東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 筆洗 > 記事

ここから本文

【コラム】

筆洗

 若いカップルがクラシックの演奏会に向かう。窓口の前には当日券を求める長蛇の列。手持ちのお金はわずかだが、安い席ならなんとか足りる。二人はほっとする▼ところがである。二人の前に並んでいた怪しい男がその安い席を全部買い占めてしまう。高値で転売する目的である。その値段では、二人には買えない▼青年が男に注意すると反対にのされてしまう。二人のデートは台無しである。黒沢明監督の「素晴らしき日曜日」(一九四七年)。この場面を見るたびに二人が悲しく、買い占めた男に腹を立てる▼終戦ほどない時代の映画だが、入場券をめぐる状況は現在もさほど変わっていないようである。サザンオールスターズや嵐など百を超えるアーティストと音楽業界団体がコンサートチケットの高額転売に反対する共同声明を発表した▼公共の場でのダフ屋行為は都道府県の条例によって禁止されているものの、ネット上では高額転売が公然と行われている。通常で買っても安いとはいえぬコンサートのチケットが買い占めと高額転売の結果、一枚何十万円になっていると聞けば、あの映画の二人は気絶するだろう▼ファンか転売目的かを見分けるのは難しいが、買い占めを完全に防ぐ方法を考えたい。いつの時代も熱狂の音楽を求め、いつの時代も懐寂しい若者たちの夢を大人の「ぬれ手で粟(あわ)」が奪ってはならない。

 

この記事を印刷する

PR情報