アピタル・高山義浩
2016年8月29日06時00分
先日、非常勤講師をしている大学で講義をいたしました。年に1回だけなのですが、医学部3年生に地域医療についてお話しをしています。今年で10年目。毎回、率直にお話させていただいて、学生の皆さんも真剣に聞いてくださいます。で、今年は最後にこんなメッセージを送らせていただきました。伝わったでしょうか?
◇ ◇ ◇
これから皆さんも病院での臨床実習が始まることでしょう。なかには、早々に4年生から有名研修病院などを狙って、自主的に来られる方もいます。でも、あんまり早いうちから病院見学を重ねるのはオススメしませんよ。だって、広い視野を身に着けてほしいから・・・。
そもそも病院ってのは、閉じた「異様な空間」なんです。そこに対する探究心をもつのって変じゃないですか? それに、どうせ将来は病院漬けになって働くんです。だったら、学生時代ぐらいは、クラブ活動にのめりこんだり、いろんな国を旅してまわったり、青春のすべてを彼女にささげたり、そういう有意義なことに時間を使ったほうがいいですよ。
私が働いている沖縄県立中部病院は、そこそこ有名な教育病院でもありますので、休みともなると多くの学生さんが研修に来られます。でもね。空港から真っすぐに病院へ来て、研修が終わったら忙しそうに帰ってゆく学生さんたちを見ていると、なんだか私は残念な気持ちになるのですよ。
こんなに豊かな自然があって、そこに育まれる文化があって、ゆっくりと歳を重ねるオジイやオバアがいるのに、病院で医者の話しか聞かないで帰るの? 大丈夫か? 正気なのか? そうやって地域の声を聞かないでいると、そのうち本当に聞こえなくなっちゃうぞ! 分かるかなぁ。
どうしても医療現場が見たいのなら、皆さんぐらいの学年のうちは、海外の現場を訪れてみませんか? 皆さんが医師として活躍する時代は、良かれ悪しかれ激動の時代です。地域医療を守り抜くため、不断の改革を続けていかなければならないでしょう。変わり続けることこそが「真の保守」となる時代です。村社会において、内向きの視線だけでは改革はできません。様々な、ときに極端な現場を見ておくことは、皆さんの直観力を高めるかもしれません。
たとえば私の学生時代・・・、訪れてよかったなと思い返すのは、インドにあるマザーテレサが設立した施設「死を待つ人々の家」、タイでエイズ患者が互いに支え合っていたホスピス「ワット・プラパットナンプー」、カンボジアで僧侶が安楽死を行っていた「ワット・ソムロンアンデス」、ネパールの「トリブバン大学教育病院」における小児科研修など。20年も前のことですから、もはや参考になるかどうかわかりません。でも、いろんな研修機会がアジアにあることを、ネットで検索すれば見つけることができるはずです。
ただし、こういう施設で活動するとしても、全旅程の3分の1程度にしてくださいね。残りの3分の2は地域を楽しく旅行すること。悲しい部分をばかりを見ようとするのではなく、その国の素敵なところを発見する気持ちを忘れないこと。
もちろん、海外ばかりが学生らしい活動地ではありませんね。路上生活者の夜回り支援活動とか、外国人のための無料医療相談会とか、心身障がい者への旅行随行とか、いや別にそういうディープな活動じゃなくても、地域の自治会活動だっていいんです。
実習に来ている医学生の方々とお付き合いしながら、私が「学生のうちに身に着けてほしいな」って思うのは、社会的な弱者の状況を五感でイメージできるようになること、そこに独自の問題意識と解決のイメージを抱けること、それを正確な言葉で表現できるようになること・・・。
こういうことって、地域を知らずして言語化できるはずがありません。なぜって? そりゃ、弱者が「弱者」であることを規定しているのって、地域との関係性においてに他ならないからですよ。
これらは私の一方的な「期待」ではあります。でも、もし医療に関心をもって「探究」したいのであれば、こんな学生ならではのことに、まずは挑戦してほしいなって思います。がんばってくださいね。
(アピタル・高山義浩)
感染症診療や院内感染対策、在宅緩和ケアに取り組む。かつて厚生労働省で新型インフルエンザ対策や地域医療構想の策定支援にも関わった。単著として『ホワイトボックス ~病院医療の現場から』(産経新聞出版)などがある。
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