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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第3章 真紅の森と黒いフクロウ

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第35話 その名は『ネヴァーリデス』


「やっほー、来ちゃった♪」


 ずこぉっ!! ×2


 ……何が起きたか説明すると、

 禁制品の密輸と土砂崩れに由来する、『真紅の森』での騒動から帰還した、その翌日、

 朝食を食べたそのすぐ後、こんこん、と部屋の扉をノックする音が聞こえた。
 誰だろう、とエルクがドアを開けたら……

 ……そこに、満面の笑みのアイリーンさんが立っていたという話。


 ☆☆☆


 ギルドマスターさん、突然の訪問。

 朝っぱらから、こんな一冒険者の宿までわざわざ尋ねてきたその理由は、一体なんだったのかというと、

「うん、実はさ、昨日美味しそうなお菓子貰ってね? おすそわけ」

 ……あの、あなたギルドマスターですよね?

 タイミングがタイミングだから、てっきり何か重要な問題でも起きたか、そうでなくとも、事情聴取くらいはされるもんだろうだと思ってたけど……見事に、ありえない形で予想を裏切られた。

 その辺、ギルドマスターとして報告とかさせなくてもいいんですか、と訪ねたら、

「報告? いいよ別に。イーサちゃんから聞いてるし、ぶっちゃけ聞かなくても想像つくもん。『魔物に襲われてミナト君が暴れて終わり』ってとこでしょ?」

 と、アイリーンさん。
 要点30字以内でまとめやがったよこの人。……間違ってないけど。

 まあ、その『イーサちゃん』ってのが誰かは知らないけど、それならそれで、なんだってあんたこんな気軽に遊びに来るんですか。

 仮にもギルドマスターが、一冒険者の宿なんか訪ねてきたりなんかしたら……色々と面倒なことになるんじゃない?

「大丈夫大丈夫、問題ないよ。認識阻害の魔術使って来たから、誰もボクだって気付いてないし。後のことはバラックスに頼んであるから、午前中くらいならサボっても平気」

 別の問題が発生してます。

 とはいうものの、アイリーンさん自身がそう言うなら、僕もまあ、納得せざるを得ないんだけど。これ以上何か言っても、大して意味無さそうだし。

 そして補佐のバラックスさん、お疲れ様です。

 で、そんなことを話し終えると、同じポーチの別のポケットから、カステラと思しきお菓子を取り出した。ああ、さっき言ってた『おすそ分け』ね。どうも。

 ポーチの大きさと、今取り出したお菓子の袋の大きさが明らかに違うから……おそらく、僕のリュックと同じ、収納系のマジックアイテムだろう。

 その後はそのカステラをいただきながら、今回の事件について、どんなことがあったか、僕とエルクの話を、面白そうに聞いていた。

 アイリーンさんはさっき、『報告』はしなくていいって言ってたけど、こういう世間話テイストでの話はまた別らしく、暇つぶし感覚で耳を傾けていた。

 途中何回か、報告に無かったらしい部分が混ざってた時や、個人的に興味がある部分があった時なんかは、興味深そうに掘り下げて聞いてきていた。

 山小屋近くにも土砂崩れが起こってたところとか(この時点ではスウラさん達と一緒じゃないしね)、僕が闇魔力や、オリジナル魔法『マジックフェロモン』を使ったところとか。

 山小屋の件は、どっちみち報告しなきゃって思ってたから、ちょうどよかった。

 とりあえず、そんな感じで一通り説明すると、アイリーンさん、満足そうにニヤリ。

「なるほどね。犬にウサギにトカゲにゴキブリにバッタか。また色んなの相手に大立ち回りしたみたいだね」

「ホントは犬だけのはずだったんですけどね。災難でした」

「そう言うなよ。君らが遠回りしてくれたお陰で、スウラちゃんたちの部隊は助かったようなもんなんだから」

 まあ、そりゃ確かにそうだけど。
 僕とエルク抜きで、あの状況になってたら、って考えると……ちょっとうすら寒いものがある。

 僕はもちろん、エルクも、馬車に飛び掛ってくるミニサイズの魔物の迎撃にはけっこう活躍してたし。少なくとも、あの不良コンビよりは。

 あの2人要領悪くて。けっこう被弾して、早々に治療組に回っちゃってたから。

 その点エルクは、基本的にヒットアンドアウェイ戦法で、回避ももともと得意だったのと、最近では、僕と一緒に訓練してることもあって、動きに少しずつ磨きがかかってきてるから、あまり攻撃にも当たらなかった。

 だから、総合的な働きで見ると、僕やザリー、スウラさんなんかには見劣りするけど、かなり防衛に役立つ働きを見せていたのである。

 それ考えると、うん、逆によかったかもね。
 結果論だけど、スウラさん達が死ぬようなことにならなくて済んだわけだし。

「けど……運がよかったね、ミナト君も」

「え?」

 と、突然そんなことを言ってきたアイリーンさん。運?
 何のことを言われてるのかわからなくて、きょとんとなる。

 今の話に、僕が運がよかった部分なんてあったっけ?

