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 公的手当の「まとめ支給」について3月と6月、フォーラム面で議論したところ、「就学援助もまとめ支給なので困っている」という声が子育て世帯から寄せられました。就学援助は経済的に困っている世帯の子どもに、学用品や給食費、修学旅行費などが支給される制度です。どんな問題が起きているのか、再び考えます。

■学校集金を借金でしのぐ

 「まとめ支給」の記事に意見を寄せてくれた保護者に話を聞くと、「学校に払うお金も大変」という声が目立ちました。

 小中学生の子ども2人と暮らす埼玉県の会社員女性(41)は、教材費、給食費や修学旅行の積立金として、毎月2万円近く子どもの学校に払うそうです。

 家賃などの支払いが遅れることはありますが、「学校集金は絶対に遅らせない。子どもに恥ずかしい思いをさせたくないから」と言います。クレジットカードのキャッシングで都合し、間に合わせることも。借りたり返したりを繰り返し、借入残高は5万円を超えました。

 大阪府の自営業女性(40)は昨年の3学期、娘2人が通っていた中学校からのお知らせ文書を読んで驚いたそうです。

 それまでの集金額は1人約1万円でしたが、長女の修学旅行の積み立てが始まるため、月9千円増えると書かれていました。ほかに授業で作る照明キットや工作キットも買うため、購入費を追加するとも書いてあります。この月の集金額は計約4万円に膨らみました。

 集金日までは2週間。次の給料で返すのを条件に、親に借りました。返済後しばらく、食事のおかずを1品減らし、娘たちには「先月は収入が少なかったの」と、ごまかしたそうです。

 この2家族は、いずれも就学援助を受けています。就学援助で学校に払う費用の大半はカバーできるはずですが、なぜ借りないといけなくなるのでしょうか。

 大半の市区町村では、就学援助は毎学期末、その学期分の費用がまとめて支給されます。その間の毎月の集金は保護者が立て替えるのが一般的です。新1年生に払う入学準備費用も、1万数千~2万数千円支給されていますが、支給時期は7、8月というのが実情です。

■義務教育なのに私費負担大

 学校関連の家計支出と就学援助の支給のタイミングを見るため、レシートや集金通知書など、学校関連の支出が分かる資料を千葉県のある家族から提供してもらいました。2013年1月~14年7月の月別支出をまとめ、これに自治体から出る就学援助の支給額を重ねました。

 長女が中学に入学する前後から支出の増加が目立ちます。学校集金額は小学校では月5千~8千円台だったのが、中学では1万数千円に増えました。とりわけ制服を購入した2月、剣道部に入った5月、支出総額は9万円を超えました。一方、就学援助は7、12、3月に支給されています。支出の集中する2~6月、支給は1回しかありません。

 保護者が毎月払っているお金は学校の運営費に、どの程度の割合を占めているのでしょう。末冨芳(かおり)・日本大学文理学部教授らが12年に発表した調査によると、学校ごとに大きな差がありました。

 税金からの「公費」を、保護者からの集金である「私費」が上回る学校がありました。生徒1人あたりの公費が3万2600円も投入されている小学校がある一方、8804円しか投入されていない小学校もありました。

 末冨教授は「財政の乏しい自治体では、公費不足で私費が多くなってしまう事例がしばしば見られる。義務教育といいながら、学校が保護者の負担に頼っているようすがうかがえる」と話しています。

■入金のずれ、なくす試み

 まとめ支給によって生じる、学校集金という出費と、就学援助という入金のずれ。それが生じない方法で支給している自治体があります。

 大阪府池田市の場合、就学援助の受給世帯は、毎月の学校集金を支払う必要はありません。援助の費用の大半を教育委員会から学校長口座に直接振り込むため、保護者が立て替えずに済むのです。

 校長口座に振り込む場合、保護者の委任状が必要ですが、申請用紙に「受給にかかる一切の権限を校長に委任する」という文言を入れ、保護者に署名してもらっています。4月中旬に支給認定者が決まると、5月中には、市教委が1年分の学用品費(1万3千~2万7千円)を人数分、各学校長の口座に振り込みます。もし足りなければ、保護者から不足分だけ払ってもらいます。集金は保護者の口座から引き落とすので、どの家が就学援助の対象なのか、簡単には分かりません。修学旅行の費用は旅行後、精算額を学校が教委に請求、ほどなく送金されるので業者への支払いも遅れません。給食費も直接、校長口座に振り込みます。

