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悪役令嬢が妙に優しい。 作者:ねむり(旧いのり。)

第1章 高校2年生 1学期

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第16話 実力テストの結果。(Side 飛鳥)

 編入してから一週間が過ぎた。
 百合ケ丘での生活にもだいぶ慣れて、学校生活は概ね順調。
 順調すぎて怖いくらいだ。

「ふぁ……」

 あくびを噛み殺しつつ時計を見ると、五時十二分だった。
 向こう側の若葉ちゃんのベッドはもちろんもぬけの殻。
 もう朝練に行ったんだろう。

 若葉ちゃんはああ見えて根は真面目な子だから、練習にはきっと熱心だろうな。
 周りとの協調が苦手な子ではあるんだけど、仁乃とのあれ以来、なんとかやっていけてるらしい。

 軽音楽部には朝練はない。
 今はないというだけで、文化系の部活の晴れ舞台である学園祭前なんかはあるらしい。

 ボクもささっと着替えて身支度を整え、鍵をかけると部屋を後した。

 朝の食堂は結構すいている。
 部活の朝練がある子たちは、時間がずれるからだ。
 これがお昼になると、かなり混む。

 和泉やナキにはテーブルマナーを覚えた方がいいと言われたけど、何も朝からやる必要はないよね。
 今朝は和食にしよう、と決意して食券を買う。
 メニューは、

 色んな種類のお米が混じったご飯。
 味噌汁。
 焼き鮭。
 茶碗蒸し。
 野菜の盛り合わせ。
 お漬物。

 というシンプルな構成の和風A定食。
 使い慣れたお箸で頂く。

 うん。
 今日もとても美味しい。

 和泉によると、ここのスタッフさんは有名な料理店から引きぬかれた腕利き揃いらしい。
 もうこれは高校の学食っていうレベルじゃないよね。
 美味しいからいいけど。

 朝食を終えてから自分のクラスへ。

「おはよー」
「おはようございます、飛鳥」
「お、おはようございます」

 和泉と遥がすでに来ていた。

「何話してたの?」
「冬馬のことについて少し」
「け、今朝のニュースは見ました?」

 今朝のニュース?

「ボクたちの部屋、テレビないから。学食にはあるけど、今日は注意してなかったなあ」
「冬馬の家――東城系列のとある会社が、アメリカで脱税を指摘されたようで」
「え?」

 それって――?

「つ、追徴課税が結構な額になるらしいんです……」
「東城グループ全体から見れば些細なものですけど、グループのアメリカでのイメージダウンは避けられないでしょうね」

 よくわからないけど、それって大変なことなんじゃないの?

「それで、冬馬は?」
「今朝はまだ会っていません。おそらく、事件の対応に駆りだされているのでしょう」
「え? 冬馬、まだ学生だよね?」
「非公式ですが、冬馬はもう東城グループの立派な一戦力です。仕事の一部を任されているんですよ」
「ふえー」

 冬馬は勤労学生だったのか。

「おはよーさん」
「おはよう」

 ナキと嬉一が顔を出した。

「ナキ。冬馬は?」

 和泉がナキに訊いた。
 彼は冬馬のルームメイトだ。

「ずっと電話対応に追われとる。最悪、今日は欠席かもしれんなあ」
「あの歳で何万人ていう社員の将来に責任持たなきゃならんとは、いくら大将でもちっとキツイよな」
「今に始まったことではありませんけれどね」

 みんな、冬馬が心配なんだろう。
 空気が重たい。

「ボクたちに何か出来ることってあるのかなあ?」
「わ、私たちのような一般人では、とても……」
「無理やろ。世界が違いすぎるわ」
「でも、お嬢なら何か出来るんじゃねーの?」

 嬉一の発言に、みんなの視線が和泉に集まる。

「私個人は一条グループの経営には関わっていませんので、みなさんと同じく、出来ることはあまりありません」
「そっかあ」

 和泉でも無理なら、誰も冬馬の力になるなんて無理だ。

「でも、私の実家は間違いなくヘルプに入っていますので、この一件が即、東城に甚大な損失をもたらすということは避けられると思います」
「それなら、まだ安心なのかな?」