 そう聞くと、

「ミナト君、君に渡した『リスト』のこと、覚えてるかい?」

「? ああ、あの、あんまり内容を思い出したくない目標リストですか?」

「そう。その中にいたろ? 『エクシードホッパー』の亜種も」

 ああ、うん、確かにいた。討伐目標のリストの、たしか一番上に。
 けど、それがどうかしたんだろうか?

「あの時は言うの忘れちゃったんだけど、あのリスト、上から下にいくほど魔物が強くなっててさ、たまたまで、しかも一番最初に一番弱い奴に出会えるなんて、運がよかったね、って話」

「……ああ、そうなんですか」

 隣で『マジか!?』って表情で愕然としているエルクに、何もいえない。
 あれ、一番弱いのか。リストの中で。

 まあ確かに、母さんに認められるレベルの目標魔物としては、ちょっと弱いかな、とは思ってたけど。

「それとね、ここらへんじゃまずないけど……ずっと田舎のほうに行くと、何年かに一度ごくまれに、100匹くらいの大規模な群れを作ってる『亜種』がいたりするんだよね。たまにギルドに討伐軍編成の依頼が来るから、機会があったら行ってみれば?」

「……まあ、エルクが今よりも強くなってたら」

「無理だっつーの!!」

 悲痛&必死な叫び。冗談だよ、冗談。
 僕も好き好んでそんなとこ行きたくないし、そうそう行き先でそんな群れに出くわしたりもしないだろうし……とか考えるとフラグになりそうだから考えないようにしよう。

 まあこの辺や、あのエクシード軍団がもともと生息してた部分でも、そんな規模の群れはないないらしいから、一応安心ではあるけどさ。

 そして、アイリーンさんの話では、すでに『真紅の森』には、ギルドから調査以来が出され、情報収集目的の冒険者たちがもう何人も森に入ったのだそうだ。

 当然、『今までよりも危険である』との告示は出してあるらしいけど、それで諦める冒険者はほとんどいなかったとか。とりあえず、無事を祈っておこう。

 そんな感じだから、あとで警備隊の方から事情聴取に呼ばれるかもしれないらしいけど、冒険者ギルドに関しては、この件はこれ以上何か粗探ししたりすることはないらしい。
 『不測の事態だったけど、それだけ。もう解決した』ということにするそうだ。

