米国のヘッジファンド、マラソン・アセット・マネジメントが英国の欧州連合(EU)離脱後をにらんだ取引を大々的に行っている。アイルランド、フランス、ドイツ、オランダが今後数年の間にロンドンから流出する企業の主な移転先になると見越して、これらの国の資産への投資を進めているのだ。
ディストレスト債(信用力が著しく悪化した社債)や不動産投資を専門とする同社の共同創業者で最高経営責任者(CEO)のブルース・リチャーズ氏は、これらの国は「最も見通しが安定しており、英国のEU離脱の恩恵を一番受けると考えられる」と述べた。
6月末に実施されたEU離脱を問う英国民投票以前は賛否の事前予想が拮抗していたため、ヘッジファンドは取引に消極的だった。
だが、マラソンなどのヘッジファンドや英CVCキャピタル・パートナーズのようなプライベート・エクイティ(未公開株投資)企業はその頃から、英国のEU離脱決定がもたらすどんな機会でも利用できるよう体制を整えていた。
マラソンは今年に入り欧州の不動産をいくつか取得しており、その中にはクレディ・スイスから取得したオランダの商業不動産から成るポートフォリオもある。同社はさらにフランスやドイツ、オランダ、アイルランドの資産獲得を計画している。
リチャーズ氏は「EUの規定で、EUの顧客にサービスを提供する場合は銀行の従業員がEU圏内に居住することが求められるだろうから、銀行セクターの多くの企業は間違いなくフランクフルトやパリに移転するだろう」と話す。
マラソンは、ロンドンが欧州の金融の中心であり続けると信じながらも、多くの企業は他の国に移転すると予想している。
英国のEU離脱決定後の経済データはさまざまだが、ヘッジファンドの投資家が英経済にさらなる困難が待ち受けていると予想するような別の兆候もある。
米商品先物取引委員会(CFTC)によると、英ポンド安を見込んだ投機取引が先週、過去最高に達したのだ。
第1四半期以降、マラソンはアムステルダムのオフィスビルやダブリンのマンション、フランスの工業用倉庫と物流センター、ドイツのショッピングセンターを取得した。
同社は、来年英国は次第に「緩やかな」景気後退に入り、英中央銀行イングランド銀行のカーニー総裁は金融緩和路線を維持すると予想している。投資家は今週、8月の製造部門のデータや住宅価格の調査結果などの同国経済に関するデータをさらに入手することになっている。
By Mary Childs
(2016年8月29日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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