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悪役令嬢が妙に優しい。 作者:ねむり(旧いのり。)

プロローグ 高校1年生 春休み

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第0話 新しい始まり。(Side 飛鳥)

※本作品は「悪役令嬢はぼっちになりたい。」(http://ncode.syosetu.com/n9415co/)の続編です。
 本作をお読みになる前に、前作をお読みになることを強くおすすめします。
 ――おばあちゃん、このメガネずいぶんボロボロだね。

 ――そうだねぇ。

 ――あたらしいのかわないの?。

 ――そうもいかないのよ。

 ――どうして?

 ――いいかい、飛鳥(あすか)。これはね、魔法の眼鏡なのよ。



 ボクはそこで目を覚ました。

 まだ慣れないベッドから身体を起こすと、目に映るのはこれまた見慣れない部屋。
 ボクはチェストの上に置いてあった眼鏡をかけた。
 視界が一気にクリアになる。

 壁の洋服掛けには、新品の制服がかかってる。

 ダークグレーのブレザーに、白いチェックの入った同色のプリーツスカート。
 リボンタイの色は赤。
 全体的に清楚で上品さが感じられるデザイン。

 そうだ。
 ボクは今日から百合ケ丘生になるんだったっけ。

 良家の子女が集う名門、百合ケ丘学園。
 ボクは今日から特待生としてその一員になる。

 上手くやっていけるといいんだけど。

 それにしても、随分と懐かしい夢を見たなあ。
 あれはまだボクが小学生の頃の出来事だ。

 おばあちゃんの眼鏡のフレームが随分と年季が入っていて、取り替えないのかと訊いたら、ああ言われた。
 そうしておばあちゃんは、一つの童話を教えてくれた。

 それは一人の子どもと妖精の物語だった。

 とある子どもがある日古ぼけた眼鏡を拾う。
 するとどこからともなく、小さな妖精が現れる。
 妖精はこれは素敵なものが見える魔法の眼鏡だと言う。
 でも、子どもには特別なものは何も見えない。
 壊れてると言う子どもと、壊れてなんかいないと言う妖精。
 二人は言い合いになって――というのがお話のはじまり。

 よくおばあちゃんが寝物語に聞かせてくれたっけ。

 そのおばあちゃんは、もういない。
 中学生に上がったと同時に亡くなっちゃった。
 ボクはおばあちゃんっ子だったから、大泣きしたっけ。

 この眼鏡のフレームは、おばあちゃんの形見。
 別に魔法のことを信じているわけじゃないけれど、大切なモノなんだ。

 お父さんやお母さんはどうしてるかな。
 ……きっと、どうもしてない。
 いつものとおり顔を合わせればケンカして、いつものとおりボクのことなんて……。

 やめよう。

 何のために百合ケ丘に来たんだ。
 ボクはここからやり直すって決めたんだから。
 お父さんもお母さんも、もう関係ない。

「んー……」

 部屋の反対側のベッドで、若葉(わかば)ちゃんが寝ている。

 昨日はちょっと怖かったなあ。

◆◇◆◇◆


「初めまして。浅川(あさかわ) 飛鳥です」
「……チッ」

 どうしよう。
 舌打ちされちゃったよ。

 ボクのルームメイトになったのは、1年生の子だった。
 百合ケ丘の寮は基本的に同学年同士で使うらしいんだけど、たまに奇数になって数合わせが必要になるんだって。
 で、見事それになったのがボクとこの子だった。

「……若林(わかばやし) 若葉」

 心底面倒くさそうに、若葉ちゃんはそう名乗った。

「若葉ちゃんかあ。可愛い名前だね」
「あ? なめてんのか? ぶっとばすぞ」
「ごめんなさい」

 速攻で謝った。
 うわあ……年下なのに、怖い子だ。

「アタシはアタシ。アンタはアンタ。お互い必要以上に干渉しない。それでいいな?」
「えー。ボクは出来れば仲良くなりたいなあ」
「……うぜぇ」

 今度は心底嫌そうに顔をしかめる若葉ちゃん。

「背、高いね。なんセンチ?」
「どーでもいいだろ」
「ボクは157cmなんだ。若葉ちゃんくらいとまで贅沢は言わないけど、もっと伸びないかなあ」
「……でかくたって、いいことなんかなんもねえよ」
「そうかなあ? 背が高い女の人って格好いいじゃない」
「……ふん」

