というような本社からのアップデートが後になって日本でも重要な意味を持つことに気付いたりすることもあって、カルチャーギャップを埋める面白さと難しさを存分に体験しました。英語もだいぶできるようになった。
そんなこんなで4月にブランド向けイベントが終わり、次はどういうプロジェクトをするかな、と思ったところで、別に社内プロジェクトである必要はないよなと考え、転職を考えました。
私の趣味と合致するネット企業で、私の本分であるリサーチに重点を置き、私の経験が生きそうな広告事業のあるところ……と思って、日本でもローンチ以来話題を集めているBuzzFeed Japanのことが頭に浮かんだのが五月のこと。リサーチ職は特に募集していなかったけれど、Twitter上で面識のある(だけの)@daichiさんに「リサーチ職で採用予定あるでしょうか」とDMを送ったところ、とんとんと進んで、9月からBuzzFeedのリサーチ担当ということになりました。
Facebookがどれだけ素晴らしい会社であったか、この4年でどれほど貴重な経験を得たかは、これ以上に書く必要もないと思います。特に2012年の時点では「Facebookはモバイル時代を生き残れない」とか「Facebookの上場は失敗だった」とか「Facebookは日本で成功しない」とか「Instagramの買収額は高すぎ」とか言われていたことを思うと(そういう記事は全部ブックマークして今でも時々読み返します)、この会社の成長・成功はすさまじいですし、自分がその一部にでも貢献できたことは誇らしく感じます。また、一緒に仕事ができた同僚や代理店・広告主の皆様には感謝しかないです、本当に。
じゃあなんで辞めるねん、というのはなかなか説明が難しいのですが、一つにはFacebookがあまりに巨大な存在になったので、私一人のリサーチャーとしての考えと、先に書いたようなFacebookの考えを伝道してくことを、どう折り合いをつけるのかには最後まで悩んでいました。
たとえば、私はYouTubeも好きですし、Twitterも好きですし、急拡大していくデジタル広告市場において、それぞれが共存しながら役割を果たしていくことが可能だと思っていますが、プラットフォームの中の人間としてそうした声を上げていくのはなかなか難しいです(このブログを含め、だいぶ好き勝手に言ってきたほうだと思いますけど)。
BuzzFeedは自身がメディアでもあり、広告媒体でもあり、(分散型メディアなどと言われてますが)他媒体へのコンテンツプロパイダーでもあるので、その立ち位置を生かして今後はもう少し客観的に、もう少し広い視点で、ネット業界を分析していきたいな、と今は思っています。まあ、まだ働いてもいないのでどうなるか分かりませんけど。
色々ありましたし、今後も色々あると思いますが、引き続き面白い仕事をできればいいなと。何卒よろしくお願いします。