 一条家と東城家は日本を代表する大財閥だ。
 その二つの家が組んでことにあたるならば、よほどのことがない限り大丈夫な気がする。

 少しだけ明るい兆しが見えた所で予鈴が鳴り、ナキと嬉一は自分のクラスに戻っていった。


◆◇◆◇◆


 放課後、実力テストの結果が帰ってきた。
 総合の偏差値は71。
 悪くないんじゃないだろうか。

「飛鳥、どうだった?」

 佳代だ。

「悪く無いと思う」

 成績表を見せる。

「くっ……。分かってはいたけど、やるわね。とても敵わないわ」

 悔しそうに言う佳代も成績表を見せてくれた。
 偏差値は64だった。

「あ、でも国語すごい」

 科目別だけど、なんと75である。

「ええ。国語は満点だったわ」
「ひえー」
「佳代ちゃんは国語得意なの」
「さすがポエmもが」

 実梨に続いて幸が何か言おうとしたみたいだけど、佳代がその口を塞いだ。

 実梨と幸も総合の偏差値は佳代と同じ64だった。
 佳代は国語が突出して高くて、他は普通より少し出来るぐらい。
 実梨は全体が平均して高い。
 幸は出来のいい科目と悪い科目の差が激しくて、結果として二人と同じくらいだった。

「和泉は?」
「まぁまぁでした」

 成績表を見せてもらう。

「って、78!?」

 凄すぎる。

「これだからお姉様のまあまあは信用ならないんですのよ」
「そういう仁乃は?」

 仁乃のも見せてもらう。

「70かあ」
「もう一歩で飛鳥に追いつきましたわね。今回は負けましたけど、次は負けませんわ」
「ふふふ。次も勝たせてもらうよ? あ、遥はどうだった?」
「わ、私はけっこう頑張りました」

 68だった。

「冬馬様と和泉と仁乃がいるからあんまり目立たないけど、遥は頭いいのよ」
「私、遥さんに勝ったこと一度しかない」
「右に同じ」

 和泉はちょっと次元が違った。
 ボクのライバルはきっと仁乃と遥だろう。

「実力テストどうやった?」
「俺は今回ちょっと自信あるぜ!」

 嬉一とナキがやってきた。

「ナキは?」
「聞くな。わいは勉強あかんねや」
「でも、ナキはやる気を出すと凄いんですよ」

 和泉がそんなフォローを入れる。

「凄いってどれくらい?」
「一年生の時の一学期末テスト、ナキは二位でした」
「へー? 一位は?」
「当然、冬馬です」
「じゃあ、和泉は三位?」
「えっと……」

 和泉の目が泳いだ。

「くくっ。お嬢はその時十一位だったんだよ」
「え!?」
「色々あって、冬馬様がお姉様と賭けをしましたの。それに私たちが乗っかって――」

 仁乃が当時のことを簡単に説明してくれた。

「それでみんなでこの和泉を負かしちゃったの? みんなすごいや……」
「まあ、あの時は必死やったしな」

 和泉もきっと本気で勉強しただろうに、それに勝つなんてどんな努力をしたのやら。

「ところで、自信があるらしい嬉一は結果どうだったんですか?」
「や。お嬢にはさすがに敵わねーって。でも、悪くないぜ」

 ぴらっと成績表をみんなに晒す。

「60……ですか」
「ま、そんなものですわよね」
「嬉一だもん」
「えっと……?」
「平常運転」
「わ、悪く無いですね!」
「え? 何か反応うすくね?」

 みんなが嬉一に結果を教える。

「なんだよー! 今回は誰かに勝てると思ったのに!」
「まあまあ、次頑張ろうよ」
「うう……ありがとう、飛鳥……って、飛鳥! お前も敵だー!」
「あはは」

 嬉一はムードメーカーだなあ。

「この分だと、冬馬様に勝てる可能性があるのは、やっぱりお姉様だけですわね」
「ま、うすうす分かってたことよ」
「あの二人は別格ですから」
「天上界」
「す、凄いですよね」

 こうなると、冬馬の結果が気になるところだ。

 でも――。

 この日、冬馬は結局登校してこなかった。
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