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悪役令嬢が妙に優しい。 作者:ねむり(旧いのり。)

第1章 高校2年生 1学期

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第15話 弟と妹。(Side 和泉)

「あれ? キョウじゃん。あ。お嬢と姫さんもいる。俺もそこ一緒にいい?」
「やっほー、兄さんー」
「いいですよ。どうぞ」
「姫さんって私?」
「やったね」

 冴子様を部員に加えた後、正式に部活動の活動届けを提出し、そのまま三人で夕食を取っていると、通りかかった嬉一が加わった。

「お嬢と姫さんから見て、キョウはどう?」
「まだ今日お会いしたばかりですからなんとも。独特のテンポを持った方だとは思いますけれど……」
「ねえ、嬉一君、その姫さんっていうのやめて。私、そんなの柄じゃないわ」
「またまた。姫さんはどう見たって姫さんじゃん」
「兄さんは空気が読めないからー」
「んだと!?」

 嬉一が恭也のこめかみをグリグリする。

「痛いー」
「全然、痛そうじゃないわね」
「嬉一君、やめましょうよ」
「お嬢に免じて許してやろう。以後は兄をもっと敬うように」
「分かったー」

 全然、分かったようには見えないのだけれど。

「おっと、番号出た。ちょっと取ってくるわ」

 嬉一が席を立った。

「恭也くんから見て、嬉一くんはどうなんですか?」
「僕から見た兄さんですかー?」
「ええ」
「残念な隠れヤンキーですねー」

 ぬぼーっとした雰囲気なのに意外と辛辣だ。

「あ、沙耶! 沙耶もこっち来なさいよ。一緒に食べましょう」

 沙耶と呼ばれた子はちょっぴりぽちゃっとした感じの可愛らしい子だった。
 よく見ると冴子様とよく似ている。
 ただ、どことなく全体的に陰がある印象だ。

 沙耶ちゃんは冴子様に呼び止められたことに気づくと、一瞬、凄く嫌そうな顔をしてから、しぶしぶこちらにやって来た。

「……お邪魔します」
「紹介するわ。妹の沙耶。世界で一番かわいい私の妹よ」
「やめてよ、姉さん」

 そうか、この子が。

「二年B組、一条 和泉です。よろしくお願いします」
「一年A組、木戸 恭也ー。よろしくー」
「知ってます。二人とも有名ですから」

 あれ?
 何か嫌われてる?

「もう。沙耶ったら仏頂面しないの。かわいい顔が台無しじゃない」
「……私、可愛くないし」
「え? 可愛いじゃん」

 と言ったのは、料理を取って戻ってきた嬉一。

「だれだれ? どこの子? 俺、二年の木戸 嬉一。キョウの兄貴ね」
「……」

 沙耶は一瞬、びっくりしたような顔をしてから、

「一年A組の西園寺 沙耶です」
「沙耶ちゃんか。キョウと同じクラスなんだ? キョウのこともよろしくな」
「……はあ……」

 沙耶ちゃんは、どうも嬉一みたいなタイプは苦手と見える。
 何ともやりにくそうにしながら、ちまちま料理を食べている。

「嬉一君はわかってるわね! そうよ、沙耶は世界一可愛いのよ!」
「可愛いな! ぬいぐるみみたいな可愛さだ!」
「……ちょっと……本当に勘弁して下さい……」

 ちょっと変なテンションになっている冴子様と嬉一の様子に、沙耶ちゃんがかなり迷惑そうな顔をしている。
 薄々感づいていたけれど、冴子様ってシスコンだったんだ。
 神楽様のことを、どうこう言えないレベルだ。

「二人とも落ち着いて下さい。沙耶ちゃんが嫌がっています」
「兄さんも冴子先輩もー、空気が読めないー」

 いや、キミもあんまり空気読めてないと思うよ、恭也くん。

「あらいけない。私としたことが、つい」
「ごめんな、沙耶ちゃん」
「……いえ」

 我に返った様子の冴子様と嬉一。
 沙耶ちゃんは気まずそうだ。

「そういえば、恭也君、新入生代表だったわね? 優秀なのね」
「それはなんですか。俺の弟なのにとかいう遠回しな嫌がらせですか」
「はいー。兄よりはー、まー」
「お前も否定しろよ!」

 この兄弟は、本当に似ていない。
 いいコンビではあるようだが。

「でも、恭也君、油断しちゃダメよ? そのうち沙耶が追い抜いちゃうから」
「……」

 冴子様がそう言った瞬間、沙耶ちゃんの表情に痛みが走ったのを、私は見逃さなかった。

「そら無理ってもんすよ、姫さん。姫さんの妹が相手じゃあ、キョウが太刀打ち出来る訳ねーわ」
「……」

 対する恭也の方は別に気にした様子もなく、淡々と料理を口に運んでいる。

「沙耶ちゃんは部活どこに入るつもりですか?」

 雲行きが怪しくなりそうだったので、話題転換を試みる。

「軽音楽部です」
「あぁ、じゃあ、飛鳥と同じですね。もう会ったでしょうか? 浅川 飛鳥という子なんですけれど」
「はい。ちょっとだけお話ししました」
「沙耶ちゃんから見て、飛鳥はどうですか? 軽音楽部に上手く馴染めそうですか?」
「……分かりません」

 まあ、それもそうか。
 沙耶ちゃんは新入部員な訳だし、まだ部の雰囲気とかもつかめていないでしょうし。

「ただ……」
「ただ?」
「私、あの人、嫌いです」

 おっと。
 これは何か地雷を踏んでしまったのかしら。

「何? その子、沙耶に何かしたの?」
「別に……」
「んじゃあ、何が気に障ったんだよ?」
「……」
「兄さん、冴子先輩もー……めっ」
「えっ? あ……」
「わりぃ……」

 何か詰問っぽくなってしまっていることを、二人も自覚したようだ。

「……沙耶ー」
「?」
「お互い、苦労するねー」
「……」

 恭也は多分、変な年上の兄姉がいることの苦労を共感したかったのだと思う。
 でも――。

「あなたと一緒にしないで下さい!」

 そう言って、沙耶ちゃんは席を立ってしまった。

「ちょっと、沙耶!?」

 その後を、冴子様が慌てて追いかける。
 嬉一は何が起こったかよく把握できずにおろおろしている。

 私は何となく察したけれど、何かが出来る訳でもない。

「お、和泉か」
「冬馬……」

 食堂にやって来た冬馬たちは大所帯だった。
 他に仁乃と飛鳥、それにもう一人知らない長身の女の子を連れていた。

「そいつは若林 若葉。飛鳥のルームメイトで、陸上部のホープだ」
「おい、王子。アタシを変な風に紹介するのはやめろよ」

 心底嫌そうな顔で若葉ちゃんはそう言った。

「冬馬たちはこれからご飯ですか?」
「ああ。親睦会を兼ねてな。そっちはなんか変な雰囲気だけど、何かあったか?」
「あったというか、なかったというか……」

 今の出来事をどう説明したものか。

 恭也は、

「前途多難ー」

 と、やはりのんびりとした調子で一人呟いた。
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