名作映画「冬のライオン」
映画「冬のライオン」、The Lion in Winterは1968年にイギリスで制作されたイングランド王室の争いを描いた映画で、アカデミー賞7部門にノミネートされ、主演女優賞、脚色賞、作曲賞の3部門受賞した名作です。
2003年にアメリカでテレビ映画としてリメイクされ、ゴールデングローブ賞も受賞しています。
「冬のライオンは」12世紀終わり頃のイングランド王であるヘンリー2世を中心に描かれていますが、歴史的な背景をご存知でしょうか?
歴史を知らずに映画を観ると理解できない部分がでてきますが、歴史の背景だけでも知っておくと、ああこういう理由でこんな行動をとったんだな、と理解でき楽しさも増すと思います。
今回は「冬のライオン」をより楽しんで頂けるように、ヘンリー2世、王妃、息子たちの人間関係の概要をお話いたします。
「冬のライオン」の概要
まずネタバレしない程度に、映画の概要をご紹介いたします。
1183年のクリスマス、フランスのアキテーヌにあるシノン城が舞台となっています。アキテーヌとは当時フランスの西部に位置する国です。
「冬のライオン」ではイングランド国王ヘンリーと王妃エレノア、二人の間の3人の息子たちとの後継争いと愛憎を描いています。
主な登場人物と配役は下記です。
・ヘンリー (イングランド王ヘンリー2世):ピーター・オトゥール
・エレノア(イングランド王妃エレアノール、前夫はフランス王ルイ7世):キャサリン・ヘプバーン
<息子たち>
・リチャード(後のイングランド王リチャード1世):アンソニー・ホプキンス
・ジェフリー(ブルターニュ公ジョフロワ2世): ジョン・キャッスル
・ジョン(後のイングランド王ジョン):ナイジェル・テリー
<その他>
・アリース(フランス王ルイ7世の娘):ジェーン・メロウ
・フィリップ(フランス王フィリップ2世、アリースの異母弟):ティモシー・ダルトン
※丸印が映画の登場人物(アリースはアレーと書かれています)
映画を見ているとヘンリーとエレノアの圧倒される迫真の論争と、その合間に見える人間味を深く感じる愛憎にグッと映画の中に引き込まれていきます。この二人のやりとりだけでも大いに見る価値があると思います。
心の底では昔ひかれあった心を残しているものの、ヘンリーはアリースを愛してエレノアと別れようとします。3人の息子たちは我こそが次期王に相応しいとヘンリーや王妃に詰め寄り言い争いになっていき、そこにアリースやフィリップが絡み様々な策略が張り巡らされていきます。イングランド王室の家庭が崩壊していく様子が感じ取れます。
「冬のライオン」の歴史的背景
冬のライオンの複雑な歴史的な背景をお話いたします。イングランド王室の話ですが、当時のイングランド王はフランス系でありフランスと深く関わりがあります。
ヘンリー2世もエレアノールもフランス人であった
ヘンリー2世は父はフランスのアンジュー伯ジョフロワで、母はイングランド王ウィリアム1世の孫マティルダですがウィリアム1世もフランス系のノルマン人です。
一方、エレアノール・ダキテーヌもフランスのアキテーヌ公ギョーム十世で広い領土を所有していおり、エレアノールが領土を受け継いでいました。(アンジューとアキテーヌの領土は先ほどの地図をご覧ください)
フランス王と離別してヘンリーと結婚
エレアノールは当初、フランス王ルイ七世と結婚し15年の結婚生活を送っていました。しかし、また信仰心強く学者的なルイ7世に対し自由奔放な恋愛をする家系で育ったエレアノールとの間も陰りが見え、二人の間には男の子が生まれなかったことからルイ7世は後継者問題に悩みついに結婚は無効だったとして離別させられました。
そこに現れたのが、エレアノールより11歳年下で18歳になる隣国アンジュー伯のヘンリーでした。ヘンリーは、がっしりとして大柄な体格で、肩幅が広く、腕は太く、胸は熱く、燃える弾丸のようにらんらんと輝く眼を持っており、野性的で激しい気性でした。このヘンリーの容姿や性格も映画ではうまく表現できていると思います。
またヘンリーは文人の誉れ高いアンジュー家だけあって高い教養と知性も兼ね備えていました。この二人は結婚し、エレアノールのアキテーヌとヘンリーのアンジューは統合され広大な領土となりました。
ヘンリーはイングランド王になる
ヘンリーは当時のイングランド王スティーヴンとその息子ユースタスと争っていました。ヘンリーはフランスのアンジュー伯ではありましたが、イングランド王ウィリアム1世の曾孫、ヘンリー1世の孫でありイングランド王を後継できる立場にありました。
ヘンリー軍はイングランドに上陸してスティーヴン軍と戦い圧倒的な強さで制し、次期イングランド王はヘンリーということで和解に調印しました。その後、スティーヴンとユースタスは病気や食中毒で亡くなり、アンジュー伯ヘンリーは1154年12月19日にイングランド王ヘンリー2世として戴冠しました。