「とはいうものの、また『黒ずくめの冒険者』の噂は広がってきつつあるから、ミナト君はこの先もちょっと苦労しそうだけど、ね」

「あー、そうですか……」

 ……僕の方は解決しないそうだ。
 まあ、馬車で町に戻った時、護衛だったとはいえ、思いっきり先頭の馬車に乗ってたからなー。そりゃ目立つよなー……。

「それに、今回の一件で、君またランク上がるだろうからね。ギルドカード更新しなきゃだから、また今度ギルドに来てね?」

「はい……」

 まあ、レベルに関してはそうだろうなとは思ってたけど……ああ、陰鬱。

 前に、『ナーガ』の一件の後、同じような状況になったことを思い出す。

 興味本位の野次馬や、同業者の値踏みや牽制、それに、他の冒険者パーティへの勧誘、などなど……噂が広がったせいで、しばらくの間すごく面倒だったのを覚えている。

 しかも、今度は2回目だからなー。
 前科(?)もあるし、もっと面倒になる気配がするなー。

 そんなことを考えて僕がため息をつき、その様子を、エルクが諦めるような目で見ていると、ふと、思い出したようにアイリーンさんが言った。

「ところでミナト君、ボクさっきから、気になってたことがあるんだけどさ?」

「はい?」

「さっきの話にも出てきたけど、君、ペット飼い始めたんだよね?」

「あ、はい。今は隣の部屋に待たせてますけど」

 ああ、アルバのことね。

 今はホラ、来客中だし、お菓子……食べ物が出てるってこともあるから、アルバにはおやつ(バッタ肉)渡して、隣の部屋で大人しくしてもらってるんだけど。

 さっきの話の中では、アルバのことももちろん話した。
 多分魔物だと思うけど、種族とかはわからないから、黒っぽいフクロウみたいな鳥だとだけ説明してあった。

 すると、アイリーンさんが見てみたいというので、隣の部屋からアルバを呼んだ。
 一声名前を呼ぶだけで、すぐに飛んできて、僕の肩にとまる。ホント賢い子。

 すると、アイリーンさん、身を乗り出してアルバのことを見て、
 気のせいか、いつも軽そうな笑顔のアイリーンさんが、一瞬だけ、真顔になったような気がした。……どうしたんだろう?

「魔力を持つものを好んで食べる、っていうから、まさかとは思ってたけど……」

「あの……アイリーンさん?」

「ミナト君、この鳥……ああ、アルバ君だったね。このアルバ君だけど、どんな魔物かってわかってる?」

「? いえ全然。エルクも知らないって言ってましたから」

 エルクにちらりと視線を送ると、首肯が返ってくる。

 その様子を見て、アイリーンさんは『やっぱりか』と一言。

 もしかしてアイリーンさん、アルバがどんな種族かわかったのかな?

 いや、そりゃわかるか。
 何せ、僕らなんかとはまるでキャリアが違う、伝説級の冒険者だもんな。どんな魔物かくらい、一目でわかってもおかしくない。

 いい機会だから、今後の飼育方法考える上でも、どんな魔物なのか聞いておけないかな~、とか思っていると、

 アイリーンさん、これまた、すごぉく面白そうな笑顔になった。え、何?

「……ボクがここに来たのはね、イーサちゃんからの報告の中に、君のペットの『魔力を持つ魔物の肉が大好きな黒いフクロウ』っていうのがあって、それが気になった、っていうのが一番の理由だったりするんだよ、実の所」

「はい?」

「で、来てみたら……いや、あるもんだねえ、こういうことも」

「……あのー……?」

「ん? ああ、ごめんごめん、さすがにちょっとびっくりしてね。まさかミナト君、偶然とはいえ、こんなとんでもない奴をペットにしてるとは思わなくてさ」

 え、何それ? 何そのすごく気になる、思わせぶりなセリフ。
 何、このコ、そんなに厄介な魔物なの? アイリーンさんをして『とんでもない』とか言わせるくらいに?

 横見ると、エルクも、アルバに視線を向けながら、ちょっと不安そうな汗をたらしていた。

 ……どうしよう、聞きたかったんだけど、聞くの怖くなってきた。

 いやいや、待て待て。早とちりはダメだ。落ち着け。もしかしたら、あくまで一般基準で『とんでもない』っていうくらいの魔物かもしれないだろう。

 今回戦った、『エクシードホッパー』とかだって、一般人からしたら『とんでもない』だろうし……それならまだいいんじゃないか?
 ……いや、十分異常なのに変わりはないけどさ。

 さっきから飛んできてるエルクのジト目――や、今回僕悪くないよね?――のこともあるし、なるべくその辺でおちついてほしいな……と思う僕は、固唾を飲んでアイリーンさんの二の句を待った。

 はたしてこの、僕の肩の上で、のん気に嘴で羽毛を掻いてるアルバは、一体どんな種類の、どのくらいのレベルの魔物なのか……
 たのむから、なるべく良心的な範囲でよろしくお願いします……

「うん、じゃあ、せっかくだから教えておこうか。そのアルバ君だけどね、実は……」

「じ、実は?」

「…………」

「…………」

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

 タメ長いっ! いくらなんでもタメ長いよアイリーンさん! 絶対面白がってるでしょ!?

