24/28
第23話 インタビュー。(Side 和泉)
「では、和泉様は冬馬様の隣にかけて」
新聞部の部長さんに言われるまま、私は冬馬の隣に座った。
冬馬が目を細める。
意識すると、ただ隣りに座るというだけのことが恥ずかしい。
「まず、インタビューの前に写真を取らせてくれる? はい、もっと寄り添って」
「おう」
「ちょっと、冬馬! 肩を抱かないで下さい。やり過ぎです!」
「別にいいけど、これ、全校生徒に見られるからね?」
「ほら、離れて離れて」
「ちぇっ」
結局、少し間を狭めてから、二人で並んで座っている所を撮ってもらった。
「うん。いい出来だわ。じゃあ、早速インタビューさせて貰うわね」
「おう」
「あの、その前に――」
「なに? 和泉様」
「これ、何のインタビューなんですか?」
冬馬が待っているというからついてきたのだけれど、結局、何のインタビューなのかは聞いていない。
「言わなかったっけ? 百合ケ丘の注目カップルっていう記事を書くの。第一号は誰もが知ってる有名カップルである冬馬様と和泉様に決まりって訳」
「聞いてませんよ、そんなの!」
席を立って帰ろうとする私の手を、冬馬が引っ張った。
「冬馬!」
「いいじゃないか。減るもんでもなし」
「恥ずかしすぎます!」
「慣れろ。オレと一緒になったら、この程度のことは日常茶飯時になるぞ?」
「……ぐぅ」
確かにそうだろう。
冬馬は東城家の嫡男。
ひいては東城グループという大財閥を背負って立つ身だ。
冬馬の妻になるということは、彼を、そしてその後ろにある東城グループを支えていくということ。
頻繁に社交の場に出ることになるだろう。
それを考えれば、この程度のことは慣れておかねばなるまい。
「……分かりました」
「OK。じゃあ、最初の質問ね。二人はいつどこで知り合ったの?」
「一条のパーティーだな。中学生に上がったばかりの頃に、父から紹介された」
「元々冬馬のお父さんと私の祖父が懇意にしていて、ゆくゆくは私たち二人を、と口約束で婚約者扱いされていたんです」
「でも、会ったのはその日が初めて?」
「ああ」
「はい」
「お互いの第一印象は?」
「つまんないヤツ」
「怖い人」
「あれま」
これは本当のことだ。
和泉の記憶になるが、冬馬の第一印象は怖い人だった。
年齢にそぐわないほど聡く、言いたいことはずけずけといい、イヤなことはイヤと言う。
引っ込み思案だった和泉にとって、冬馬は接しにくい相手だったのだ。
「それじゃ、どうやってそこから仲良くなっていったの?」
「ナキと仁乃の存在が大きいな」
「そうですね」
「浪川 ナキ君と二条 仁乃さんね? ナキ君は冬馬様の、仁乃さんは和泉さんのそれぞれ幼なじみだったわね?」
「ああ。ナキはオレよりも人当たりがよくて、女の扱いが上手くてな」
「逆に仁乃はナキを毛嫌いしていて、よくケンカになりまして……」
「で、それを止めようと和泉が頑張って、何となく四人で行動するようになったって訳だ」
「なるほどね」
部長さんはノートパソコンに何やら打ち込んでいる。
きっと取材メモだろう。
「でも、その時点ではまだお互い、友だちっていう認識だったように聞こえるんだけど、異性として意識し始めたのはいつ頃?」
「オレは高校に上がってから。入学して最初のホームルームで、和泉が言ったぼっち宣言でやられた」
「ああ、あの有名な」
「ちょっと二人とも、その話はよして下さい」
私にとっては無かったことにしたい、黒歴史というやつだ。
「でも重要な所だから、詳しく聞かせて欲しいわ」
「それまでの和泉は、よく言えば理想のお嬢様、悪く言うとテンプレの量産型令嬢だったんだよ。それがいきなりあれだぜ? 何ごとかと思ったね。そっからはもうメロメロだ」
そう言って、視線を向けてくる冬馬。
気恥ずかしくなって、ちょっと下を向く。
「冬馬様ってちょっと変わってるわね。和泉様はどうだったの?」
「私は……もっと遅くて、去年の誘拐事件の後です」
「ああ……。あれは大変だったわね……」
