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アフリカの成長を支え取り込もう

2016/8/27付
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 日本とアフリカ諸国の首脳や経営者が一堂に会し、アフリカ開発の課題や協力策を話し合う「第6回アフリカ開発会議(TICAD6)」が今日から、ケニアの首都ナイロビで開かれる。

 豊かな人口と資源を持つアフリカは、大きな可能性を秘めた「最後のフロンティア」だ。日本はアフリカの持続的な成長をどう支え、取り込んでいくのか。改めて考える機会にしたい。

経済の多角化が急務

 1993年に東京で第1回を開いたTICADは、6回目の今回、初めてアフリカで開く。紛争や飢餓に苦しんできた「暗黒大陸」は2000年代に入ると成長の軌道に乗った。新興国の資源需要の増加に伴う資源価格上昇が足がかりとなったのは間違いない。

 今回は資源ブームが一段落した中での開催となる。資源価格の下落により、経済を資源輸出に頼る国は苦境に陥った。アフリカの自立への機運を失速させてはならない。産業を育て、経済を多角化する構造改革を急がねばならない。

 日本はこの分野で積極的な役割を果たしたい。貧困解消や教育の充実など、政府や非政府組織(NGO)による援助は引き続き大切だ。同時にアフリカが求めるのは自立を後押しする貿易や投資だ。それには企業の役割が大きい。

 アフリカでは生活水準の向上に伴い、巨大な消費市場が出現しつつある。TICAD6に出席する安倍晋三首相には今回、70以上の企業・大学の首脳や幹部が同行する。アフリカ市場への強い期待の表れといえる。

 アフリカには54の国がある。12億人の人口は40年に20億人を超えて中国やインドを上回る。一国では小さくても複数の国をあわせた経済圏で見れば市場は広がる。広域で開発を進める視点が必要だ。

 アフリカ諸国も地域経済圏づくりに取り組んでいる。ケニアやタンザニアなど東部の5カ国で構成する東アフリカ共同体(EAC)や、南アフリカやアンゴラなど南部15カ国で構成する南部アフリカ開発共同体(SADC)は自由貿易地域をスタートさせている。

 日本は投資協定をモザンビークと締結し、ケニアとは実質合意した。個別の国との貿易・投資環境の整備に加え、EACやSADCなど、地域経済共同体との経済連携協定(EPA)の締結を考えることも必要だろう。

 日本はEACとの間で、国境での輸出入手続きや税関業務を効率化して域内物流を改善する支援を続けている。こうした経済圏づくりへの協力を広げていくべきだ。

 国をまたがるインフラの整備も重要だ。経団連のサブサハラ地域委員長を務めるコマツの野路国夫会長は「発電所でつくる電気を周辺国に融通したり、内陸国と沿岸国をつなぐ物流網を整備したりすることが、アフリカ全体の底上げにつながる」と言う。

 13年に横浜市で開いた前回のTICAD5で、日本政府は広域開発を重点的に支援する10カ所を選んだ。その一つであるモザンビーク北部では、三井物産がブラジルの資源大手ヴァーレと炭鉱や鉄道、港湾を開発・運営し、日本政府がモザンビークやブラジル政府と沿線の農業開発で協力するなどの連携が具体化しつつある。

広域開発で官民連携を

 アフリカ市場をめぐる国際競争は激しさを増している。日本が中国などと、政府開発援助(ODA)の額で競うのは限界がある。企業では負担の重い港湾や道路の整備や、貿易・投資環境の改善を政府が受け持ち、企業が工場や発電所を建て、雇用を生み出す。経済援助の規模を競うのではなく、官と民の効果的な連携の質を高めることを日本は目指すべきだ。

 イスラム過激派によるテロはアフリカにも広がる。ソマリアや南スーダンでは内乱が続く。西アフリカに広がったエボラ出血熱はほぼ終息したとはいえ、アフリカの保健・衛生環境は依然として脆弱だ。アフリカにはまだまだ多くの課題がある。

 若者が過激思想に引き寄せられないようにするには教育や職業訓練の場を整え、雇用創出や生活水準の向上など社会の安定に向けた粘り強い取り組みが必要だ。日本ができることはたくさんある。

 ただし、テロや感染症の対策は日本だけで解決できる問題ではない。TICADは日本とアフリカ諸国だけでなく、国連や世界銀行など国際機関が共催する。日本のための会議にするのでなく、アフリカの課題を広く議論する場として育てていくことがTICADの重みを増し、ひいては日本の存在感を高めることになるはずだ。

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