 そのまま満面の笑顔で、たっぷり20秒くらい焦らして……ようやく口を開いたアイリーンさんは、



「種族名『ネヴァーリデス』。ランク『測定不能』の化け物だよ。まだ雛鳥だけどね」



 『人』の『夢』と書いて……『儚い』って読むよね。


 ☆☆☆


 『ネヴァーリデス』

 生息地、不明。
 詳しい生態、不明。
 ランク、測定不可能。

 地獄の底から来たと言われる、黒と灰色の羽毛に身を包んだ魔鳥。
 見た目は少し大きな黒いフクロウであり、成鳥になっても、大きさは中~大型の猛禽程度。見た目に派手さは無いが、その実態は恐るべき戦闘力を秘めた伝説級の魔物である。

 膂力はそれほどでもないものの(魔物基準で、だが)、その体内には考えられないほどに膨大な魔力を有し、多種多様かつ強力な魔術を使いこなす。
 その威力は時に、広大な森を一瞬で焦土に変え、数千の魔物の群れを一羽で討滅することもあるほど。

 知能が異常なまでに高く、人語をたやすく理解する。
 さらに、普通の魔法なら数回見ただけで、簡単なものなら1回でも見るか、伝聞で聞いた程度でも習得して自分のものにする、模倣方面では人間すら置き去りにするとんでもない賢さときている。

 そしてその生来の魔力の高さゆえに、魔力を含む魔物の肉を好んで食べる。
 特に雛鳥の頃は、魔力方面での成長の基礎が形作られる時期である。そのため、上質かつ大量の魔力を含む食料を求め、大変に食欲旺盛である。

 成長は早く、生後数時間で飛べるようになり、孵化から1日も経つころには、音を立てずに飛べるようになる。2、3日もする頃には、成長環境にもよるものの、発火などの簡単な魔術を使うようになる。


 ……というのが、アルバの正体に関する、アイリーンさんのありがたい説明でした。

「と言っても、もう千年以上も前に絶滅した種族だって聞いてたんだけど……まさか今の時代に生き残ってたとはねえ。ボクもびっくりしたよ」

 聞けば、アイリーンさんも昔、冒険者だった頃に見たある資料でしかその存在を見たことはなかったらしく、こうして本物を見るのは初めてだそうだ。
 その資料に、スケッチらしい絵が書いてあったから、見てわかったんだとか。

 そんな魔物が、それこそあのバッタ軍団が笑えるような危険度の魔物が、なんであのリトラス山なんかにいたんだよ……

「多分、卵が化石化して、休眠状態だったんじゃないかな?」

「休眠状態?」

「うん、魔物の中にはたまにいるんだよ、そういうのが。エサがなくなったり、生息地の環境が悪化したりすると、何らかの形で休眠に入って、そのまま何年何十年……長いものだと、何千年も眠ってたりする奴が」

「アルバ……ネヴァーリデスも、それだと?」

「うん。その卵、崖崩れの中から出てきたんだろ? 休眠状態で地中に埋まってたその卵が、その崖崩れが刺激になって活動を再開して、ちょうど孵化する直前に、君らが通りがかって拾ったのかもね。休眠状態の間、外殻や卵の殻が強固になる魔物もいるから」

「そんなことがあるんですか……」

 魔物ってのは、まだまだ奥が深いようで。

 まさか、そんな魔物がいて、その卵があんな所にあって、僕がそれを拾うなんて……なんて偶然だろう。

 するとそれを聴いてたエルクが、

「でも、なんでそんな伝説級のとんでもない魔物の卵が、あんな所にあったんでしょうか? リトラス山は、初心者でも安全だって言われるくらいに、魔物のレベルも低い山で……当然、出てくる魔物が持ってる魔力の量も、たいしたこと無いはずですけど……」