「冬馬が命をかけて私を救ってくれて、それから少しずつ意識するようになっていた……と、今振り返ればそう思います」
「少し含みのある言い方だけど?」
「当時はそうは思っていませんでしたから。何となく気になるけど、これは別に恋じゃないって自分に言い聞かせていました」
「どうして」
「それは没ら――いえ、ノーコメントということで」
没落エンドが怖かったとは、口が裂けても言えまい。
「あら、残念。まあいいわ。次の質問。お互いの一番好きな所はどこ?」
「全部だ」
「全部です」
「ごちそうさま。でもダメ。一応、最初にそう答えたことは記事にも書くけど、やっぱり具体的なものが欲しいわ。何かない?」
部長さんはペンを器用にくるくる回しながら聞いてきた。
パソコンでメモをとっているのに、何でペンを持っているのだろう。
「そうだな……。強いて言えば、面白いところだ」
「面白い? 和泉様が?」
「ああ。何考えてるかちっとも分からん。時々本当に突拍子もないことしでかすしな」
「へえ、意外ね」
「私は……そうですね。一緒にいると安心できる所、でしょうか」
「こっちは割りと普通の答えね」
再びパソコンのキーを叩く部長さん。
「お互い、不満っていうか、これは改めて欲しいっていう所はある?」
「嫌な質問ですね」
「ごめんなさい。なければないでいいわ」
「オレ以外の男にモテすぎて困る。そこはマジでどうにかして欲しい」
「あらあら」
「私は別にモテませんよ。大体、モテるって言ったら、冬馬こそそうじゃないですか」
「オレはお前一筋って公言してるぞ。それに誠の件は? 本当にモテないか、お前?」
「! ……彼は……その……」
「別にいいんだけどな。誰が何を言おうと、和泉はオレのものって決まってるから」
口淀んだ私を笑い飛ばすように、冬馬はからりと笑った。
「ごちそうさま。和泉様は?」
「冬馬は色んな事に片っ端から手を出すので、いつか忙殺されて倒れないかが心配です」
「ああ……。この間も会社のことでちょっとあったものね」
「はい。冬馬は凄く優秀な人ですけれど、それでも人間ですから」
「大丈夫だって。オレ様を誰だと思ってるんだ?」
「冬馬ですよ」
「そうだ。オレ様に限って、そんなことには絶対にならない。安心しろ」
「これだから逆に不安になるんですよね」
「ふふ、苦労してるわね」
そんな感じでインタビューは進んだ。
「最後に、これから恋をしようとしている百合ケ丘生に一言どうぞ」
うーん……。
そんなこと言われてもねぇ……。
「若人よ、大いに恋せよ! 泣きながら笑いながら、理想のパートナーを見つけ出せ! 恋はいいぞ! 人生の全ての縮図がそこにある!」
「冬馬様らしいお言葉ありがとう」
そちらは、と部長さんが視線を向けてくる。
「恋愛はしなくても死にませんが、すると人生が華やかになります。支えてくれる人がいることの素敵さを、感じてもらえたらなと思います」
「二人ともありがとう。これでインタビューを終わります」
◆◇◆◇◆
「お疲れ様でした」
「お疲れ」
インタビューを受けた新聞部の部室からの帰り道、冬馬と私は二人ならんで歩いていた。
「あんな感じで良かったんでしょうか?」
「いいんじゃないか? 第一回目としちゃ、上出来だと思うぜ?」
冬馬は気楽に笑った。
「あれが全校生徒の目に触れると思うと、体温が二、三度上がる気がします」
「堂々としてればいいんだ。オレたちにケチつける度胸のあるヤツなんざそういない」
「はぁ……」
私はどっと疲れた。
「不満……ねえ……」
冬馬が呟くように言ったのを、私は聞き逃さなかった。
「何か?」
「いや、何でもねえよ」
部室棟と一般棟の分かれ道に来た。
「じゃあ、ここで。またな!」
「はい」
二人背を向けて歩き出す。
その背中に――。
――前の方が、お前面白かったかもな――
そんな呟きが聞こえた気がして、私は思わず振り返った。
冬馬はすでに角を曲がった後で姿は無かった。
私だけが、言い知れぬ不安を抱いたまま、その場に立ち尽くしていた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。