1/28
第0話 新しい始まり。(Side 飛鳥)
※本作品は「悪役令嬢はぼっちになりたい。」(http://ncode.syosetu.com/n9415co/)の続編です。
本作をお読みになる前に、前作をお読みになることを強くおすすめします。
――おばあちゃん、このメガネずいぶんボロボロだね。
――そうだねぇ。
――あたらしいのかわないの?。
――そうもいかないのよ。
――どうして?
――いいかい、飛鳥。これはね、魔法の眼鏡なのよ。
ボクはそこで目を覚ました。
まだ慣れないベッドから身体を起こすと、目に映るのはこれまた見慣れない部屋。
ボクはチェストの上に置いてあった眼鏡をかけた。
視界が一気にクリアになる。
壁の洋服掛けには、新品の制服がかかってる。
ダークグレーのブレザーに、白いチェックの入った同色のプリーツスカート。
リボンタイの色は赤。
全体的に清楚で上品さが感じられるデザイン。
そうだ。
ボクは今日から百合ケ丘生になるんだったっけ。
良家の子女が集う名門、百合ケ丘学園。
ボクは今日から特待生としてその一員になる。
上手くやっていけるといいんだけど。
それにしても、随分と懐かしい夢を見たなあ。
あれはまだボクが小学生の頃の出来事だ。
おばあちゃんの眼鏡のフレームが随分と年季が入っていて、取り替えないのかと訊いたら、ああ言われた。
そうしておばあちゃんは、一つの童話を教えてくれた。
それは一人の子どもと妖精の物語だった。
とある子どもがある日古ぼけた眼鏡を拾う。
するとどこからともなく、小さな妖精が現れる。
妖精はこれは素敵なものが見える魔法の眼鏡だと言う。
でも、子どもには特別なものは何も見えない。
壊れてると言う子どもと、壊れてなんかいないと言う妖精。
二人は言い合いになって――というのがお話のはじまり。
よくおばあちゃんが寝物語に聞かせてくれたっけ。
そのおばあちゃんは、もういない。
中学生に上がったと同時に亡くなっちゃった。
ボクはおばあちゃんっ子だったから、大泣きしたっけ。
この眼鏡のフレームは、おばあちゃんの形見。
別に魔法のことを信じているわけじゃないけれど、大切なモノなんだ。
お父さんやお母さんはどうしてるかな。
……きっと、どうもしてない。
いつものとおり顔を合わせればケンカして、いつものとおりボクのことなんて……。
やめよう。
何のために百合ケ丘に来たんだ。
ボクはここからやり直すって決めたんだから。
お父さんもお母さんも、もう関係ない。
「んー……」
部屋の反対側のベッドで、若葉ちゃんが寝ている。
昨日はちょっと怖かったなあ。
◆◇◆◇◆
「初めまして。浅川 飛鳥です」
「……チッ」
どうしよう。
舌打ちされちゃったよ。
ボクのルームメイトになったのは、1年生の子だった。
百合ケ丘の寮は基本的に同学年同士で使うらしいんだけど、たまに奇数になって数合わせが必要になるんだって。
で、見事それになったのがボクとこの子だった。
「……若林 若葉」
心底面倒くさそうに、若葉ちゃんはそう名乗った。
「若葉ちゃんかあ。可愛い名前だね」
「あ? なめてんのか? ぶっとばすぞ」
「ごめんなさい」
速攻で謝った。
うわあ……年下なのに、怖い子だ。
「アタシはアタシ。アンタはアンタ。お互い必要以上に干渉しない。それでいいな?」
「えー。ボクは出来れば仲良くなりたいなあ」
「……うぜぇ」
今度は心底嫌そうに顔をしかめる若葉ちゃん。
「背、高いね。なんセンチ?」
「どーでもいいだろ」
「ボクは157cmなんだ。若葉ちゃんくらいとまで贅沢は言わないけど、もっと伸びないかなあ」
「……でかくたって、いいことなんかなんもねえよ」
「そうかなあ? 背が高い女の人って格好いいじゃない」
「……ふん」
ボクの言葉に、若葉ちゃんは少し照れたように顔を背けた。
「……だせぇ眼鏡」
「あ。若葉ちゃん、センスない」
「あぁん!?」
「これはね、魔法の眼鏡なんだから」
「……頭わいてんのか?」
「あはは。ボクもよく知らないんだけどね。素敵なものが見えるって、おばあちゃんの受け売り」
「そのババア、ボケてんじゃねえの?」
「失礼な。おばあちゃんは亡くなるまで、シャキッとしてました」
「……もういねぇのか」
「うん。ボクが中学生に上がった頃にね」
「……ふーん」
若葉ちゃんは気まずそうにしている。
「もう3年も前のことだから、気にしないで」
「! 誰が気にしてるっつった!?」
「ごめんなさい」
「チッ……。っとに、むかつくヤツ……」
若葉ちゃんは何やら苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「良かった。ボクたち上手くやっていけそうだね!」
「あぁ!? どこがだよ!?」
「だって初日からこんなに仲良く喋ってるし」
「仲良かねぇ! アタシはストレスでハゲそうだ!」
「そういえば、髪、短いねえ? ……え、本当に?」
若葉ちゃんは少し茶色の入ったベリーショートだ。
「んなわけねーだろ! これは走るのに邪魔だから短くしてんだよ!」
「へー。陸上部?」
「そーだよ。悪いか」
「ううん。凄く似合ってる」
「……チッ」
また顔を背けられちゃった。
若葉ちゃんは、褒められるのが苦手みたい。
「おい、アンタ」
「飛鳥」
「……アンタ」
「あーすーか!」
「……おい」
若葉ちゃんが怖い顔をして迫ってきた。
あ、あれ?
