シリア危機 米露は停戦に全力を
シリアの人道危機が深まっている。激戦が続く北部のアレッポでは今月中旬、全身ほこりまみれの男の子の映像がネット上で公開された。空爆で壊れた家から救出されたという5歳児の映像は衝撃的だった。
だが、庶民の受難はいっとき世界の耳目を集めるだけで、停戦機運は一向に高まらない。国連のオブライエン人道担当事務次長は病院や学校への攻撃が日常化したアレッポの状況を「人道的破滅(カタストロフィー)」に直面していると表現した。
国連などの報告書によると、アサド政権は2014年と15年、化学兵器禁止条約で禁じられた塩素ガスの兵器をシリア北部で使用したという。過激派組織「イスラム国」(IS)が猛毒のマスタードガスを使ったとの報道もある。
こうした事例も含めて人道状況がさらに悪化し、「危機」から「破滅」へ向かっているのは確かだろう。同次長が「これは政治の失敗、国連安保理の失敗だ」と声高に訴えたくなるのも分かる。私たちはシリアの苦難に慣れてしまってはいけない。
そんな折、ケリー米国務長官とラブロフ・ロシア外相がジュネーブで会談したが、停戦合意には至らなかった。露側は停戦に楽観的な見通しを示したものの、入り乱れて戦う各派を短期間で説得して矛を収めさせるのは容易ではなかろう。
米露は引き続き停戦工作を続けてほしい。時間がたつほど対立の構図は複雑になる。シリアの戦闘はISと有志国連合の戦い、アサド政権と反体制派の戦いに大別できるが、同じ陣営内の対立もある。複雑な利害関係を持つ多様な勢力をまとめるには、米露の協調が不可欠だ。
その米露はアサド政権の存続をめぐる対立が解けていない。3月にシリアの露軍主要部隊の撤収を表明したロシアは、今もシリアで軍事作戦を続けている。今月中旬には友邦イランから露軍機を発進させてISの拠点を空爆し、中東でのロシアの存在感を印象付けた。
だが、ロシアは米国と張り合うより妥協点を模索すべきだ。2月に一時停戦した際は、アサド政権と反体制派が和平協議を行い、新たな統治機構の設置や憲法改定などで意見を交わした。物別れに終わったとはいえ、これをたたき台に国連と米露が協議再開を目指すのが筋である。
とはいえシリアの「人道的破滅」を防ぐ主役は、やはり中東に圧倒的な影響力を保ってきた米国だろう。シリアの内戦で死者は30万人、避難民は1000万人を超えたともいう。この悲惨な状況を変えるのは、任期の残り少ないオバマ大統領にとっても「人権重視」の米外交にとっても大きな宿題といえよう。