働き方改革 何を目指すのかを示せ
安倍政権が1億総活躍プランの「本丸」と位置づける働き方改革の論議が本格的に始まる。内閣改造で「働き方改革担当相」を新設するなど政権は強い意欲を示すが、その目指すところは必ずしも明確になっていない。
課題に挙げられているのは、長時間労働の是正、同一労働同一賃金、テレワーク(在宅勤務)、高齢者雇用、残業代なしの成果主義賃金−−など多岐にわたっている。議論の方向性を示し、実現可能な改革に踏み出すことが肝要だ。
最近の政府の説明では、「介護離職ゼロ」「希望出生率1・8」を実現するために、個々の労働者の生活ニーズに合った柔軟な働き方の選択肢を増やすための改革だ。非正規社員の待遇を改善し、安心して結婚や子育てができる環境を作ることの重要性も強調する。
ただ、働き方の多様性を認め、非正規社員の待遇を改善するには、どこからか人件費の原資を確保しなければならない。生産性を高めて収益を上げることや正社員の給与を下げることを経営者は迫られるだろう。
一方、政府は企業の競争力を強くし国内総生産(GDP)を増やすことも重要な政策課題として位置づけている。だらだら残業する割に成果を上げられない働き方が規制改革会議などで強調され、残業代なしの成果主義賃金の導入、解雇の金銭解決などが検討されてきた経緯がある。これらは労組の強い反対などで実現していない。
この「非正規社員の待遇改善」と「企業の競争力強化」のどちらを政府は優先するのか。あるいは、両者を同時に実現しようというのであれば、その手順や実現可能な根拠をわかりやすく示すべきである。
日本型雇用は「終身雇用」「年功序列賃金」「新卒一括採用」などを特徴とする。こうした雇用慣行の下で、経営者は長時間の残業、突発的な出張や配置転換を強いることができる正社員を求め、正社員も雇用の安定と引き換えに受け入れてきた。長時間労働も残業代込みで生活費をまかなっている人が多いことから是としてきたのである。
こうした労使の依存関係が改革の足かせとなり、そのあおりを受けて非正規社員の賃金が低い水準に据え置かれてきたとも言える。
政府が掲げる「非正規社員の待遇改善」「企業の競争力強化」を実現するためには、こうした日本型雇用の改革に着手せざるを得ないだろう。経営者も正社員も厳しい対応が求められそうだ。しかし、これまで議論の枠外に置かれてきた非正規社員など立場の弱い人々を最優先した改革でなければならないだろう。