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子どものささやかな楽しみすら奪う人びとにとって、「貧困」は差別のためのツールにすぎない

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片山さつき公式ホームページより

片山さつき公式ホームページより

子どもの貧困について扱ったNHKの特集番組が炎上しています。

番組には、家庭の経済状況が理由で専門学校への進学を諦めなければならなかった高校3年生の女子高校生が登場しました。この「貧困女子高生」は、経済的に困窮している母子家庭で、クーラーのない家で育ちました。アニメや漫画が好きで、専門学校への進学を希望していたものの、入学金50万円を工面できず、進学を諦めたそうです。

番組終了後、彼女のものとみられるTwitterアカウントに、アニメグッズを購入した形跡や、イベントのチケットが届いたこと、千円以上のランチを食べている様子がわかるツイートが見つかり、「貧困とはいえない」「ズルをしている」といった非難が殺到しました。

火に油をそそいだのが、片山さつき議員のような、生活保護受給者を「怠けている」と批判したり、「貧困は自己責任である」とする著名人でした。彼らは、経済的に困窮している人たちに「贅沢するな」と言って追い詰めるくせに、税金を使って何万円もするスーツや化粧品といった「贅沢品」を買っています。これでは説得力が微塵もありません。国民の役に立つことをしていないどころか、政治資金の不適切な使用も指摘されている片山氏のような人物が、どうして入学金が払えずに進学を諦めた子どものささやかな楽しみを「贅沢だ」と批判できるのでしょうか。こんな人物が平然と国会議員をしているなんて悪夢としか言いようがありません。

個人の努力で改善できる貧困状況にない

そもそもこの少女は、大人たちから寄ってたかって、自業自得だの、贅沢をしているだのと言われるようなことをしているのでしょうか? 50万円という、国会議員の一カ月分の給与にさえ満たない金額の入学金が払えずに進学できなかった彼女は、「貧困状況ではない」と責められる存在なのでしょうか?

日本の相対的貧困率(※1)は、2000年代初頭から緩やかに上昇し続けています。2012年の調査では16.1%で、その中でも大人一人と子どもの世帯(主に母子家庭)での貧困率は54.6%、あるいは62.0%と、突出して高い状況となっています(国民生活基礎調査、全国消費実態調査)。

※1相対的貧困率・・・国民を所得順に並べて、真ん中の所得よりも半分以下の所得にあたる層の比率を指す。

これだけの人たちが困窮しているということは、社会全体に構造的な問題があるということです。この状況を改善できるのは、個人の努力ではなく、政治、行政、学校、企業といった、より大きな社会制度のプレイヤーです。母子家庭の半数以上が貧困状態にありながら、適切な再分配政策を実施せずに放置し続け、貧困の連鎖を野放しにしてきた日本社会や政府、そしてその一員である片山さつき氏のような議員こそ責められるべきであって、この女子高校生が責められる理由など何一つありません。

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古谷有希子

ジョージメイソン大学社会学研究科 博士課程。東京大学社会科学研究所 客員研究員。大学院修了後、ビジネスコーチとして日本でマネジメントコンサルティングに従事したのち、渡米。公共政策大学院、シンクタンクでのインターンなどを経て、現在は日本・アメリカで高校生・若者の就職問題の研究に従事する傍ら、NPOへのアドバイザリーも行う。社会政策、教育政策、教育のグローバリゼーションを専門とする。

コメント

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1 :
2016年08月27日 15:35

問題視された片山さつき議員の8月20日の投稿を紹介します。著者の古谷氏、ならびに読者さまへの参考資料としてご提示いたします。

三点だけ抜き出すと以下の通りです。
・ 当の高校生が経済弱者であるとネット右翼に説教
・ 自民党が進める給付型奨学金の対象者となるのかという心配
・ 現行の貸与型奨学金の金利引き下げ

以下、片山コメント。

拝見した限り自宅の暮らし向きはつましい御様子ではありましたが、チケットやグッズ、ランチ節約すれば中古のパソコンは十分買えるでしょうからあれっと思い方も当然いらっしゃるでしょう。経済的理由で進学できないなら奨学金等各種政策で支援可能!

追加の情報とご意見多数頂きましたので、週明けにNHKに説明をもとめ、皆さんにフィードバックさせて頂きます!

私は子ども食堂も見させていただいてますが、ご本人がツイッターで掲示なさったランチは一食千円以上。かなり大人的なオシャレなお店で普通の高校生のお弁当的な昼食とは全く違うので、これだけの注目となったのでしょうね。

私はたまたまこのニュースはライブで見て、このお嬢さんの夢は絶対叶えてあげたいな、と会議名までメモったので、KAZUYAさん他のTweet拝見して驚きました。今回政府が導入決めた返済義務のない奨学金やその他の生活支援が適用されるようなケースなのか、事実を調べる意味はあると思います。

いいえ、私はこのニュースを見てこういうケースに政府が導入決めた返済義務のない奨学金が活用できるのか、このお嬢さんの夢を叶えてあげたい、とメモったので、今日KAZUYAさん他のTweet見て非常に驚きました。事実を調べる意味はあると。

まさに、その辺の論点に、この会議のメンバーでもあるNHKの取材記者さん及びニュース制作責任者さんに、きちんとしたお答えをいただけばいい話だと思います。

つましい=生活に余裕がなく倹約につとめる様子、ですよ。夏も冷房がつけられないと報道されていたので私はそう感じましたが。

この8月に決定した経済対策の6ページに若者への支援拡充①給付型奨学金については平成29年度予算編成過程を通じて制度内容について結論を得、実現する、と明記させました!この3カ月が内容を詰める時期なんです。
( https://twitter.com/katayama_s/status/767005786744565760 )

経済対策に既存の奨学金9000億円の金利見直し方式適用者には金利を0.01%まで引下げられる事を盛り込んでいます。勿論本質は中小企業の給与引上げ。持続化補助金も賃上げすれば倍増、キャリアアップ助成金活用、取引条件改善等を予定。


古谷氏は国外にいらっしゃいますので、個々の国会議員の政治的態度には詳しくないのかもしれません。現在日本では改憲派と反改憲派が厳しく対立しています。
反改憲派は改憲派による給付型奨学金の創設を阻止すべく情報工作を行っているようです。例を上げれば、新聞でさえも恣意的に抜き出したコメントを改竄した上で掲載し、内容が真逆となるような歪曲報道を行うのです。

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