 保護者の口座には5月の連休前後に新入学学用品費として2万~2万3千円が振り込まれるだけです。

 この方式を採った理由について、同市教委は「就学援助を受けていながら未納、という事態を防ぎ、子どもの学習費、給食費に確実に回るようにするため」と説明しています。

 就学援助の給食費部分だけ校長口座への直接払いにしている自治体は増えています。朝日新聞が政令指定市に14年度末の未納者数を尋ねたところ、校長口座への直接支払いを導入していた市では就学援助の受給者の「未納」はゼロでした。しかし、保護者に支払っている新潟市の場合、14年度末の未納者75人のうち、半数の38人が就学援助の受給者でした。

 新1年生への入学準備費を、入学前の3月に支給する自治体も増えています。朝日新聞の調べでは少なくとも15市で実施、予定していました。福岡市は昨年3月中旬、政令指定市としては初めて実施しました。同市教委は「支出の時期に支給を近づけてもらって、非常に助かるという声が寄せられている」といいます。

 毎月支給をしている自治体もあります。埼玉県川口市は6月の認定後、額の多い修学旅行費や給食費は学校に直接振り込み、学用品費は翌年7月まで保護者の口座に毎月支給しています。

■これまでの議論は

 昨年12月27日付朝刊で、ひとり親世帯への公的手当が数カ月おきの「まとめ支給」になっていることが、家計の苦しさに拍車をかけていると報じました。支給が月々の支出のペースに追い付かず、行き詰まる困窮者の実情をルポしました。3月14日付のフォーラム面では、支給と家計をうまく調整できないことについて「自制心の問題ではない」とする行動経済学の専門家の指摘を紹介。6月6日付に、児童扶養手当の毎月支給を探る自治体の動きなどについて掲載しました。

■教材を見直し、私費を減らして

 保護者の負担する「私費」に公立学校が頼る実情がある中、使い方を見直して私費を少なくしようと努力している学校があります。「本当の学校事務の話をしよう」の著者で埼玉県川口市立小谷場中学校の事務主任、柳澤靖明さんに聞きました。

 学校財務の担当者として、教育活動に対するお金の使い方の見直しに教員と一緒に取り組んできました。公費不足のため、残念ながら現状では計算ドリルや工作、調理材料費などは「個人所有」と位置づけ、私費で賄うのが一般的です。ですが、線引きは明確ではありません。

 公費からの支出は厳格な手続きがあり、決裁や納品に数日かかります。私費なら明日の授業で使う道具を今日買えます。使い勝手の良さから私費に頼る教員も少なくありません。

 だからといって安易に使われては困ります。公費で賄えるものを公費に切り替え、教材を見直すことによって私費は減らせるのです。例えば私費でクリーニングに出していたカーテンは、洗濯機を公費で買い学校で洗うようにしました。私費で購入していた教室用の清掃用具を公費で賄うようにした例もあります。

 教材を見直して私費を減額し、なおかつ授業の質を保つことは可能です。技術の授業の教材で、ラジオキットを購入します。発電機能付きの手回しラジオより電池式のラジオの方が安い。どちらを選んでも「エネルギー変換」が学べる教育的効果は変わらないと担当教員が電池式を提案し、私費が1人あたり千円ほど減りました。

 一方、美術用の版画板を安く買えたと喜んでいたら、生徒から「硬くて彫りづらかった」と言われたことがあります。この場合は、費用を重視しすぎたと反省しました。

 授業で身につけさせたいことと使っている教材の効果を吟味し、公費で出せるものは公費で出す。そうすることで私費の減額につなげることができるのです。

■援助の効果、高める方法の共有を

 末冨教授らの調査結果は、衝撃でした。義務教育でありながら、学校によって公費の投入にこんなに差があり、それが保護者の負担につながっていたとは。そんな中、ここでも困窮家庭を助けるはずの就学援助に、「まとめ支給」の弊害が生じています。受給と支出の時間差から借金せざるをえず、それが積み重なっていく現実がありました。この時間差が学校集金の未納の要因の一つなのかもしれません。

 池田市の例は、本来の目的に就学援助が使われるようにしようという一つの試みでしょう。入学準備金の3月支給も含め、ちょっとした工夫で援助の効果を高める方法を、もっと共有して欲しいと思います。(錦光山雅子)

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