角栄ブームの真っ最中ですが。
『SAPIO』9月号 の記事でおもしろかったものをメモがわりに。
厳選「角言」集
『田中角栄「人を操る心理学」』
ー「言葉」の力を知っていた男 というサブタイトルが付いています。
文章:武富薫氏(ジャーナリスト)
写真:山本皓一氏(報道写真家)
人にカネを渡すときは、頭を下げて渡せ。「くれてやる」と思ったら、それは死にガネだ。
派閥の若手議員が女性問題で100万円のカネが必要になり、金策が尽きて電話で角栄に泣きついた。当時の100万円は大金だ。
「わかった」
角栄は秘書に「300万円」を届けさせた。こんなメモが添えられていた。
「このうち100万円で話をつけろ。そしてあとの100万円で迷惑をかけた周りの人にうまいめしを食わせてやれ。残りの100万円は取っておけ。
返済は無用」
この議員が、角栄が死ぬまで忠誠を誓ったことは言うまでもない。
私も角栄、真紀子父娘に凝って調べまくった時期があります。懐かしい。
田中角栄という人は、カネの遣い方がとにかく上手かったそうで。
「冠婚葬祭では、相手が『角栄だったらこれぐらいかな』と思うであろう金額の、ひと桁上を包め。そうすれば相手は絶対に忘れない」
相手が「50万円ぐらい包んでくるかな?」と思うとしたら、500万円持って行けということです。
10倍ですよ、10倍。
しかも今太閤と呼ばれる政治家に対して、相手が予想する額の10倍です。
そのぐらいカマさないと、相手にインパクトが残らない。活きたカネにならないことを、角栄は知っていたんですね。
世間の自分へのイメージを上回るには、
10倍だ!
10倍返しだ!
おそるべし田中角栄。
引用に戻ります。
祝い事には遅れてもいい。ただし葬式には真っ先に駆け付けろ。
人情の機微に通じた人は、皆同じことを言います。覚えておきましょう。
角栄は子分だった竹下登の父の葬儀にあたり、わざわざ飛行機をチャーターして総勢69人の議員を引き連れて参列し、人口4000人の村(島根県掛合町)を驚かせた。
竹下登クラスに限らず、自派の若手には分け隔てなく、これをやったのが角栄の凄さ。
『うちの先生はそんなに力があったのか』と地元の有権者を驚かし、葬儀で子分たちを選挙に強くしていった、というのが武富氏の補足です。
角栄は、昼間に背広を着て世話になった人の墓参りをすることがあった。新聞社のカメラマンたちは、それを写真に収めた。すると報道陣が引きあげた後の夕方、もう一度、私服に着替えて同じ墓に現れた。そしてあらためて静かに故人の冥福を祈る。そんな人だから『パフォーマンスのための墓参りではない』と支持者たちにも慕われた。
官僚コントロールについて。
役人の顔や人脈はよく覚えておけ。
角栄は高等小学校卒の学歴しかなかったが、それでも東大法学部出身のエリート官僚たちを手足のように動かして仕事ができたのは、彼らが何に喜ぶか、その心理を熟知していたからだ。
角栄はエリート官僚たちの顔から入省年次、家族構成まで全部記憶していた。
新人時代から角栄の薫陶を受けた渡部恒三・元衆院副議長は「あんまりよく覚えているもんだから、田中のオヤジに東大法学部同窓会の事務局長みたいだと言ったら、ひどく怒られた」
わずか3頁の記事ですが、他にも至言や興味深い逸話が盛りだくさん。
昭和の政治のありようと、人間・田中角栄に興味を持つこと請け合いです。
と綺麗に終わると思わせてからの、余計なひと言を。
日本の国家予算は一般会計でざっと総額90兆円。内訳は税収40兆円、国債50兆円。
これが一般家庭ならば、収入の範囲内に支出を収めようとする。当然ですよね。
この常識を覆し、国家予算においてだけは何故か
「歳入を歳出が上回ったっていいんだ」
「足りない分は国債を発行すればノー文句じゃん」
という新たなルールを定着させたのが田中角栄なのだそうで。
コロンブスの卵ですね。違うか。
故人を評してよく功罪相半ばすると言いますが、一国の財政崩壊に緒を付けた事は、功罪のひと言で片付けていいんでしょうか。
「人たらし」「人心掌握の達人」と持ちあげるのもいいけれど、本業の評価もちゃんとしろよ!と思う訳です。
◇人間的には大嫌いだけれど、力量は認めざるを得ない立花隆氏の必読角栄本。興味のあるかたは是非。
以上 ふにやんま