|
坂元 章 (お茶の水女子大学 大学院人間文化研究科助教授)
私は、もともと社会心理学を専攻しており、メディアの影響問題について研究してきました。今日は、社会心理学や心理学などの影響研究の動向について紹介します。
概要 <図1>
まず、この分野の研究動向についてのレビューをします。特に関心をお持ちの方が多いと思われる暴力の問題。そして、社会的不適応、認知能力、視力、体力の問題があります。これらは抄録に掲載されている文章と少し順番が違っていますのでご注意ください。
これらの研究は、せいぜい幼児、多くのものは児童期以降になされています。ここは「赤ちゃん学会」ですので、特に乳幼児を対象にした研究の重要性について最後に触れたいと思います。
暴力 <図2>
テレビやテレビゲームにおける暴力シーンが、暴力的な人格を形成するのではないかという問題が心配されています。暴力シーンが子どもに暴力を学習させている、と考えられ、大変問題視されています。例えば、暴力が良いことである、と学習させるということがあります。ヒーローが出てきて怪獣を倒して、「よかったなあ」「やったー」とたいていは思います。このように暴力が賞賛される価値観を学習させてしまうのではないかという問題です。また、問題解決の手段として暴力が有効なものであると学習させてしまう、あるいは暴力の手口を学習させてしまう、などが考えられています。
この問題について、特にテレビについて、アメリカでは大変膨大な研究がなされています。先のDonnerstein先生の招待講演は、それらの研究に基づくものでありましたが、全体的にいえば、悪影響という問題について肯定する立場にあるといえます。しかしながら、その悪影響につきましては、条件がいろいろあり、その条件によって影響は変動するともいわれています。例えば、暴力をふるう人物が魅力的である場合、ふるわれた暴力が賞賛されたり罰せられたりせずに正当化される場合など、その影響力が強くなるといわれています。また、もともと暴力性の強い人に対してのほうが影響は強い、周囲の人が暴力は良くないと介入をすることによって影響を低くすることができるといわれています。国際比較研究などから、子どものテレビ視聴に親が介入することは、日本は先進国の中で非常に低いレベルにあるといわれていますし、その影響も心配されますので、研究が必要になってくるでしょう。いずれにしても日本ではこの分野の研究が少なく、確たることがいえない状況にあります。
テレビゲームについてです。テレビと比較しますと、テレビゲームの研究は少なかったと思います。特に少し以前までは、悪影響を支持する結果がそれほど出ていないこともあり、あまり悪影響に肯定的ではなかったように私は認識をしていました。ところが最近は研究が随分増えてきて、悪影響を検出するような結果が出てきています。最近の研究者の考え方は、悪影響をかなり支持する方向にあると私は認識しています。特に、従来からの研究を統計的に処理して分析すると、最近の研究では影響が強く出ているという結果も出ています。最近のテレビゲームは、立体映像技術などが向上していますので、現実味が増しています。つまり、ゲームの中で展開されている世界と外側の世界が類似してきたために、テレビゲームの中で学習された暴力というものが、もっと外にでやすくなってきているのではないかという可能性が指摘されています。
|