「あんまり馴れ馴れしくすんな。でないと痛い目に遭うぜ?」
「そ、そうなんだ?」
「アタシは女もいける口だ。分かるよな?」
「あー、うん……でも……」
「あん?」
「若葉ちゃん、多分そんなことしないでしょ?」
「……誘ってんのか?」
「そうじゃなくて」
「んじゃあ、なんだよ」
「性的指向って、あくまでその人の一部分じゃない? 普通のヘテロセクシュアルの人だって、普段いつも欲情しているわけじゃないでしょ?」
「……」
若葉ちゃんが本当にバイセクシュアルだったとして、だからって性的指向の部分ばっかり見るのは、何か違うもん。
「それに」
「?」
「多分、ボクみたいなのは、若葉ちゃんの好みじゃない」
「……そーだよ。そのとおりだよ。あーちくしょう」
若葉ちゃんは毒気を抜かれたように身体を引いて、自分のベッドに突っ伏した。
「……やりにくい」
「あはは。そのうち慣れるよ。で、ボクの呼び方は?」
「アンタで十分だ。名前で呼んで欲しけりゃ、アタシにアンタを認めさせるこったな」
「わかった。一ヶ月くらいでいけるかな?」
「ぜってー、呼んでやらねぇ」
◆◇◆◇◆
若葉ちゃんはキツめの美人さんだけど、寝顔はあどけなくて可愛いなあ。
なんて、微笑ましく眺めていると――。
ぱちっと目を覚ました若葉ちゃんと目があった。
「何見てんだコラァー!!」
「ご、ごめんなさい」
その後、怒り(と、多分、恥ずかしさ)心頭の若葉ちゃんをどうにかなだめて、制服に着替えた。
姿見に映る自分の姿は、正直、嫌いだ。
自分の容姿が好きだっていう人もあんまりいないと思うけど、ボクは特に浮いているから。
全体的に色素が薄い。
髪も銀髪……なんていいものじゃなく白髪。
赤い瞳はまるでお化けみたいだ。
この容姿のせいで……やめよう。
「はあ……」
「んだよ、朝から辛気くせー」
「あ。ごめんね」
「そのすぐ謝んの、癖なのか? やめろよな」
「ごめん……あ」
「……ったく、わざとじゃねーだろーな?」
ぶつぶつと言いながらドレッサーに向かって短い髪を整える若葉ちゃん。
「そういえば……若葉ちゃんはボクの容姿について何にも言わなかったね」
「褒め称えろってか? 自意識過剰なんじゃねえの?」
「いや、そうじゃなくって」
「……ま、珍しいのかもしれねーけど、別に取って食われるわけでもなし、いいんじゃねーの?」
「……ふふふ」
「んだよ」
「ううん。なんでもない」
やっぱり、若葉ちゃんはいい子だ。
「ニヤニヤ笑ってんじゃねー!」
「ごめんなさい」
ちょっぴり怖いけど、根はいい子なんだよね。
うん。
知ってた。
だってこの子は、主人公のルームメイトなんだから。
お読み下さってありがとうございます。
ブックマーク・ご評価・ご感想をお待ちしております。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。