夫が転勤、その時! 離職も別居もしない道 在宅勤務やエリア変更、企業が制度整備進める
働く既婚女性にとって、配偶者の転勤は悩ましい問題だ。これまでは退職して同行するか、別居するかの二者択一を迫られ、後ろ髪を引かれながら仕事を辞める女性は少なくなかった。ここにきて、勤務先を変えずに夫の赴任地で仕事を続ける女性が増え始めた。女性社員が配偶者の勤務事情に振り回されず仕事を続けられるように、企業も制度整備に動いている。
働く既婚女性にとって、配偶者の転勤は悩ましい問題だ。これまでは退職して同行するか、別居するかの二者択一を迫られ、後ろ髪を引かれながら仕事を辞める女性は少なくなかった。ここにきて、勤務先を変えずに夫の赴任地で仕事を続ける女性が増え始めた。女性社員が配偶者の勤務事情に振り回されず仕事を続けられるように、企業も制度整備に動いている。
「今から仕事します」。平日の午前9時、佐賀市在住の片岡寛子さん(39)の業務は上司へのメール送信から始まる。勤務先はニコンシステム(東京・品川)の数理解析研究室。顧客メーカーの試作の効率化を図るため、CAE(コンピューターによるエンジニアリング)技術を駆使する15人の部署の一員として、東京のオフィスから約900キロメートル離れた自宅で勤務する。
片岡さんが川崎市から佐賀市に転居したのは2015年7月。きっかけは夫の転勤だった。長男は小学校に入ったばかり、次男は保育園児とまだ小さく、家族で一緒に過ごしたいので夫の単身赴任は選択肢になかった。仕事にはやりがいを感じており、「辞めるのはいつでもできる」と在宅勤務を会社に申請した。
会社は配偶者の異動を理由に在宅勤務できるかどうかを仕事内容も考慮して審査し、片岡さんの制度利用を認めた。次男を保育園に預け、業務用の端末を使って仕事を継続。月に1回は上京し、顧客訪問や研究室での実験、同僚との打ち合わせをこなしている。
長期雇用を前提とした日本企業では、転勤は人事異動の一環として定着している。働く女性が増える一方で、総務省によると、配偶者の転勤を理由に退職する人は年間約6万人。女性自身のキャリアが途絶えるのに加え、企業にとっても人材の流出は大きな痛手だ。
政府は14年、国家公務員が配偶者の海外転勤に同行する場合、最長3年の休職を認める制度を導入。民間企業にも同様の休業制度が広がった。一方で、配偶者の転勤先に同行した社員が休職せずに働き続けられる仕組みも始まった。
オリックス自動車(東京・港)の大阪採用の地域限定社員、上野真央さん(31)は4月から東京で働いている。配属は大阪勤務時代と同じ、ビジネスオペレーションセンターだ。
オリックスは3月、地域限定型の社員を対象に、配偶者の転勤で今の勤務地で仕事が続けられない場合に、勤務エリアを変更できる制度を導入した。対象はグループ内の約3千人。「中途退社を防ぎ、働き続けることで次のキャリアにつなげる」(グループ人事部の脇真由美人財開発チームチーム長)ねらいだ。上野さんを含め、すでに5人が勤務地を変更した。
上野さんは大阪で第1子の育休中だった13年、夫の転勤で東京に転居。その後は休職を続けていたが「働きたい気持ちはあっても、東京で仕事のあてはなかった」と振り返る。
15年12月に新制度を知らせる手紙を受け取るとすぐに利用希望を伝えた。当初は戸惑ったが「復帰できて良かった」。現在は午前10時から午後4時20分まで時短勤務をする。
全社員を対象に制度を設けたのが富士ゼロックスだ。転勤する配偶者の勤務地に近い事業所やグループ会社などに異動できる仕組みを4月から始めた。
井野博之人事部チーム長は「働く意志があるのに、やむを得ず辞める人が出ないよう手を打った」と語る。11年度から14年度に同社を退職した女性社員の約27%が、配偶者の転勤など居住地移動が理由だった。同社では既に配偶者の転勤で休職した社員向けの再雇用制度があり約6割が登録していたが、実際に復職したのは1割強にすぎない。
一方で、退職者の転居先の約6割に同社グループの拠点があると分かった。「何らかの仕事があれば、働き続けられるのではないか」(井野チーム長)と制度化に踏み切った。
制度を使い夫の転勤先で働く20歳代の営業職の社員は「慣れない土地で職探しをするところだった。長く働ける体制のおかげで、仕事をより頑張りたい気持ちになった」という。
オリックス、富士ゼロックスとも、制度利用は「働き続ける意欲を持つことが前提」(オリックスの脇さん)。夫の転勤同行を理由に休職を認める制度とは明確に区別している。
国内外の人事マネジメントに詳しいコンサルタントのパク・スックチャさんは「一度辞めると正社員に戻るのが難しい日本では、退職しなくて済むのは意義深い」と指摘。さらに「復帰までのスキル維持が課題となる休職より、転居先で働き続けられる仕組みのほうがキャリアの面でも望ましい」と語る。
◇ ◇
■リモートワーク普及へ 転勤自体、減る可能性も
勤務先が全国展開する企業の場合、配偶者の転勤先にも拠点がある可能性は高い。社内に制度がなくても、交渉次第では転勤先への異動を実現する余地はある。一方で、そうでなくてもあきらめるのは早計だ。
ICT(情報通信技術)の普及でリモートワークという選択肢が身近になっており、ニコンシステムの片岡寛子さんのように異動なしで以前と同じ仕事を続ける道も開けつつある。富士ゼロックスでも、ウェブ関連業務の担当者が、夫の転勤先で同じ仕事を続ける例もあるという。
コンサルタントのパク・スックチャさんは「クラウドが一般化し、特定の場所に来なくても仕事ができる環境ができてきた。会社がモバイルワークに対応すれば、遠隔地でも同様に仕事をしやすくなる」と語る。もっとも「在宅勤務を含めたリモートワークがもっと普及すれば、転居を伴う転勤を減らす方向に変化できるはず」。在宅勤務を導入する企業が相次ぐなか、配偶者の転勤がキャリアの妨げになる時代も終わりに向かうのかもしれない。
(南優子)
[日本経済新聞2016年8月29日付夕刊]
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