「ねむれ思い子 空のしとねに」

ねむれ思い子 空のしとねに [DVD]

友人の栗栖直也さんが、6年(!)の歳月をかけてほぼ一人で作り上げたオリジナルCGアニメーションが遂にリリース! 早速拝見致しました。(作品サイト

まず冒頭の景観の美しさにグッと惹き込まれてしまいました。

ワタシの口癖ですが、CGにとって一番しんどいのは自然や日常の何気ない風景の再現です。車窓から見える町に雲の切れ間から降り注ぐ陽光や、溢れかえる商品に充溢したコンビニの店内、こういったものを一つ一つ作り上げていく大変さを知ってるCG屋としては、何はさておきそういう背景描写の美しさに真っ先に惹かれてしまうんです。一般的な鑑賞者目線からはズレてるかもしれませんが、こうした丁寧な景観描写があればこそ物語の世界観にも感情移入していけようというもの。
(物語作品を観賞する際、CGかセルかなどは言うに及ばず、アニメか実写か小説かマンガか舞台か、なんてことも本質的に二の次でイイ話だと思っちゃいるんですが、CGアニメだけはどうしても「作る側」CG屋としての仕事目線で見に行ってしまうんですよね…)

やがてお話の舞台は地球の衛星軌道上に浮かぶ宇宙ステーションへ移っていきます。
しかしまぁ、このステーション内の作り込み描写がまたハンパない! 先ほど「CGは自然や日常の景観こそ大変」と書きましたが、じゃあその分宇宙ステーションで楽してるかというと全ッ然! 擬似窓にわざわざ春夏秋冬自然味溢れる地上の景観をプロジェクションしたり、無重力ブース一杯に蔓草がはびこってたり、床一面紫陽花の咲き誇る栽培室?があったり。本作は脚本も制作も栗栖さんご本人ですが、もし私が制作サイドでしたら、この脚本見せられたらまずライターの首を5分ほど締め上げた後2階の窓から両足持って室外に吊るすでしょうね~w

さてこうした背景に立つ(時には浮かぶ)キャラクター達はというと、『文使』以来の“栗栖ワールド”を担う独特のシェーディング技法によって描かれた個性的なスタイル。セル・シェーディングとは異なり適度な濃淡が乗っかった肌合いと、萌え系とは一線を画すリアル寄りなキャラクターデザインがマッチして世界観を構成しています。
主人公の織音ちゃんにしても、決して「絵に描いたような美人」じゃありません(^^; ごくごく一般的な市井の人、弱さダメさを抱えて人生踏み外しかけてるような、「僕らのこっち側」にいる女の子です。
(じゃあSF的な意匠の「あっち側」に居るのは、、、まぁそれは本編ご覧になって下さい。)

以前『文使』について栗栖さんとお話しした時、忘れられないやりとりがありました。
「悲劇的な悲恋モノにしなかったのは何故?(その方がグッと来るのに~、というワタシのドSな人非人根性が言外に含まれてたのは間違いありません(^^;)」とお尋ねしましたら、「そんな可哀そうなこと出来ませんよ」といったお答えが返ってきまして、他人の悲劇を窃視したがるこちらの下衆さに甚く恥じ入ったものです。
ただ正直に言うと私は今でも、作家が自らの登場人物に感情移入して彼らに情けをかけてしまうことには功罪両面があるだろうな、と思っていて、そしておそらく自分が何らかのフィクションを描く立場に立ったら、栗栖さんとは対極的な、ひどく残酷なことでもやっちまうだろうな~、という恐怖感があったりします。

そのことを裏返せば、「あの栗栖さんが作られてるからには、決して織音や母里美に対しても惨たらしい仕打ちはしないだろう」という安心感を持って観賞していたのですが、今回はなかなかにハードな描写も多かったですね。

しかしながらこうした前売りの先入観をもって作品鑑賞することが好ましいやり方なのかどうかは自分でも悩ましいところです。多少極端な言い方すると、私は作品を通して作家が世界をどの角度からどのように見てるか、ていうことにしか本質的に興味持ってないようなので、出来れば個々の作品には頭ん中真っ白にした状態で向き合いたいんですが、歳食えば食うほどだんだんそれが難しくなってくるのがジレンマですねぇ。

とはいえ私とはある意味正反対な視座から世界を切り取る栗栖さんの作品世界には、いつも何かしら感じ入るところがあります。
本作に関していえば、人の親でもある栗栖さんと、次世代を遺す可能性最早≒0な私の“差分”の在処について、色々と思い思わされたり致しましたとさ。。。

うーん…それにしても、6年かぁ!
それにこれだけのものを創るには安からぬお金だって掛かってるでしょう。モノづくりをする者、時間やら予算やらの言い訳は通用しないのだなぁ。よーしワシもまだまだ頑張ろう!という勇気半分、これほどの熱意と意志力がワシにあるだろうかと思うと慄き桃の木ビビリ半分(^^;;

あと、何もお手伝いしておりませんのにわざわざエンドロールに名前載せていただき恐縮至極、ありがとうございました!m(_ _)m

ねむれ思い子 空のしとねに DVD

「ねむれ思い子 空のしとねに」」への1件のフィードバック

  1. @Kawagen
    「うーん…それにしても、6年かぁ!それにこれだけのものを創るには安からぬお金だって掛かってるでしょう。モノづくりをする者、時間やら予算やらの言い訳は通用しないのだなぁ。」 – うしがまろびて http://t.co/V9Lu0OFvzn #ねむれ思い子空のしとねに
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