「レインズ」を一般開放せよ まかり通る仲介業者の「囲い込み」 マンション業界の秘密
マンション市場は、その主役が新築から中古に移りつつある。一度つくった住宅を50年以上使用することが基本であるアメリカやイギリスなどの先進国では、それが当たり前。日本もようやくそこまで追いついてきたということだ。
追いついていないのは、中古市場のマーケット環境である。
よく言われるのは「囲い込み」の問題。中古住宅の売却依頼を受けた仲介業者が、売りと買いの両方から手数料を得ることを目的に物件情報を外に出さない行為である。
これによって、売り手は広く買い手を見つけることができない。売買の成立が遅れる。高く買ってくれる買い手を見つけにくくなる。
一方、買い手は囲い込まれている物件を検討することができないので、選択肢が狭まる。
囲い込みによって利益を得るのは仲介業者だけである。こういう一般消費者を食い物にする商慣習が、不動産業界では常態化している。
この「囲い込み」は法律上禁止されているが、会社の大小にかかわらず堂々とやっている。この面だけを見れば、不動産業界は法治状態にない。
売却の依頼を受けて専任の媒介契約を結んだ不動産の仲介業者は、その物件情報を5日以内に、不動産流通機構が運営するレインズ(不動産流通標準情報システム)という情報サイトに登録しなければいけない。レインズは不動産業者なら誰でも見ることができる。しかし、一般人は見ることができない。
レインズに登録された物件の買い手は、どの不動産業者が見つけてもよいことになっている。もしその通りなら、顧客は数百万人にも及ぶはずだ。
しかし、買い手を案内したい業者が、物件を登録した業者に連絡を取っても「その物件は商談中」とか「すでに成約」と嘘を言って買い手の紹介を拒むのが「囲い込み」。こういう一般消費者の利益を無視した悪弊を一気に断ち切る方法がある。
それは「レインズの一般開放」。レインズに登録されている情報の種類は、ホームズやスーモなど一般の不動産ポータルサイトと変わらない。一般に開放しても、何の不都合もないはずだ。
仮に不都合があるとすれば、仲介業者が不当な利益を得る機会が激減する、というだけ。
あるいは、ホームズやスーモなど不動産ポータルサイトの存在意義がなくなる。世の中で売り出されているほぼすべての中古住宅の情報は、レインズを見ればわかるわけなので、他のサイトを見る必要がなくなる。
レインズというシステムは、一般消費者の利益を守っているようにみえて、まったく逆の役割を果たしている。仲介業者にのみ市場の情報を与えて、一般人に不利な取引を強いる温床となっているのだ。
先日、宅地建物取引業法が一部改正されて、仲介業者にはインスペクション(建物診断・検査)について何やら消極的な義務を果たせ、という条項が加えられた。
そういうことは、この業界を浄化する大目標から見れば枝葉末節。最も必要なのは、レインズの一般開放と言える。それで「囲い込み」は一気に“撲滅”できる。
■榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上携わる(www.sakakiatsushi.com)。著書に「年収300万円でも家が買える!」(WAVE出版)など多数。
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