 あー、確かに。

 そんなすごい魔物なら、親鳥は、もっと上質な魔力を持つ魔物の肉を雛鳥に食べさせようとするだろうし……

「うん、そこはボクも不思議に思ってるけど、理由は色々考えられるよ? 成長が早い雛鳥を早めに自立させて、自力で狩猟をさせる訓練の場としてちょうどいいとか」

 なるほど。確かにこのへん、人間の初心者冒険者にもちょうどいいくらいなんだから、そのくらい強力な魔物なら、訓練所にちょうどいいだろうな。

 物足りなくなったら、それこそ自立して他の土地に行って、もっと美味しいエサを探せばいいわけだし……

「それかもしかしたら、今のランクの低い生態系以前に、このあたりには、もっとランクの高い魔物が生息してた時代があったのかもね。彼らにちょうどいいくらいの」

「アルバの卵は、その頃に産み落とされたものだ、ってことですか?」

「その可能性もあるね。まあその場合、ウォルカの町どころか、この国が出来る以前だから……それこそ、何千年も前、ってことになるだろうけど」

 そんだけの期間、眠ってた可能性があるのか、こいつは。

 その他にも、色々可能性は考えられるらしいけど、正解を知る術がない以上、考えても仕方がないということで、この話はここまでになった。

 そして、アイリーンさんいわく、それを知ってなお、アルバを飼い続けるのかどうか……ということを尋ねられた。

 まあ、そりゃ普通の人なら、拾ったペットがそんなとんでもない奴だ、って聞かされたら、飼う気失せるだろうね。危険度的に。

 その場合、捨てるか、種族としては珍しいから、ギルドに提出するか、ってことになるんだろう。

 アイリーンさんいわく、そういう珍しい魔物のサンプルは、研究対象として高値で買い取ってもらえるらしいし。

 けど僕には、そんなつもりは無い。

 だって、僕が自分で飼うと決めたんだ。多分、魔物だろうなってのも、当然承知の上で。
 最後まで面倒見ようって決めて、連れて行って、エサもあげた。

 それを、途中で投げ出したり、まして、ギルドに売り渡したりするなんてのは、僕の中では論外もいいところである。

 いやまあ、だからって、同じような境遇の人が、危険な魔物に対してそういう対処をするのを非難するわけじゃないけど。あくまでも僕は、嫌だ、って話。

 アルバは、きちんと最後まで僕のペットとして、面倒見ていくつもりだ。
 聞いた感じ、わざわざ面倒みる必要がなくなる日も、案外近そうだけど。

 それを聞いて、エルクは『やっぱりね』とため息をついて、アイリーンさんはまたおかしそうに笑った。

 どうやら、その返答も予想していたらしい彼女は、ギルド側の存在ではあるが、提出するように説得するようなこともなく、あっさりと了解していた。
 奔放さと適当さからくる対応なのか、それとも懐が深いからなのかはわからないけど。

 そしてエルクも、不安が無いわけじゃないらしいけど、僕が決めたことなら、特に反対はしないとのこと。

 知能も高そうだし、人語も理解してるし、きちんと言って聞かせれば、そんなに物騒なことにはならないだろう、とのこと。

 ただし、しつけはきとんとしなさい、とも言われたけど。

 そして、それを聞き届けると、アイリーンさんの用は全部済んだらしい。
おもむろに立ち上がって、帰る旨を僕らに伝えた。

 そして、見送りはいらないから、といって、そのまま帰る……かと思いきや、

「ああ、それとミナト君」

「はい?」

「してないとは思うけど、ペットが規格外の魔物だからって、そんなに不安がること無いよ? きちんと愛情もって育てれば、なつくやつはなついてくれるから」

 それ、暗に『なつかない奴もいるから注意』って言ってません?

「大丈夫大丈夫。僕も友達に、同じくらいの化け物飼ってた奴知ってるし(ニヤリ)」

「……あの、その人ってもしかして……」

 この人が、このタイミングで、そういう感じで言うってことは……

「うん、君のお母さん」

「やっぱり!?」

「飼ってたでしょ? 金ピカの羽毛の、このくらいのでっかい鳥」

 そう言って、両手を左右に思いっきり広げるアイリーンさん。

 ……羽広げると2m近くになる、でっかい鳥……ストークか。

 母さんの命令次第で、羽から火炎放射したり、口からビーム出したり、まだ僕が弱かった頃に、母さんの代わりに森にいく僕の護衛して、僕がまだ勝てないような魔物を代わりに蹴散らしたりしてた。

 ただの魔物じゃないだろうな、とは思ってたけど……

「あれ『フェニックス』って言ってさ、『ネヴァーリデス』と対を成すって言われてる霊鳥なんだよ。名前は……ストークだったっけ?」

 どこかの民族では、フェニックスが『光の神』、ネヴァーリデスが『闇の邪神』とかなんとか伝承で言われてるような、まさしく光と影みたいな位置づけの魔物らしい。
 もちろんランク測定不能。一説には、死ぬと炎の中から復活する不死の魔物だっていう、思いっきり前世のファンタジーでおなじみな『不死鳥』を連想させる情報までも。

 そんな、僕の精神疲労的に蛇足以外の何者でもない情報を付け加えたアイリーンさんは、やり遂げた感じの表情になって部屋を出て行った。

 しかし何の因果だろうね。母さんのストークと、そんな表裏一体みたいな感じの魔物が、僕の所に転がり込んでくるとは……。

 まあ、色々と恐ろしい偶然を感じはしたけども、別にいいか。
 アルバはアルバだし。

 とりあえず僕は、今もこうして、僕につぶらな瞳を向けてくれる、この可愛いやつと、今後も上手く付き合っていこう、と、あらためて思ったのだった。



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