結婚生活にも暗雲が
ヘンリー2世と王妃となったエレアノールは当初は幸せな結婚生活を続け、10年間に5男3女をもうけました。長男、次男は早世しましたが、三男はリチャード(後のイングランド王リチャード1世)、四男 ジェフリー、末っ子のジョン(後のイングランド王ジョン)と後継者にも恵まれました。
しかし、ジョンを懐妊したころから、ヘンリー2世はロザムンドという名の若い女性を熱愛するようになり年上のエレアノールを疎むようになりました。深く傷ついたエレアノールは子供たちを連れてイングランドを去り、自分の領土であるアキテーヌに移り住むようになりました。
エレアノールの反乱
エレノアールは、ルイ7世をバックに息子たち(次男若ヘンリー、三男リチャード、四男ジェフリー)を父に造反させて、1173年にヘンリー2世との間に戦争を起こしました。しかし、ヘンリー2世の勝利に終わり、エレノアールはイングランドに幽閉されてしまい、この幽閉生活は15年にも及びました。この幽閉生活の状況を映画にしたのが、「冬のライオン」です。
ヘンリー2世の息子たち
冬のライオンには出ていない次男若ヘンリー
映画には出ていませんが、次男の若ヘンリーはヘンリー2世の後継で共同君主となっていました。しかし、ヘンリー2世から実権は与えられずまたヘンリー2世のジョンへの偏愛ぶりから、母や弟たちと父へ反乱を起こしました。
その後、ヘンリー2世と和解しますが不仲は続き、リチャードとも関係は良くなく若ヘンリーはジェフリーと組んでリチャードと交戦しました。しかし1183年に熱病でなくなり、映画には登場していません。
三男リチャード(後のリチャード1世)
三男の リチャードは、母エレノアールから最も愛されていました。次男の若ヘンリー急逝後に後継者となりましたが、父ヘンリー2世からは後継者の代わりに所有していたアキテーヌを譲渡するように命じられ拒否し対抗しました。
またリチャードは婚約していたフィリップ2世の異母姉アリースと結婚しようとすると、アリースを愛人としていたヘンリー2世は拒否し、リチャードは父に敵対しました。兄弟のように育ったフィリップ2世とはとても仲が良かったようです。
※ヘンリー2世の死後にリチャードはリチャード1世としてイングランド王となり、十仁軍遠征では奪回まで至りませんでしたが大活躍をし獅子王と呼ばれました。リチャードはアリースとは結局結婚せず、ナヴァール王女と結婚しました。しかし、リチャード1世は男色が走り子供はできませんでした。
四男ジェフリー
ジェフリーは、兄弟と共に父に反乱を起こし、また若ヘンリーと共にリチャードとも争っています(これを考えると、映画の中ではほぼ皆と不仲になっていたようです)。イングランド王の継承者にはなっておらずブルターニュ公となりますが、1186年の馬上槍試合で負傷し死亡しました。
五男ジョン
末っ子のジョンは父ヘンリー2世から寵愛を受け、父は多くの領土をジョンに継がせようとしました。このため、兄弟達からは大きな反感を買いヘンリー2世との不仲の原因となりました。後に兄リチャード1世の死後にイングランド王となりますが、欠地王や失地王のあだ名がついています。
ヘンリー2世が兄弟達に領土を分配した際に、幼年のジョンに領土を与えなかったことから欠地王と呼ばれ、またイングランド王になってから両親のフランスにある領土の大半を失ったため失地王とも呼ばれています。
後にヨーロッパの祖母となったエレアノール
エレアノールはヘンリー2世が亡くなり幽閉生活から解放されたときには67歳になっていました。しかし彼女の健康も気力も衰えはなくリチャード1世を支えてアンジュー王国の中枢に君臨しました。
・リチャード1世が十字軍遠征に出かけると婚約者の手を引いてシチリアに出かけた
・71歳の時にリチャード1世がオーストラリアで拉致された時には多額の身代金を携え冬のアルプス越えを敢行し釈放に成功
・78歳の時にはピレネー山脈に挑み孫娘のカスティリア王女のブランカを連れて帰りルイ8世のもとに娶せた
と年齢を感じさせない活動をしました。エレアノールの子孫はイングランド王家だけでなく、ルイ8世とブランカを通してフランス王家にも広がってヨーロッパ中に根を張り、ヨーロッパの祖母と呼ばれるようになりました。
冬のライオン:最後に
「冬のライオン」の背景にはとても複雑な人間関係がありますね。この記事を読んである程度、歴史的な背景を理解してから映画を観ていただけると楽しめると思います。この記事が「冬のライオン」を観る上で、また歴史を知りたい方のお役に立てれば幸いです。
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