福島第一原発の汚染水対策が、暗礁に乗り上げている。

 経済産業省資源エネルギー庁と東京電力は凍土方式による遮水壁(凍土壁)を対策の柱と位置づけてきたが、いっこうに成果が上がらない。

 原子炉建屋などを取り囲むように造られた凍土壁は今年6月、全面的に稼働した。しかし3カ月近くたっても凍結しない部分が残り、そこから地下水が原子炉建屋側に流れ込む。放射性物質に触れて発生する汚染水は、日量約400立方メートルのまま減っていない。

 原子力規制委員会の検討会では、外部有識者から「計画は破綻(はたん)している」との指摘まで飛び出した。それでも、東電は未凍結部分にセメントを流し込むことなどでなお計画を進める考えを譲らなかった。世耕経産相も記者会見で凍結は進んでいるとの認識を示し、「東電を指導していく」と強調した。

 東電は凍土壁の成功を前提に、汚染水の発生を9月からは日量約250立方メートル、年明け以降は約150立方メートルと想定している。このまま減らないと、放射性物質の大半を取り除く処理や、処理後の水を蓄えるタンクの設置にも影響が及び、計画全体が綱渡りになる。

 凍土壁は、本当に破綻していないのか。

 国の事業として建設に345億円が投じられただけでなく、日々の冷却にもお金はかかっている。確たる目算を欠いたまま人や資金、時間をずるずると費やすことは許されない。

 エネ庁と東電は、期限を切って成否を見極めねばならない。規制委が再三求めてきたように、失敗した場合に備えて代替策も検討するべきだ。

 今回のような大規模な凍土壁を築く試みは、国内では例がなかった。エネ庁と東電はそれをあえて、世界最大級の原発事故の現場に持ち込んだ。

 施工期間が短くてすむ利点の一方で、規制委を含む専門家の間では「地下水が多く、流れも速いから完全凍結は難しい」「流入量を減らすのなら、土木工事で遮水壁を造る方が確実」などとさまざまな異論が当初からあった。エネ庁側はそれを押し切った経緯がある。

 言うまでもなく、凍土壁は汚染水を減らすための手段である。エネ庁と東電の間では、凍土壁の成功が目的になってしまっているのではないか。

 大量の放射性物質を含む汚染水による再度の環境汚染を防ぐために、どんな対策が有効で確実か。楽観を排し、広い視野で臨むべきだ。