 ボクの言葉に、若葉ちゃんは少し照れたように顔を背けた。

「……だせぇ眼鏡」
「あ。若葉ちゃん、センスない」
「あぁん!?」
「これはね、魔法の眼鏡なんだから」
「……頭わいてんのか?」
「あはは。ボクもよく知らないんだけどね。素敵なものが見えるって、おばあちゃんの受け売り」
「そのババア、ボケてんじゃねえの?」
「失礼な。おばあちゃんは亡くなるまで、シャキッとしてました」
「……もういねぇのか」
「うん。ボクが中学生に上がった頃にね」
「……ふーん」

 若葉ちゃんは気まずそうにしている。

「もう3年も前のことだから、気にしないで」
「! 誰が気にしてるっつった!?」
「ごめんなさい」
「チッ……。っとに、むかつくヤツ……」

 若葉ちゃんは何やら苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「良かった。ボクたち上手くやっていけそうだね!」
「あぁ!? どこがだよ!?」
「だって初日からこんなに仲良く喋ってるし」
「仲良かねぇ! アタシはストレスでハゲそうだ!」
「そういえば、髪、短いねえ? ……え、本当に?」

 若葉ちゃんは少し茶色の入ったベリーショートだ。

「んなわけねーだろ! これは走るのに邪魔だから短くしてんだよ!」
「へー。陸上部?」
「そーだよ。悪いか」
「ううん。凄く似合ってる」
「……チッ」

 また顔を背けられちゃった。
 若葉ちゃんは、褒められるのが苦手みたい。

「おい、アンタ」
「飛鳥」
「……アンタ」
「あーすーか!」
「……おい」

 若葉ちゃんが怖い顔をして迫ってきた。
 あ、あれ?

「あんまり馴れ馴れしくすんな。でないと痛い目に遭うぜ?」
「そ、そうなんだ?」
「アタシは女も()()()()だ。分かるよな?」
「あー、うん……でも……」
「あん?」
「若葉ちゃん、多分そんなことしないでしょ?」
「……誘ってんのか?」
「そうじゃなくて」
「んじゃあ、なんだよ」
「性的指向って、あくまでその人の一部分じゃない? 普通のヘテロセクシュアルの人だって、普段いつも欲情しているわけじゃないでしょ?」
「……」

 若葉ちゃんが本当にバイセクシュアルだったとして、だからって性的指向の部分ばっかり見るのは、何か違うもん。

「それに」
「?」
「多分、ボクみたいなのは、若葉ちゃんの好みじゃない」
「……そーだよ。そのとおりだよ。あーちくしょう」

 若葉ちゃんは毒気を抜かれたように身体を引いて、自分のベッドに突っ伏した。

「……やりにくい」
「あはは。そのうち慣れるよ。で、ボクの呼び方は?」
「アンタで十分だ。名前で呼んで欲しけりゃ、アタシにアンタを認めさせるこったな」
「わかった。一ヶ月くらいでいけるかな?」
「ぜってー、呼んでやらねぇ」


◆◇◆◇◆


 若葉ちゃんはキツめの美人さんだけど、寝顔はあどけなくて可愛いなあ。
 なんて、微笑ましく眺めていると――。

 ぱちっと目を覚ました若葉ちゃんと目があった。

「何見てんだコラァー!!」
「ご、ごめんなさい」

 その後、怒り(と、多分、恥ずかしさ)心頭の若葉ちゃんをどうにかなだめて、制服に着替えた。

 姿見に映る自分の姿は、正直、嫌いだ。
 自分の容姿が好きだっていう人もあんまりいないと思うけど、ボクは特に浮いているから。

 全体的に色素が薄い。
 髪も銀髪……なんていいものじゃなく白髪。
 赤い瞳はまるでお化けみたいだ。
 この容姿のせいで……やめよう。

「はあ……」
「んだよ、朝から辛気くせー」
「あ。ごめんね」
「そのすぐ謝んの、癖なのか? やめろよな」
「ごめん……あ」
「……ったく、わざとじゃねーだろーな?」

 ぶつぶつと言いながらドレッサーに向かって短い髪を整える若葉ちゃん。

「そういえば……若葉ちゃんはボクの容姿について何にも言わなかったね」
「褒め称えろってか? 自意識過剰なんじゃねえの?」
「いや、そうじゃなくって」
「……ま、珍しいのかもしれねーけど、別に取って食われるわけでもなし、いいんじゃねーの?」
「……ふふふ」
「んだよ」
「ううん。なんでもない」

 やっぱり、若葉ちゃんはいい子だ。

「ニヤニヤ笑ってんじゃねー!」
「ごめんなさい」

 ちょっぴり怖いけど、根はいい子なんだよね。

 うん。

 ()()()()

 だってこの子は、()()()()ルームメイトなんだから。
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